第730話 すべてがおわって

「あ……」


 私は自分が寝ていた事に気がついた。

 フワリとした布の上に寝ていて、なんだか懐かしい匂いがした。

 誰かのお膝に頭を乗せて寝ていた。


「目が覚めた?」


 誰かが私の髪を撫でて言った。

 ここは祭壇の上のようだ。祭壇にある柱に寄りかかって誰かが座っている。私はその人のお膝に頭を乗せて寝ていたらしい。

 誰だろう……グッと頭を動かして顔を見る。


「ママ?」


 びっくりして私は飛び起きた。

 私はママのお膝に頭を乗せて寝ていたのだ。


「ごめんなさい、ノア」


 起きた私を抱き寄せてママが言った。


「どうして?」

「リーダ……様に怒られちゃった」


 涙目でママが言った。

 チラリとママの顔を見ると微笑んで嬉しそうだった。


「リーダが?」

「ノアに会いに行きなさーい……って、怒られちゃった」

「え?」

「リーダがレイネアンナを助けたのよぉ」


 トコトコと私に近づいたロンロが言った。

 リーダが、ママを助けた? 会いに行きなさいって言った?

 私はリーダに言わなかったのに。ママに会いたいって言わなかったのに。

 リーダは知っていたんだ。

 私がママに会いたい事を。


「おぉ、目覚めたでござるか」


 オークの戦士に戻ったハロルドが近づいて言った。


「ハロルド、呪いは?」

「ふむ。そちらにおられるご母堂様に解いて貰ったでござるよ」

「完全な解呪ではないから、また戻ってしまうけれどね」


 ハロルドの呪いを解けるなんて、やっぱりママは凄い。

 よく見ると、周りの景色はすっかり変わっていた。

 祭壇の壁は壊れて、そこから外が見えた。祭壇の外は、何も無かったはずなのに、木が一杯生えていた。魔物はどこにもいなかった。

 夜だったのに、またお昼になっていた。

 風が良い匂いを運んできた。そして空は真っ青で綺麗だった。


「魔物が草木に化けたですゾ」

「凄い音がして、雲が吹き飛んだでゴンス」


 キョロキョロと辺りを見回す私に、キンダッタ様とマンチョ様が近づいてきて言った。


「お嬢様!」


 チッキーが駆け寄ってきた。

 ピッキーにトッキーも。


「パリンって空が割れてお昼になりました」

「流れ星が凄かったです」

「地震が沢山起こったでち」


 皆が口々に不思議な事を言った。

 他にも巨人が出たり、光の柱が輝いたらしい。

 沢山の不思議。

 でも、私は誰がやったのかを知っている。

 きっとリーダが何かやって、それで奇跡が起きたのだ。


「魔神も、魔王もいなくなって、平和になったに違いない」


 ゆっくりと近づいてきたお爺ちゃんがお髭を撫でながら言った。


「さて、後はリーダ様達が戻られれば万事めでたしですね」


 ファラハ様が近くに立って言った。

 私は知っている。

 リーダ達はもう居ない。わかってしまった。ずっと感じていたつながりが無くなっている。

 皆、元の場所に戻ったのだろう。


「うん……」


 でも、私は皆がいない事を言わない。


「どこにいようとも探すだけでござるよ」


 ハロルドが言った。

 そうだ。

 遠くに行っても、テストゥネル様は手紙を渡せると言った。

 私は足下を見る。

 皆で作った積層魔法陣は、焦げたよう黒ずんでいた。

 壊れているのかもしれない。

 でも、問題無い。

 とりあえず手紙を送ろう。

 そして、もう一度魔法を使って、リーダに会うのだ。

 壊れていたら勉強して治せばいい。


「困ったときは、笑顔になって、周りを見て、何が出来るか考える」


 私は呟く。リーダが教えてくれた方法を呟く。


「何か言った?」

「ううん。何でも無いのママ」


 私はフルフルと首を振った。


「ふむ、クローヴィス殿は早速探しているようでござるな」


 ハロルドが空を見上げて言う。

 遠くの空に、フラフラと飛ぶクローヴィスが見えた。


「うん。負けていられないね」


 私はできる限りの笑顔で言った。

 空はすっごく青くて、どこまでも綺麗に続いていた。


                  ―― 完 ――

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