第604話 きんいろのしま

 急接近する巨大な飛行島。

 未知の存在に警戒し、皆で広間に集まることにした。

 ただし、サムソンだけは、2階の操縦席にこもった。


「皆! 部屋に集まれ!」


 2階にいたサムソンが怒鳴るように警戒の声をあげた。


「大丈夫だ、集まってる」

「向こうの方が速度が速い。何かに掴まれ」


 速度をあげたようだ。ビリビリとした振動を全身に感じる。

 直後、ガクンガクンと上下に大きく飛行島が揺れた。


『バリッ……バリィ』


 それからほどなく頭上から大きな音がした。木の板が割れる音だ。

 2階にいるサムソンが心配になる。


「サムソン?」


 カガミが大きな声でサムソンを呼んだ。


「大丈夫だ。屋根が吹き飛ばされただけだ。なんとかよけた」


 よけた? 攻撃?

 やったのは、先ほど遠くに見えたキラキラ輝く巨大な飛行島か。

 オレ達の飛行島は相当高速で移動していたが、それより遙かに速いのか。

 確かにグングン近づいてきていたのは分かっていたが、それでも、こんなにすぐに接近を許すとは思わなかった。

 そして、あたりがパッと暗くなる。

 一体なにが?

 外の状況を確かめるべく窓から外の様子をみることにした。

 一瞬、何がなんだかわからなかった。


『ガン……ガラン……』


 乾いた打撃音と同時、窓越しから見える外の庭に、大きな木片が落ちたのが見えた。

 板の色から、正体にはすぐ気がついた。

 家の屋根だ。

 そして、その先。飛行島の進行方向にある存在。

 金色に輝く壁が見えた。


「あれ……町?」


 すぐ側に来たミズキが声をあげる。

 壁に見えたものは、町だった。黄金に輝く町。あらゆる建物が金一色。道も金色。いくつかの建物には、鮮やかな緑色をした蔓がまきついていた。

 真横になった黄金の町が壁のように、飛行島の先に立ち塞がっていた。

 そしてソレがグングンとオレ達の飛行島に迫ってくる。

 ぶつかる?

 そう思ったが、直後、グンと体が軽くなる感覚があった。

 そして、一気に黄金の町が上へ滑るように動く。オレ達の飛行島が急降下していた。


「大丈夫だ。機動力はこちらが上だ!」


 張り上げたサムソンの大声が聞こえた。


「リーダ!」


 サムソンの声を受けて、窓から身を乗り出し上を見た時、ノアがオレを呼ぶ。


「リーダ、伏せて」


 そして、続けてミズキの叫び声が聞こえた。

 とっさに伏せたオレの頭上を何かが通る。

 ミズキが側にあった椅子の脚を掴み、ぶん回したのだ。

 その先には、魔物。

 馬の頭をした金色の大きな鳥だ。部屋の入り口から飛び込んできたのか。

 不気味な魔物の顔面に、ミズキがぶん回した椅子がぶち当たった。

 バキンという音と共に、椅子の破片が散らばる。


「ミズキお姉ちゃん、剣!」


 叫んだノアが剣をミズキに投げ渡す。


「サンキュー、ノアノア」


 パシッと剣を掴んだミズキが、追撃とばかりに剣を振り抜く。


『キュィィン……』


 ミズキの持つ剣が、回転する刀身で魔物を切り裂いた。


「倒した……、びっくりした」


 結局、ミズキの一閃で倒すことができたようだ。

 真っ黒に変色した魔物を見下ろし、彼女はホッと息を吐いていた。


「あの金ぴかの町はどうなったんスか?」


 そうだった。まだ安心はできない。あの巨大な飛行島から逃げている途中だ。

 今、あれは、何処に……。


『ズズゥン』


 地鳴りがして、大きく飛行島が揺れる。

 ぶつかった?


「飛行島の様子がおかしい。何かにつかまれ!」


 張り上げたサムソンの声が再び聞こえた。


「何があった?」

「分からない。コントロールが……コントロールがきかない」


 そんなサムソンの言葉を裏付けるように、飛行島がグラグラと揺れ続けた。

 揺れに耐えるため、床に据え付けたテーブルの脚に、皆が捕まる。


『ドォォン』


 一際大きな地鳴りが聞こえ、揺れは止まった。


「斜めのままっスね」

「皆、大丈夫?」

「大丈夫です」

「あたちも」


 次々と声を上げる皆を見回し、安心する。

 誰も怪我はしていないようだ。

 飛行島は……斜めになったままか。部屋の入り口が、下り坂になった床の先に見える。


「気をつけて立ち上がったほうがいいと思います」

「了解」


 カガミの忠告を受けて、ソロリと立ち上がる。注意すれば、転がり落ちるほどの傾斜ではない。

 何が起こったのかは、窓から見える外の景色でわかる。

 オレ達の飛行島が不時着したのだ。

 黄金に輝く町へ。

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