第三十二章 病の王国モルスス、その首都アーハガルタにて

第665話 じょうほう

 究極を越えた究極、その実験は成功した。

 成功したとは言っても、ごくごく簡単な実験。最初の第一歩に過ぎない。

 でも、それでも、最初の一歩が成功したことには変わりない。


「とりあえず、こういった方針で進めたいという考えがあるんだが……」


 実験が成功した夜の事だ。

 さて寝ようかなと広間を出たところで、サムソンから相談したいことがあると声をかけられた。究極を超えた究極の開発についてだという。


「了解」


 2つ返事で了承する。魔法の究極、それも究極を超える究極は最優先だ。

 それから彼の部屋で大雑把な計画についての話を聞くことにした。

 メンバーはオレとサムソンの二人だけ。まだ、計画のまとまりが無いせいだ。

 つまり思いつき程度の計画。

 それを2人で話ながら、実行可能で具体的な行程に落とし込む。

 まずは、どのような魔法を作るのか、あらためて確認する。


「魔導具に貯めた魔力を使って、究極を超えた究極の魔法を実行する。願いを術者から受け取り、それを叶える……貯めた魔力が尽きるか術者が中断を宣言するまで、それを繰り返す」


 サムソンはよどみなくそう答えた。

 必ず実装しないとならない要件は、とどのつまり魔法の究極と同じだ。

 願いを聞き、聞いた願いを叶える。それは魔力が尽きるまで続く。

 それだけだ。

 術者では無く、魔導具で貯めた魔力を使うという機能は、必ず実装しないといけない。

 究極を超えた究極は、小石を赤くするだけで、オレの魔力の大半を持って行かれた。

 だから術者の魔力だけでは無理だと判断し、外部から魔力を持ってくる方式にするのは絶対だ。

 そして、その前提で、どう作るのかを考えていく。


「まず……動くものを作らないとな。理想は後で考えていこう」

「そうだな」


 サムソンからは、魔力消費を少なくしたいなどの理想も聞く。

 やりたい事が沢山あっても全ては採用できない。まずは動く物を作る事からはじめる。

 サムソンとの話し合いは、結局夜通し続いた。

 朝日が昇る頃、方針が定まった。

 超巨大魔法陣をプログラムに変換したものをベースにする。

 サムソンは一から作り直したいと言っていたが反対した。

 つくるのは巨大なプログラムであり魔法陣だ。一から作る事は、要する時間を考えても、許容できない。

 そしてベースとなる物はあっても油断はしない。

 最初の話し合いから数日後、ようやくまとまった案を他の同僚達に伝える。

 そこからは、ひたすら開発の日々。

 やる事が定まり続く平和な日々を、ほとんど究極を超えた究極のために費やした。

 いつもと違うのは、ミズキの発見くらいだ。


「ちょっとさ、皆にも見て欲しい物があるんだけど」


 そう言って彼女が皆を案内したのは、飛行島。

 土台はゲオルニクスの手助けもあって、すでに修理が完了し、上の家部分についても、簡単な修繕を終えている。そんな飛行島。


「何かあるのか?」

「ほら、音が出るようになったじゃん。アレをここで使ったら究極を超える魔法について話をしてるんだよ」


 そう言って、ミズキが物尋ねの魔法を使う。

 前に地下室で使った時と同じように、魔導具である幽霊劇場を置いた状態で物尋ねの魔法を使う。

 すると、随分昔に見た時と同じ立体映像が辺りに広がる。

 狼の頭をした獣人達が飛行島で遊んでいる風景だ。


「じぃじ」

「せんせー」


 まるで、側に居るように、獣人の子供がオレ達の側を走り抜ける。

 本を片手に指示を出している人は、ずいぶんと子供達に懐かれているようだ。

 何かを運ぶ動作をしている大人の獣人が「あんまりウルクフラ様の邪魔をしてはいけないよ」などと笑いながら言ったりしている。

 ところが魔法の究極についての話が出てこない。


「ミズキ……」

「シッ、あと少し」


 それは、もうすぐ立体映像が終わるとオレがミズキに声をかけようとしたときだった。


「父上。デイアブロイの自我を奪う極光魔法陣を特定しました。後は魔力です。魔力さえあればデイアブロイをモルススから解放するだけではなく、奴らに、ギリ・アに、鉄槌を……サフォア湖上空のラザローも粉砕できます」


 立体映像が終わる直前の事だった。本を手にしていた獣人の後に立った人がそう言った。

 姿が少しだけしか見えない。立体映像で見ることができるギリギリといった立ち位置だ。

 音声がなければ、存在に気がつかなかった。


「星落としか。ではノストリオの杖を使えば良い。究極を越え、我らを勝利に導く魔法陣よりも、デイアブロイの解放を優先すべきだ」


 本を手に指示をだしていたウルクフラは、パタンと本を閉じる。

 そして映像は終わった。


「究極を超え、我らを勝利に導く……とか言ってたっスね。あと、ノス……なんとかの杖?」

「ノストリオだ」


 プレインの言葉に、サムソンが断言するように続ける。


「そのノストリオの杖ってのを知っているのか?」

「いや、杖は知らないが、ノストリオという言葉は知っているぞ。究極を超える究極の設計図にあった。3つの塊のうち、2つめの事だ……ノストリオ魔法陣と名付けてあった。そして外部の魔力を使う作りだった……おそらく、そのノストリオの杖にある魔力を使うつもりだったと思うぞ」


 飛行島で見る立体映像の終わりにあった小さなやり取り。

 鉄槌、杖、星落とし、極光魔法陣。4つのキーワードから、オレ達がこの世界に来てすぐの出来事を思い出す。降り積もった雪を吹き飛ばした魔法だ。

 大量の魔力が詰まった杖。ギリアの町に落ちかけていた巨大な光球。

 ノストリオの杖というのは、あのとき破壊した杖……そうであれば当初は究極を超えた究極に、あの杖へ貯めてあった魔力を使おうとしていたのか。

 ところが優先して対処したい事があったので、そちらに流用した。

 デイアブロイの解放とか言っていた。あの鉄槌の事件によって、極光魔法陣は天から引き剥がされたはずだ。だったら……。

 ほんの少しだけのやり取りだったが、予想外に有益な情報だったようだ。


「リーダ達は相変わらず面白い事をやっているのね」


 そして、立体映像を見ていた人間は、オレ達の他にもいた。

 振り返ると、そこには柔やかに笑うミランダがいた。

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