第518話 やっつけほうび
「こんなもんかな」
屋敷の広間で一枚のリストを前に呟く。
褒美については、丸1日費やし色々と考えた。
そして出来上がったのが、目の前のリストだ。
スプリキト魔法大学の資料を閲覧できる権利。
ヨラン王国にある全ての町で、通行税などを払うことなく自由に出入りできる権利。
王都で商売できる権利。
火炎を纏う剣をはじめとする、魔法の力が付与された武器や防具。
永久凍土の万年雪、ドドハヤ鉱石、瓶詰めの溶岩、トメイ緑石、ケレト魔晶、砂鉄粘土、ジルカ水、ミスリル鉱石、他にも色々……魔法や魔導具作成に使う為の品々。
これらをお願いすることにした。
強力な武器は、ハロルドの剣が壊れてしまったので、その代わりとして希望する。
ハロルドは壊してしまった剣以外にも武具を持っているが、あの大剣以上の物は無いという。
王様の褒美で、貰えたらいいなという事で褒美に望むこととした。
触媒関係はサムソンの希望だ。
1人1つで合計9個と言われても、時間が無い状況で、満足できるアイデアなどそうそう思いつかない。ということで、思いつくままリストアップした。
「出来上がってみると、けっこう沢山のアイデアが出たっスね」
「あとは、これをフェッカトール様に見せて、問題無いヤツを上から人数分ってことでいいだろ」
「でも、欲しい物って言われても、なかなか思いつかないよね」
「お金だけでも十分だからな」
リストを見直すと、30以上になっていた。
これだけあれば多少削られても大丈夫だろう。
半ばやっつけ仕事のように、思いつくまま書き出した褒美のアイデア。
だが、数は十分。問題無い……はずだった。
「まず武器を要望すべきではありません」
ところが、フェッカトールに見せたところ、ガンガン削られた。
「武器は……難しいのですか」
「ヨラン王国において、王が武器を褒美として渡す場合は決まっています。武功を立てた者に対し、その功績を評価したときに渡すことと決まっています」
「武功……ですか」
「今回は、物語の脚本という事柄に対しての褒美です。武具は希望すべきではないでしょう」
フェッカトールは、リストに記載した褒美の案を1つずつ吟味していった。
これは認められる、これは認められないと細かく説明をしたうえで、問題無い物を別の紙に転記する。
その結果、武器防具の類いは全て却下された。代替案としてミスリル鉱石と、王都にある鍛冶職人への紹介状という形が望ましいと提案をうける。
詳しい人間に任せるべきなので、言われた通りに褒美の希望を変更する。
「この鉱石なのですが……」
「はい。是非とも魔法の触媒に使いたいと思っています」
「ケレト魔晶……これは、古い遺跡から出土する魔導具です。遺物として、特に管理されている品。褒美として、望まない方がいいでしょう」
魔晶という名前から、鉱石だろうと思っていたが、魔導具だったのか。
「望まない方がいい……ですか?」
「特に、強力な魔法の触媒となる品物は、厳密に管理されます。ケレト魔晶は、そういった物の1つです」
なるほど、危険な魔法の行使に繋がる触媒は、それ自体が警戒の対象になるのか。
同様の理由で触媒にと要求した物が次々と却下される。
「では、こちらは?」
「これは……初めて聞きました。これは、鉱石なのですか?」
フェズルードで手に入れた本に記載のあった魔導具を作るために要望した触媒については、フェッカトールが知らない物が多かった。
突っ込んで聞かれる事も多いが、フェズルードにある本には名称しか記載が無い。
満足に答えられることもなく、途方に暮れる。
「フェッカトール様が知らない品々を、私が知るわけもないのですが……」
そんなオレ達に、ヘイネルさんも首を傾げ、フェッカトールに従う態度だ。
「フェッカトールが把握してない物か。曰く付きのものがあるかもしれない。褒美として希望するのはやめたほうがよかろう」
最終的に、領主であるラングゲレイグは、そう言って詳細が確認できな品物をことごとく却下した。
「ケレト魔晶、ドドハヤ鉱石……ジルカ水もダメか」
是非とも欲しいと語っていた、サムソンが頭を抱える。
どうやらフェッカトールは物知りとして、ラングゲレイグとヘイネルさんにその知識は信頼されているらしい。
そのフェッカトールの判断は、領主にとって絶対のようだ。
ということでガンガン削られた結果、残ったのは8つ。
逆に人数には一つ足りない結果。
あれほど、色々とあげたのにこんなことになるとは予想外だ。
「あとひとつ……」
「何でもいいのだぞ。褒美だ」
何が、何でも良いだ。あれほど却下したくせに。
ラングゲレイグが、せかすように褒美のアイデアを迫ってくる。
「リーダに任せるよ」
同僚を始め、皆がオレにお任せモードだ。
まったく……。
「そうだ。モッティナ」
そんな時、ふと思いついた。
帝国で、ノアが見入っていた動物。
「モッティナ……ですか。確か愛玩用の動物ですね。元々は、南方で果物の収穫に使っていたと言う羽の生えた……」
「えぇ。それです」
ノアが熱中して見ていた動物。あの時は、バタバタしていてどうにもならなかった。でも、良い機会、せっかくだ。褒美として要求してみよう。
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