第484話 へんそうのまほう
「危なかったよね」
「いや、もう、完全にアウトっスよ」
ミズキの変装をして町に入るという計画は失敗した。
考えてみれば当たり前だのことだったのだが、領主の権限により、変装の魔法は禁止されていたのだ。
というわけで、ミズキ達はコルヌートセルの門近くに立ち入った途端、変装が切れたので速攻逃げ帰ってくる羽目に陥った。
という報告をプレインからうける。
世の中そんなに甘くはない。
ちょっとだけ期待していただけに残念だ。
「やっぱり他の町……場合によっては、帝国から出て、神殿づてで無事を伝えるしかないと思うぞ」
報告をうけ、サムソンが溜め息交じりに言った。
確かにそうかもしれない。
オレもサムソンの意見に賛同ということで、大きく頷く。
「そうっスね。帝国でのボク達の扱いについても、神殿に聞いてみる方がいいと思うっス」
それしかないよな。
オレは少なくともそう思っていた。
「あの計画を前倒ししようかな」
だが、ミズキは諦めていなかった。
「あの計画?」
「そそ、新しい魔法作ってるんだよね。変装の魔法をパワーアップしようかなって考えてたの」
「自作魔法は領主権限にはかからないってことか?」
「そういうこと」
「結構前から作ってたんだよね」
軽い感じで言ったミズキの言葉に、思い当たる節が次々と浮かんでくる。
あぁ、こいつ……こんなこと考えていたから、やたらと幻術に詳しかったのか。
前に、ノアに幻術の魔法陣を渡したときも、えらく手際よかったからな。
「ちなみに、ミズキ氏、どれくらいできてるんだ?」
「あと少し。だからさ、カガミも手伝ってよ」
「ごめんなさい、少し考えたいことがあるので……」
カガミは、元気なく呟くと部屋から出ていく。
しばらくカガミの出て行った扉をボンヤリ眺めていたミズキだったが、気を取り直したようで「うしっ」と小さく言って席を立った。
そして、いつもの日課のようにオレとプレイン、そしてサムソンは飛行島の作業に、そしてミズキは変装の新魔法についてかかることになった。
翌日。
「おはようございます」
カガミは、少し落ち着いたようで、目の下のクマが薄くなっていた。
「大丈夫か? ミズキ」
ところが今度は逆に、ミズキが寝不足がありありと分かるようなひどいありさまでやってくる。
「結構難しくてさ」
ヘラヘラと笑っている顔には、生気がない。
根を詰めすぎだろ。
たまに見せる、すごいやる気をいつも見せてほしい。
うーん。
ミズキをこのまま放置するのは、ちょっと不味いかな。
好きでやっているとはいえ、無理している感じだ。
なんだか、心配になってくる。
「本当に大丈夫か?」
「うーん、どうだろう」
「あのね、私もお手伝いするよ」
欠伸混じりに返答したミズキを心配したのか、ノアが、そう言った。
「そうだね」
「やはり、私も手伝います」
カガミも立候補する。
「そだね。2人ともお願い」
何せよ、カガミが少しだけ持ち直してくれたのは朗報だ。
いつもと違う事をやれば気が紛れるだろう。
「まぁ、無理するなよ」
「俺達も頑張って飛行島を整備するか」
そして、さらに数日。
飛行島のメンテナンスはまだ終わらない。
だが、ミズキ達の魔法は完成したようだ。
ニコニコ顔のノアとミズキが、大きな布を2人で広げる。広がった布には、魔法陣が描かれていた。
「どうよ。これ。変装魔法ツー!」
「安直なネーミングっスね」
「で、ミズキ氏、バージョンワンと、どう違うん?」
「まぁ、見ててよ」
ミズキが実演してくれる。
新しい変装は魔法は、従来の魔法をベースに改造したものらしい。
「いまが、ほらお婆さんでしょ?」
「確かにな」
「それが、ほら!」
「お姉さんになったっス」
簡単なジェスチャーで、二つの変装を切り替えることができる。
例えば、パターンAを老婆の変装に、パターンBを子供の変装に
なおかつ魔法を使っている途中に、任意で魔法を一旦切って元の姿に戻ることもできるそうだ。
「結構凝ってるな」
「まぁね。私も色々考えてるってわけよ」
「そっか」
口には出さなかったが、ミズキがこの魔法をどういう用途で使うことを想定していたのかは、気になった。
今までの経過から見て、どうせロクな事に使う気はなかったのだろうが。
「じゃあ、行ってくるよ」
「慎重に見守るわぁ」
変装の魔法を使い町に行くのは、前回と同じくミズキとプレイン。ついでにロンロ。
ロバに小型の馬車を引かせて、コルヌートセルに向かう。
今度は大丈夫……だといいな。
ロンロには、念の為、慎重に行動するように伝えておく。
目的は情報収集とラテイフ達にお別れを告げること。
「で、お別れを告げたらどうするんだ?」
「そうだな……」
「あのね、リーダ」
サムソンが今後の予定を話題にしたとき、ノアが小さくオレの袖を引っ張った。
「なんだい」
「帰ろう……ギリアのお家に帰ろう」
ノアは帰ることを希望している。
当初の目的は達成した。
自称父親のナセルディオに会うという目的は達成したのだ。
やられっぱなし……ということにはなる。
だが、正直なところ、あんなやつに関わりたくはない。
ノアも同様に考えているのだろう。だから帰ろうって言っているわけだ。
「オレもその方がいいと思うぞ。面倒ごとより優先することがあるしな」
優先すること。
ノアの呪いに関する対処、それに超巨大魔法陣。
ナセルディオは、ノアにちょっかいをかけてくるかもしれない。
でも、その場合も、相手のフィールドである帝国より、ギリアの方が対処しやすいだろう。
「ミズキ達が帰ってきたら、帰る方向で皆に提案してみるか」
小さく頷き、全員で今後の話をすると伝える。
そこから先は、いつものように、サムソンは飛行島にとりかかり、ノアは勉強。
なんでもシューヌピアに刺繍を習うそうだ。
人形の服に刺繍をしたいらしい。
トッキーとピッキーは、トゥンヘルの指導をうけつつ厩舎の補修。
「紐をひっぱるんだ」
昼前には、補修は終わっていて、新しい工夫まで終えていた。
紐を引っ張ると、厩舎の窓が一斉に開いて日の光が当たるようになっていた。
お昼は、午前中ずっと仕込みをしていたチッキーの大作だ。
「あっ、ピザ食べてる。いいな!」
そして、皆でピザを食べているときにミズキ達が戻ってくる。
「どうだった?」
「皆さんに会えないのは残念ですってさ」
「町の様子は?」
「普通。特に手配もされていないって」
意外だな。
あれだけの騒ぎを起こしたってのに。
「変装なしで町に行っても大丈夫そう?」
「町の路地は壊れてたし、今すぐはちょっと不味いと思う」
「そっか。ほとぼりが冷めたらまた……来れたらいいな」
そうやってミズキの報告を聞いていたとき、プレインが申し訳なさそうに、テーブルの上に黒い筒を置いた。
「ラテイフさんが、手紙……預かったそうっス。ボク達に渡すようにって」
黒い筒。手紙。
プレインが受け取った物。それは、オレ達を帝国へ誘った、あの手紙。
それと同じ入れ物に入った手紙だった。
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