第516話 きんしょとしょかん

 この世界に来てから、初めて見る文字なのにスラスラと読める。そのうえ、書こうと思えば使い慣れた文字のように書くことができる。

 だからこそ多くの魔法を簡単に使いこなしているわけだ。

 万写眼と言う魔法と、同じ効力。

 だがしかし、人間の両目両手を触媒とする?

 そんなことをした覚えもされた記憶もない。最も命約奴隷になった記憶もないのだから、その辺はあやふやだ。それに、オレ達は何年もの間、この状態だ。


「すごい魔法ですね」


 とりあえず、オレ達はそんな状態にないという路線で話を進める。


「まっ、かつてな、好奇心に負けた兄弟が決死の覚悟で読んだわけだな。なにせ禁呪、失敗すれば命はない」

「さすがは賢者フィグトリカ様。ワタクシ、尊敬しますですゾ」

「ヌハハハ。それに、その禁書ウレンテは、ワシが持っておる」

「さすが! さすが賢者様!」


 キンダッタが、褒め称えた次の瞬間。

 賢者と言われるグリフォン、フィグトリカが翼を大きく広げた。

 すると羽の隙間から、一冊の本がポトリと落ちた。


「それが、ワシの持ってる黒本ウレンテ。お前達に、貸してやろう」


 そして気前よく本を貸してくれた。

 拾い上げると、金属で装丁してあってズシリと重い。ハンシカシによる植物の育成と料理の関連性とその考察……本の表紙にはそう書いてある。題名からは魔法の本には見えないけれど、思い込みは禁物だ。


「ありがとうございます」

「代わりに、その本の中に書いてあること、ワシに教えよ」

「読めれば……」

「うむ」


 それから、しばらくの間、帝国での旅のことについて話をして過ごした。


「ラーメンですか」

「肉と野菜でスープをつくり、スープと……茹でた細長い小麦を練って作りし具を食べる。興味深い。そうは思わぬかキンダッタよ」


 フィグトリカと、キンダッタが一番興味を持ったのがラーメン。

 そして、キンダッタからラーメンの作り方をマンチョに教えてほしいという話になり、了承し、お隣さんを後にする。


「彷徨う賢者と、禁書図書館?」

「うん。エスメラーニャ様が教えてくれたの」


 帰ってから、お茶会について聞いてみたところ、そんな話になった。

 ノアもエスメラーニャに魔法の資料について聞いたらしい。

 すると、お抱えの音楽家に歌を依頼したという。


 ――ある村に1人の男が現れた。

 ――村を脅かす大きな魔物を倒した男は、礼をしたいという村人に1つのお願いをした。

 ――畑仕事を教えて欲しいと。

 ――村人は熱心に畑仕事を教えた。

 ――男も必死に頑張った。

 ――畑仕事に精を出し、魔法の知識はとんでもないもの。

 ――どうして、そんなに魔法に詳しいのかと村人は男に問うた。

 ――私は図書館の管理人をしていてね。

 ――古い古い、酷く古くて知られてはならない図書館の管理人なのだよ。

 ――男は、ヒソヒソ声で答えた。

 ――村人は男が好きだったが、それでも畑は一向に芽吹かない。

 ――実のところ男は呪い子で、村人を魔法でだまくらかしていたのだ。

 ――自分は呪い子ではないと、だまくらかしていたのだ。

 ――村人はそれに気がつき、男を追い立てた。

 ――男は目に涙を浮かべ、静かに去って行った。

 ――しかし、村人は決して悪人ではなかった。

 ――出て行く男の通る道に、僅かばかりの種籾を餞別として置いていたのだ。

 ――男は感激し、代わりに一冊の本を置いていった。たいそう立派な本だった。

 ――黄金に飾られたその本は、魔法についての本だった。

 ――だけれど、その古い本を読める者は誰もいなかった。

 ――なぜならそれは、禁書図書館の本だったのだから。


「少し悲しい話だね」

「リーダが、悲劇の脚本で王様に認められて褒美を貰うって話をしたんです。そうしたら、悲しい話で、なおかつ魔法の本についてであれば、こんなお話がありますよって歌ってくれたんです」

「そのお話に出てきた本が、この黒本ウレンテなのかもしれないね」


 とりあえず、褒美として望むものの候補が1つ決まった。

 スプリキト魔法大学にある資料の閲覧。

 後は、何にしようかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る