第691話 あたらしいともだち
ギリアに戻ってから、もうすぐ1ヶ月。その間はずっと平和な日々が続く。
メインの行動としては、究極を超えた究極の魔法を作り込んでいく。
開発は計画通り順調に進んでいた。
他にも、神殿を通じて各地に依頼をかけた古い資料が、ようやく届くようになってきた。
紙束、書物、木片。資料は大きさも媒体も様々だ。そして中身も。
あまりにも数が多いので、同僚と手分けして読んでいる。
もう目的がはっきりしているから後回しでもいいかと思ったりもしたが、一応はサッと目を通すことにした。
世の中、何があるかわからない。情報は、貪欲に収集しよう。そう判断した。
とはいえ、ほとんどが商会の帳簿や、手紙の束、財産の目録、そのようなものばかりだった。魔法に関する書類など、オレ達の興味を引くものは珍しかった。
せいぜい料理のレシピくらいだろうか。
料理以外には、興味を引くものがなかったというわけではない。
歴史が垣間見える文書などは気になって読み込んでしまうし、それは同僚達も同様で、話題にもよく上がる。
「デイアブロイの心臓ともいえる第2の月を隠し、自我を奪う魔法仕掛けたのって、モルススの王様ス・スという人らしいです」
今日も昼食中、カガミがパンをちぎりながら、いつものように歴史の話を切り出した。
「やっぱりモルススの側だったか。俺が今日みたのは、その自我を奪う魔法を何とかして見つけ出し破壊することで、デイアブロイを仲間にするという計画を立てていたって内容だったぞ」
サムソンの言葉に、頷く。オレが今日読んだ資料にも同じ内容があった。
だけど、カガミの報告は新しい内容だった。
そして、ようやく事情が飲み込めた。いままでは、自我を奪う魔法の解除についてばかりだったからな。誰が自我を奪ったのかまではわからなかったのだ。
大体予想はしていたが、はっきりと答えを知るというのは大事だ。
「ボクが今日読んだのは、魔神が復活した話をまとめた本だったっス」
「それも良くあるよね」
「そうっスね。流し読みしたんスけど、3度目の復活ってあったっス」
「確か……次に復活したら7度目なんだっけ?」
ミズキの言葉に頷く。
次が7度目の復活で、言い伝えでは最終決戦にあたるらしい。
つまり次に魔神を打ち倒すことができれば、魔神は滅び、世界は平和になるということだ。
言い伝えが正しければの話だが……。
自我を奪われたデイアブロイ……つまり魔神にかかる資料もよく見つかる。
そして資料を読むことで、魔神の戦いは世界中に大きな傷跡を残すことが改めてわかった。
魔神は配下の魔王を操り、魔王はさらに魔物を呼ぶといった感じで、世界規模の大災害を起こすのだ。
前にスプリキト魔法大学で読んだのは、魔神と戦った勇者の軍の話だったが、庶民視点では見え方が大きく違っていた。
そこには勇ましさなどまったくなく恐怖と絶望ばかりだった。
だけど、歴史にはもっと酷い話もあった。それは、魔神の出現よりもさらに昔、モルススのばらまいた病原菌の話だ。
「ちなみに、ミズキが今日読んだのは、どんな内容だったんだ?」
「いや。病原菌の話……途中でポイしちゃった」
その話ばかりは、話題にあげる者はもういない。最初の一度だけでお腹いっぱいになるほど、キツい内容なのだ。
モルススは獣人を初めとした人間以外の種族を絶滅したかったらしい。彼らのみがかかる病気の菌を次々作り出してばらまいていた。
それがもたらす被害は、どれもこれもが悲惨なものばかりだった。
歴史以外で、話題にあがるのは多種多様な魔法の話だ。もっともこちらは黒本ほどの重要性はなく、このような魔法もあるのだなと感心する程度の内容だった。
それからアーハガルタで見つけた黒本についても色々調べた。こちらについては何点かの基礎魔法陣が乗っていた。それからデイアブロイについての本もあった。何十冊にも渡る研究記録類は、黒く焦げた部分が多く満足に読めないので放置だ。
そんなわけで開発と、資料収集は順調に進んでいた。
順調な開発の日々、今日も同じだ。
いつものように割り当てられた部分のプログラムをポチポチと作る。
だけど、その日はちょっとだけ違った。
「みてみて、リーダ!」
一休みしようと、外へ出たオレを見つけたノアが叫ぶように言った。
「なんだい」
軽く手をあげノアに近づいていく。
近づくオレに、大きく笑うとノアは手に持った何かを空へ投げた。
よく見るとそれはカロメーだった。
すると屋敷の屋根から、一羽の大きな鳥がばさりと羽音を響かせ飛び上がり、ノアの投げ上げたカロメーをパクリと食べた。
「だいぶ懐いたね」
「うん。さっきは食べたあと宙返りしてくれたよ」
アーハガルタから戻る途中で、屈服の魔道具を使ってペットにしたロック鳥だったが、人前では餌を食べなかった。カロメーを置いて、隠れて様子を見ると食べてくれたので問題はなさそうだったが、やはりというか当然というか、警戒されていた。
屈服の魔道具は、使い手の命令を聞くようにはなるが、懐くような代物ではなかったのだ。
だけど、ようやく懐いてくれたらしい。
その後、ノアが追加で投げたカロメーを空中で食べると、ロック鳥は屋敷の屋根にとまり、キョロキョロとあたりを見回して飛び立った。
「あとは海亀と……あとモッフィもだ! リーダ、またあとでね!」
オレが飛んでいるロック鳥を眺めていると、ノアがそう言って、カーバンクルを引き連れ厩舎へとかけていく。
楽しそうで何よりだ。元気なノアを見ると疲れが吹き飛ぶ。
「魔法の究極がうまくいけばよかったんだがな」
元気なノアをみて、思わず言葉がもれた。
レイネアンナと再会させられなかったことを悔やんだ。
結局のところ、魔法の究極を使い、レイネアンナを呼び寄せる試みは失敗したのだ。
魔法自体は成功しているが、結果は出なかった。オレがこの地に止まれなかった時と同様に、上手くいかない特殊な事情があるようだ。
こうなったら究極を超えた究極に期待するしかない。
とはいえ、これもまだまだ先の話になりそうだ。動くプログラムについては完成の目処が立っているが、それは基礎魔方陣をフル活用したもので、現実的ではない分量になる。
「やれやれ。先は長いよな」
空からこちらを見ていたロック鳥に聞かせるように、オレは苦笑いしてぼやいた。
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