第483話 あおぞらにみをかくす

 帝国に来て色々な事があった。

 大軍で行進して、町から町を旅して、ノアの父親を自称するナセルディオに会った。

 だが、ナセルディオは、ノアの事などまったく考えていなくて、自分の為だけにノアを利用しようとした。

 この旅に意味があったのかといえば、無いとはいえない。

 だけれど、ナセルディオの一件には、皆が疲れていた。

 そんなわけで、これからの事は、少し落ち着いてから話しすることにした。

 今、飛行島は、お菓子の都コルヌートセルの上空を飛んでいる。

 何でも無い街並なのに、見るだけで甘いお菓子の香りを思い出す。

 コルヌートセルへたどり着いたときには寒かったのに、ヘーテビアーナの本戦あたりでは急に暑くなり、今はクソ暑い。

 冬の訪れは遅かったのに、夏はいつも通りにやってきたわけだ。


「赤の月でちから。熱いでちね」


 もうすでに夏。

 真夏の日差しは、遮る物のない飛行島では、よりキツく感じる。


「フルーツポンチを作りすぎていて良かった」

「そうっスね」


 氷をぶち込んだフルーツポンチが、生命線だ。

 だけれど、熱さ以外は、快適だ。

 飛行島は、浮くだけなら安定していて、なおかつゆっくりとした移動も可能。

 高速移動はまだ無理らしい。

 凝り性のサムソンが、この際だから怪しい所は全部直そうと、細々とした部分も手を加えていたのが裏目にでた。

 だが、老朽化した部分も補修したので、メンテナンスが終われば安定度は上がるらしい。


「あともう少しで、移動もなんとかなりそうだ」


 そのサムソンの言葉を信じて、飛行島は浮くだけに留めている。

 そうやって安定して浮いている中、土を掘り返し、金属製の線を引き出して、魔力を流してチェックしたり、老朽化していた場合は、線そのものを入れ替えたりする。

 ここ数日は天気が良いので、強い日差しの中、メンテナンスは続く。

 サムソン、プレイン、そしてオレの3人は飛行島のメンテナンス。

 ピッキートッキーに、トゥンヘルはオーガメイジの戦闘で痛んだ家の手直しだ。


「リーダ。新しい氷持ってきたよ」

「有り難う、ノア」


 ノアも氷を作ったり、運んだりと大活躍だ。

 氷を口に放り込み、ガリガリ食べるだけで大分違う。


「カガミ姉さん、今日も部屋にこもってるっスよ」


 手帳を貸して欲しいと言っていたな。

 ノアの持っていた赤い手帳。

 異世界のさらに先にあった世界で、赤い髪の人に、手帳のことを聞いたとか言っていた。


「確認したいことがあるんです」


 そんな事を言っていた。

 作業中、プレインが心配そうに家を見て呟く。

 カガミは最近元気がない。

 魅了にかかり、ノアに酷いことをしたとずっと後悔している。


「確かにな。結構やつれていたし……。どうしたものかな」

「別に、カガミ氏が悪いわけじゃないからな」


 落ち度があるとすれば、オレもだ。

 カガミ1人を行かせたわけだしな。

 だが、理屈では分かっていても、納得できないようだ。

 不可抗力なんだよと言っても、カガミは引きずっている。


「後は、これからどうするのかっていうことも考える必要があるぞ」

「確かに」


 作業も一段落し、昼食を取った後も似たような話になる。

 チッキーの注いでくれたお茶を飲んで、一息しながらの雑談。


「ラテイフさん達にお別れの挨拶が言えなかったのが、ちょっと寂しいっスよね」


 そうだよな。

 本戦の途中で別れて以来、まったく声をかけないまま今の状況に陥ったからな。

 加えて、コルヌートセルでの、オーガメイジとの激闘。

 心配しているだろう。


「だけど、町に戻るってのもな。町を荒らしたとかいわれて指名手配されてたりしたら不味いぞ」


 確かにサムソンの言う通りだ。

 町であれだけの騒ぎを起こしたのだ。手配されていても、おかしくない。

 最悪、帝国から逃げ出す必要もある。

 ノアには悪いが……。


「あっ、いいこと思いついた」


 そんな時、ミズキが立ち上がった。

 その楽しそうな顔が、逆にオレの不安をかき立てる。


「思いついたって?」

「変装してラテイフさん達の所に行けばいいんだよ」

「変装?」

「そうそう、魔法でさ」


 あのブラウニーに対してやった、あれか。


「でも、あれってブラウニーにすぐバレたじゃないか」

「ブラウニーが賢いからだよ」


 本当にそうかな。

 どうにも変装には良い思い出が無い。

 あれ、外見や声は変わるけれど、言葉使いとかは自分で演技しなくてはダメだから難しいんだよな。

 いや、待てよ……女装じゃなければ、大丈夫か。

 でもなぁ。

 いろいろと不安になる。

 変装の魔法は、自分がきちんと変装できているのか分からないところがある。

 鏡ごしに見ないと、幻術が作用しているのか判断できないのだ。

 かといって、今の自分に対してきちんと幻術がかかっているのかを、手鏡片手に確認し続けるわけにもいかない。

 少しだけ考えたが、どうでもいいかと開き直った。

 今回は、オレがやるわけでは無い。ミズキだ。

 いいだしっぺがやるなら、オレは別に問題ない。


「いいんじゃないか」


 にこやかに了承する。


「だよねだよね」

「じゃあ、ミズキくん。よろしく」

「リーダも行こうよ」

「嫌だよ」


 ブラウニーの一件で懲り懲りなのだ。


「まぁ、いっか。じゃあ私が行くね」


 うん。そうだな。言い出しっぺが責任を取るべきだ。


「まかせた。ミズキ。発言者が実行する。それが我々のルールだ」


 オレが厳かに言った一言に対し、ミズキがハイハイと軽く応じた

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