第461話 もちつき

「ぺったん。ぺったん」

「ぺったん!」


『ドスン!』


 ノアとチッキーの声をバックに餅をつく音が響く。

 ついているのはハロルド。

 オレが餅をついている姿をみて、面白そうだと立候補したのだ。


「ノアもお餅食べる?」

「ハロルドは?」

「拙者は、先ほど食べた故、大丈夫でござるよ。なかなか、面白い菓子でござった。姫様も食べてみるでござるよ」


 ハロルドに促され、餅つきのリズムを「ぺったん、ぺったん」と言葉でとっていた、ノアが駆け寄ってくる。


「食べる!」


 オレの手前で、ピョンと跳びはねてノアが言った。

 そういうことで、今は休憩タイムだ。

 トゥンヘルも、ピッキーにトッキーも、お餅を食べている。

 つきたてお餅がこんなに美味しいとは思わなかった。

 材料はこの世界の物だ。

 米を作るのと同じ要領で、縮小と複製の魔法を駆使して餅米の代わりを用意した。

 こだわり派のカガミに言わせると、苦みがあるというが、今のところ誰もそんな感想は言っていない。


「こっちがぁ、マヨネーズでぇ、ちょっとだけ辛いらしいわぁ。それから、こっちが、甘いらしいのよぉ」


 餅の横に置いてある小皿にある調味料について、ロンロがノアへと説明している。

 昨日、イスミダルの後をつけていたロンロが帰ってきたのは夜だった。


「森が暗くてぇ、飛行島の場所が分からなかったのよぉね」


 軽い調子で愚痴りながら戻ってきたロンロが言うには、イスミダルは父親に会えなかったらしい。


「それがぁ、誰かが邪魔しててぇ、イスミダルさんが来ている事を教えないで、追い返してたのぉ」


 どうして、父親は会わないと言ったのかが知りたくて、イスミダルが帰った後も、ロンロは彼の実家に留まっていたそうだ。

 結果的に分かったのは、イスミダルの父親は、彼が来たことを知らされなかったらしい。

 どうやら、誰かがイスミダルを追い返すように指示していたらしい。


「全く分からなかったのか?」

「そうねぇ。ムランドード、ハシュマッタ……ズィーダムンの誰かに間違いないのだけどぉ」

「3人?」

「偉い人は、3人いるらしいのぅ。明日ぁ、もう一回お店に行ってみるわぁ」


 なんてことを言っていたから、そろそろ町に行くのだろう。

 でも、父親とイスミダルを会わせないようにしている人物がいるか……。

 話がややこしくなってきたな。

 それにしても、失敗作だから少し粒が残っているけれど、久しぶりに食べるお餅はやっぱり美味いな。

 プレインの作ったマヨネーズが、意外と餅に合っていて美味しい。


「リーダ」


 餅を食べながら、ぼんやりと物思いにふけっていると、カガミの声が聞こえた。


「んい」

「これを保管して……って、お餅食べちゃってるんですか?」

「んぐんぐ」


 これは、失敗作だよ。

 上手く出来たのは、先ほどから次々運んでいただろう。


「ちょっと、何を言っているのか分からない」

「んーんー」


 ちょっと待って。

 それに、よく見ろ、餅を食っているのはオレだけじゃないだろ。

 ほらトゥンヘルも、ピッキーにトッキーも、一時休憩で食べているところだ。


「あのね。失敗作だったの」


 ノアが水をオレに渡しつつ代わりに答えてくれた。


「そうだよ。つまみ食いじゃないって……おっ、壮観だな」


 カガミの後には、空飛ぶ板があった。

 板には、大量のお菓子が並べられている。

 ミニ雪だるまの大群だ。こうやって並んでいる姿を見ると壮観だな。

 オレの影収納に、どんどんぶち込むのだ。

 長い時間、オレの影に入れていると味が劣化するが、1日程度なら大丈夫だ。


「あと、どれくらい作るの?」

「いま、ハロルドがついている餅で最後にするらしいです」

「了解」


 準備は着々と進んでいる。

 昨日、予選が始まったお菓子の祭典ヘーテビアーナ。

 お菓子を作る道具を、町中のお菓子屋が打ち鳴らし始まった祭典は、見た目からして楽しかった。

 至る所で、吟遊詩人が歌い、大道芸人が芸を繰り広げていた。

 10頭以上の馬にひかれる2階立ての馬車が走っていて壮観だった。

 カラフルな小屋のような馬車で、それがゆっくりと町を走る姿が圧巻だった。

 こちらの世界で見るお祭りとしては最大級のものだ。

 お菓子は出来た。

 あとは、商品ディスプレイのためのテーブルか。

 ミズキと、トゥンヘルにトッキーとピッキーの4人で作っているけれど、今どうなのだろう。

 デザインをどうするか話をしていたけれど。


「リーダ様。お店に置くテーブルもできてます」


 そう思っていたけれど、チラリとピッキーを見ると、自信満々で即答だった。


「ミズキさんのアイデアで、円形の皿を2つテーブルに取り付けたら、なかなか良くなったよ」


 トゥンヘルが、指でトントンとテーブルを叩く。

 そこには、確かにテーブルが出来ていた。

 腰くらいの高さで、テーブルの上には2つのターンテーブルが据え付けられてある。

 あそこに、商品を置いてクルクル回せるのか。


「あっという間ですね」

「大体出来てたんだけどさ、魔法陣描き込むのに時間かかっちゃって」

「魔法陣?」

「そうそう。保存の魔法陣。2日程度なら劣化しないやつ」


 保存の魔法陣か。

 確かにあったほうがいいだろうな。


「このくらいで、いいでござるか?」


 餅もつき終わったようだ。

 もう少しで、準備が全部終わるな。


「なかなか、今回は働いたな」


 ちょっとした達成感に笑みがこぼれる。


「あとは売り子の当番だよね?」


 うりこ……売り子?

 お店でお菓子を売る人?

 後は、観光でもしてお菓子の祭典ヘーテビアーナを堪能しようと思っていた。

 だが、まだまだ仕事は続くようだ。

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