第600話 やくそく

 飛行島に戻って、家の広間でのんびりとこれからの事を話す。


「まぁ、いいんじゃない」

「そうっスね。予定通りで」


 カガミの休学は驚きなく皆が受け入れた。

 当初の計画どおりだからな。

 次に、ギリアへと帰ること。

 スプリキト魔法大学には誰も通う必要がなくなったので、帰る。


「ギリアの屋敷で、確認したいことがある」


 サムソンが早く帰る事を希望しているので、カガミが休学手続きを終え次第、帰るつもりだ。

 ギリアへ帰ることにノアは大喜びしていた。


「トゥンヘルさんは?」


 それから、王都に滞在しているトゥンヘル。

 オレ達がギリアに帰ったら、彼らはどうするのだろうかという話だ。


「前に聞いたらボク達とは関係無く、もうちょっとだけ王都で過ごすって言ってたっスよ」

「ちょっと?」

「25年くらいかなぁ……って」


 トゥンヘルは、流石ハイエルフだ。時間の感覚が違う。25年が、ちょっとだけって扱いか。

 彼も、一緒にいるアロンフェルも、地上で生活した経験は長いらしいから大丈夫だろう。

 1000年以上生きているわけだしな。


「ところで、他にやる事ってないっスか? ボクは王都に、あと2回は行かなきゃ行けないっスけど」


 それから、やり残した事に話題が移る。


「プレイン氏は、用事があるん?」

「マヨネーズ事業の関係っスよ。ちょうど、バルカンがもうすぐ王都に来るんス」


 そういやバルカンが王都でのマヨネーズ事業をするんだっけか。引き継ぎくらいはしたいよな。

 まさか、バルカンが王都に向かう途中で、ギリアに戻る事になるとは思わなかった。

 そしてプレインの話を聞いていて、思い出したことがあった。


「あっ、そうだ。サムソン、シルフィーナ様から伝言を受け取ったよ」


 シルフィーナからの伝言の事だ。


「アウエレン商会の件か?」


 サムソンは、シルフィーナからの伝言という一言で全てを察したようだ。


「アムドムあたり、金貨900枚だって」

「マジか。予想以上に安いぞ、それ」

「アムドム? 何それ?」


 ミズキの言葉に、サムソンが頷いた後で説明を始めた。

 シルフィーナの歌を聴いて感激するサムソンに、彼女から接触してきたそうだ。

 オレを紹介して欲しいと。

 事情を聞いたところ、生徒会選挙の話になったという。

 彼女が交換条件として提示したのが、金の優先購入権。

 なんでもサムソンに話を持ちかける前に、オレ達の事を調べたのだという。

 その中に、プレインが王都で金の値段を調べている事もあったそうだ。

 シルフィーナの実家は、領内に金山を持っているらしい。


「あぁ、ボクが王都で調べた……」

「そうだ。プレイン氏に頼んだ案件だな。勝利に貢献したら、金の購入に際して、口利きしましょうって事になったんだ」

「アムドムってのは?」

「それは重さの単位だな。プレイン氏の調べでは……ロックムンドあたり、金貨800枚前後だったから……アムドムが5ロックムンドで……普通に買うと約金貨4000枚が、金貨900枚か」

「安っ。4分の1以下って事じゃん」

「あぁ、しかも、シルフィーナ様の紹介なら、金山から直って事だから、確実に魔法で増やす前の物になる。品質も保証されているって事だ」


 そっか。ただ単に、アイドルの応援していたわけじゃないのか。


「それなら、あらかじめ教えてくれていれば、協力できたと思います」


 ノアが持つ呪い子の気配を消す魔導具のために、金塊は必要だ。

 あらかじめ教えて欲しかったというカガミに同意だ。


「条件無しでも、応援はするつもりだった……それに、上手くいくかわからなかったからな」


 そんなカガミの言葉に、照れたようにサムソンが応じた。

 やれやれ。


「もぅ、せめて、原石がどうちゃらって言わなけりゃね」

「応援したかったのは本心だ。それに、ファンクラブも……まぁ、別に、いいだろ。上手くいったんだぞ」

「あのね、金塊でどんな魔導具を作るの?」

「それは……内緒だ。出来るまでのお楽しみだな」


 ノアの質問に、サムソンがごまかすように笑った。

 そういえば、ノアには言ってなかったな。でも、そちらの方がいいか。


「楽しみだね。リーダ」


 サムソンの答えを受けて、ノアがオレを見て楽しそうに笑った。

 その後も、いろいろな話をする。

 休学した後も、スプリキト魔法大学の本は、写本が手に入るということ。

 これは、カガミの大学での友人であるマルグリットが請け負ってくれるそうだ。


「手紙を送りたい人がいれば、マルグリット様を通じて渡せますよ」

「ピサリテリア様にも?」

「もちろん」


 カガミの言葉に、ノアは嬉しそうだ。

 マルグリットは、珍しい触媒の手配も請け負ってくれるそうだ。

 それから、古い資料の事。神殿や図書ギルドにお願いしている案件についてだ。

 これは、トゥンヘルに仲介をお願いする事にした。

 プレインが、近く王都へと行く時に、話をする予定だ。

 さらに話は続き、夕食をはさみ、晩酌の頃まで続いた。


「じゃ、寝るっス」


 ミズキが抜け、サムソンが抜け、そしてプレインが広間を後にする。


「では、私も……」


 そしてカガミも広間を出て行こうとした。


「ところで、本当に休学して良かったのか?」


 ふと、そんなカガミを見て気になっている事を聞いてみる。

 確かにカガミの休学は予定通りの行動だ。

 だが、オレには1つ、気になっていることもあった。

 カガミはとても大学生活を楽しんでいた。本当は、もっと学生生活を楽しみたかったのではないかという事だ。もし、時間が無いことを理由に切り上げたのであれば……手を貸したいと考えた。

 だから聞いてみる事にした。


「えぇ。大丈夫です。私……少し思っていることがあるんです」


 そんなオレの問いに、カガミが微笑み答える。


「思っていること?」

「ノアちゃん、学校に行って、皆で勉強を沢山したいらしいんです。それで、約束したんです。きっと……全部上手くいったら、その時は一緒に……学校に行こうねって。だから、そうしたいと思います。おやすみなさい」


 それが彼女の答えだった。

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