第703話 ぎろん

「究極を超える究極に挑もう」


 日がまだ上がりきらない時間、オレは大声で皆を起こし、広間に集めそう宣言した。


「挑むって、リーダ。少し前に言っただろう。今のままでは1億を超える枚数の積層魔法陣になるんだぞ」

「あぁ、それでもいい」

「それでもいいって」

「魔法の究極の時みたいに、人にお願いするんだ。あの時よりも、沢山の人に、頭を下げて、お金を積んで、聖女の行進の時のように1万人いれば、その半分でもいれば、1年かければ、1億枚を超える魔法陣だって現実的な数になる」

「人に頼る? あてでもあるのか?」

「町にあるギルドを頼る。それからお隣さんだ。カロンロダニアに、バルカンにも。神官にだって頼んでもいい」


 たとえ一億枚を超える魔法陣であっても、人海戦術でなんとかなるはずなのだ。

 手順さえ間違わなければ、一つ一つの魔法陣の積み重ねだ。

 お金は黄金郷で手に入れた黄金が沢山ある。味方になってくれそうな人も沢山いる。

 後は頭を下げて、できるだけ協力してもらえればいい。


「人にお願いする……」


 オレの言葉に反応してノアが呟く。


「魔力はどうする? 究極を超える究極は、他の魔法よりも段違いに魔力を消費する。効率化の出来ていない積層魔法陣だ。魔法陣の枚数だけじゃなくて魔力の消費だってロスが大きくなるんだぞ」


 サムソンは呟くノアをちらりと見て、質問を投げかける。


「月を使う」


 魔力についても考えている。

 オレは自分の思いつくまま答えを口にする。


「月って?」

「魔神が作り出す月だ。魔神の心臓であり、魔力の塊である第二の月だ。確か資料にあった……万が一の事を考えて魔神が作り出す第二の心臓とも言える月は、外部からの干渉を受けやすくできていると」


 そう。先日に見学へいった超巨大ゴーレムだって魔神の月を当てにしていたのだ。

 オレ達が究極を超える究極のために、利用することだってできるはずだ。


「いや、復活はまだまだ先だというぞ」

「本当ならそうだが、早めることができると言っていた人がいただろ?」

「あの……主様とかいう人ですか?」


 カガミの問いに頷き肯定する。あの時、主様と言われている得体の知れない人物は確かに言っていた。早める事ができると。あれだけ気軽にいろいろ物をくれるんだ。魔神の復活を早めることだって聞いてくれるはずだ。


「でもリーダ。望み通りに魔神を復活させたとして……魔神の心臓をどうやってコントロールするんですか」

「魔法の究極を使う。魔法の究極によって、魔神の作る月のコントロール権を奪い取る」

「いや待てよリーダ。別の資料にはモルススの王様が魔神の月を盗んだとあったはずだぞ。本当に魔神が復活したときに月が発生するのか?」

「それに、月を奪われた魔神は暴れ狂うとも資料にあった気がします。コントロール権を奪ったとしても襲われてしまったら、魔神と戦う方法がないかと思います。思いません?」


 サムソンとカガミが各々の疑問を口にする。

 ふたつの違う質問の解決方法は一つの方法で回答できる。


「だから、ス・スを復活させる」

「え?」


 鉄槌の魔法陣で、魔神は自我を取り戻したと思う。

 それは、何かの資料で読んだ事だ。いや夢の中の話だったか。どちらでもいい。

 ともかくあの鉄槌の事件によって、魔神の自我を奪っていた極光魔法陣は廃棄された。

 であれば、魔神はス・スを攻撃するはずだ。

 オレはどこかでそれを知った。出所なんてどうでもいい。今はその可能性が高いということだけで。


「つまりリーダ、お前は魔神とス・スを喧嘩させて、その隙をついて、月のコントロール権を魔法の究極で奪い取って、究極を超える究極を実行しようと考えているわけか?」

「そういうことだ。魔神とス・ス、ラスボスと裏ボス、そんな同レベルの二人を戦わせて、その隙に第二の月を奪い取る。後は究極を超える究極で、ジャンジャカと願いを叶えたい放題ってわけだ」

「いや、それは無理だろ」

「理由は?」

「仮定に仮定を積み重ねすぎだ。ス・スって本当に強いのか? 魔神の復活を本当に早めることができるのか? 月のコントロールができるのか? 他にも問題あるだろ」

「それでも可能性が高いと思う。オレは可能性があるならそれに挑みたい。もし魔神が復活するのであれば、その場に立ち会っていたい。これから大災害が起こるっていうのに、ノアや皆を残して行きたくはない」


 サムソンは現実的に考えていると思う。

 それが間違いだとは決して思わない。多分、冷静になって考えれば彼の方が正しいのだと思う。

 だけど、オレは後悔したくなかった。

 ノアを残して、元の世界に戻って、魔神復活の時に自分がいない状況は耐えられない。

 チャンスがあるのであれば、可能性があれば、それにかけたい。


「私は、リーダの作戦に乗りたい」


 ミズキが、小声で、だけれどはっきりとした声で言った。


「ミズキ氏」

「私も、リーダがそれを望むのであれば、協力したいと思います」

「カガミ氏まで」

「私も」


 ミズキに続いてカガミとノアが賛同してくれた。


「分かった。時間をくれ。リーダの案を前提に少し考える。せめて、信託の魔法か、魔法の究極で、確認した上で判断したい」


 周りを見渡したあと、サムソンが絞り出すような声で言った。


「じゃあ、それで問題ない」

「だったらリーダ、まだ朝というにも早すぎです。人にお願いするにあたっても、まだ誰も起きていないと思います。それに、リーダも少し休んだ方がいいと思います。きっと気付いていないと思いますけど、酷い顔です。計画については私たちが詰めておきますので、リーダは少しだけ休んでください」


 カガミに指摘されて、オレはほとんど寝ていないことに気がつく。

 小さく頷くノアを見て、オレの顔は結構ひどい状況なのだろう。

 確かに、あまりにも顔色が悪い状況で頼んで回るのはまずい。


「了解。少しだけ休むよ」

「えぇ。休んでください」


 促され、自室に戻ったオレは気が楽になっていた。

 完全とはいえないまでも、自らの計画を話し、賛同を得られたことに満足して、ベッドに横になった。横になると同時、オレは気を失うように、眠りについた。

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