第三十四章 途方も無い企み
第702話 こんらんのなかで
「プレイン」
ミズキが、プレインのいた方に向かってつぶやく。
「こうなることは予想できていたはずだぞ」
俯いたままサムソンが、誰へとなく言った。
確かにその通りだ。
命約数がゼロになり、オレ達がこの世界から帰還するということは予想できていた。
予想はできていたが、いざその場面に立ち会うと、自分は覚悟できていなかったと痛感する。
どうしたものか。
「リーダ……」
ノアが呟くようにオレに対し声をかける。
「大丈夫だよ、ノア」
オレは微笑みそう答えるのが精一杯だった。
「思えば、夜もふけてまいりました。もうお休みしましょう」
オレに声をかけた後俯いたままのノアに対し、ハイエルフの双子がスッと近づき声をかけた。
しばらく黙っていたノアだったが双子に諭されるように席をそっとたち、彼女たちに押されるように部屋から出て行く。
「チッキー達も、今日はお休みしましょう」
双子は部屋から出る直前に獣人3人にも声をかけた。
チッキートッキーピッキーも、双子の言葉に頷いて部屋から出て行く。
「拙者も、食べ終わったゆえ、ちと外で瞑想してくるでござる」
続けてハロルドも静かに部屋から出て行った。
みんなの心遣いが嬉しかった。
「さて、これから、どうするかだぞ」
サムソンがそう話を切り出す。
「どうするって?」
「究極を超える究極はまだまだ時間がかかる。おそらくパソコンの魔法を作り直すにしても最低1年は必要だ。そこから先、究極を超える究極の転記にはさらに時間がかかる。さっき、自分の命約数を見たが、あと残り1。皆も見といた方がいいと思うぞ」
サムソンが淡々と現状について説明する。
確かに究極を超える究極は、現実的ではない魔法陣を書く必要が現場ある。
こうして見ると、時間的な制約が多すぎることに気がつく。
むしろ、何もできていない。
「でも、命約数が0でなければ……」
「いつ0になるかわからない。それに、俺が命約数が残り1だということであって、カガミ氏やミズキ氏が、どうなのかはわからない。これから人数が減っていけば、パソコンの魔法を強化するためのリソースが減っていくことになる」
サムソンの言うことは正論だ。正直、オレは自分の命約数を、ここ最近見ていない。
怖くて見ていなかったのだ。
だがもうそうは言っていられない。
体は軽くなっていない。
だから、命約はまだ残っているはずだ。
「だったらどうするの」
ミズキが、苛立ちを露わにサムソンに詰め寄る。
「残りの時間を考えて、半年で実行可能な作業に時間を割り当てるべきだ」
「実行可能って?」
「ノアちゃんのために、空飛ぶ屋敷を作ること。それから魔導具だ。出来る限りお金を用意して、呪いの不快感を中和する魔導具を生産しておく」
「じゃあ、私たちは?」
「それは……」
ミズキが攻撃的になってサムソンへ質問する。
彼女の気持ちはわからなくもないが、サムソンが悪いわけでではない。サムソンは、この現状を誰よりも冷静に語っているだけだ。
「あの、提案なんですけど」
苛立ったミズキに押されて、サムソンが言い淀んだ時に、カガミがスッと手を上げた。
「カガミ?」
「ここは私が片付けるので、一旦は解散しませんか? 焦った状況で、議論しても、いいことはないと思います。思いません?」
カガミがそう言ってじっとミズキを見つめた。
見つめられたミズキは、さっと視線を落とし「ごめん」と小さく呟く。
そして、一旦解散し、各々がこれからのことを考えてまた明日話し合うことになった。
よく分からないまま部屋にもどる。
『ギシッ』
ベッドの軋む音を聞いて、自分が部屋に戻って、ゴロンとベッドに寝転んだことに気がついた。
そのくらい茫然自失で動いていた。
いつもと同じように寝転んだのに、ベッドの軋む音が妙にはっきりと聞こえた気がした。
看破の魔法を起動して手のひらを見つめる。
「残り2か……」
命約数は残り2だった。
すぐに、命約が尽きるということは無いだろう。
だが、ミズキやカガミはどうだろうか。どちらにしろサムソンの言った通りだ。
同僚達は、やがて次々と帰還することになるだろう。もちろん、いずれオレも帰還する。
減っていくリソースの中で、今まで通りのんびりとはできない。
いや急いだとしても、究極を超える究極を実現するに足りる時間が確保できるとは限らない。
むしろ間に合わない可能性の方が遙かに高い。
「まいったな」
結局のところオレは、いろんなことを後回しにしていて、何もできていなかった。
こんなことならば、もっと熱心に究極を超える究極のために行動すべきだったのかもしれない。
でも今となっては全てが手遅れだ。
いろいろな事を考えた。ここに来てからの事、来るまでの事。ノアと過ごした日々と、冒険の数々。魔法についてなど様々な事を考えた。
どうしても寝ることができずに、部屋から出た。
特にあてもなく屋敷をふらふらと歩く。
「うう」
誰かの部屋から嗚咽する声が漏れた。
だけど、オレはそれに対しどうすることもできず屋敷をうろつくだけだった。
一体どれぐらい歩いたのだろうか、少しだけ辺りは明るくなっていた。
「もう……朝か」
ほんのりと光に照らされた廊下を見て自嘲気味に呟く。
思えばこの屋敷でも色々なことがあった。
そういえばこの辺りだったな。
チッキーがご機嫌な様子で歩いていて、何があったのだろうかと聞いてみたら、オレとハロルドについて語り出したんだよな。
それで、オレとハロルドは同じレベルだって、ミズキがチッキーに語ったって話を聞いて……。
あいつは何てこと言ってやがるんだって……。
同じレベルって。
「あっ」
オレはそこまで考えて小さく声を上げた。
笑みがこぼれる。
とんでもないことを思いついた。
できるのかできないのか。
自問自答していく。ちょっとした思い付きを整理し、検討していく。まるでパズルが頭の中でカタカタと組み上がるように、いろいろなパーツが組み上がる。
考えれば考えるほど、オレの思いつきは実現可能ではないかと確信に近づく。
最初は微笑み程度だったオレの笑みは、自分でも抑えきれないほどのニヤニヤ笑いに変わっていた。
世界中を振り回す思いつき。
とんでもない思いつき。
だけどオレは、これにかけようと思った。
「みんな起きろ!」
そして、オレは、次の瞬間、そう叫んでいた。
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