第459話 りきさくかんせい

 丸一日、いろいろなお菓子を作るお菓子パーティー。

 次々と作られるお菓子。


「これがミルフィーユ」

「え? こんなに薄く……」

「それほど引き延ばした様子は無かったのに……どうやったのですか?」


 何か作る度に、イスミダルもラテイフも、そしてサラムロも驚く。

 もちろんこの世界でもなじみなお菓子もあったようだが、オレ達の作るお菓子は、概ね未知のお菓子ばかりだった。

 そんな、未知のお菓子について、カガミが解説する。


「これが、ドーナツ。そして、これがティラミス」

「姉ちゃん。これ、絶対魔法でなんかしたろ?」

「こら、サラムロ。姉ちゃんではなくて、カガミ様と呼びなさい」


 サラムロは、度々魔法を使っているに違いないと言う。

 理解不能なものは、大体魔法。オレ達から見て、現地人特有の考え方が面白い。


「これが大福とおはぎ。それから、あちらにあるのがどら焼きです」


 どら焼きを自作する人は初めて見た。


「クッキーとパウンドケーキできたっスよ」


 カガミとプレイン、なんでこんなにお菓子のレシピを知っているんだ?

 殆ど2人で作っている。

 オレはフルーツポンチだけ。あとは、カガミに言われるまま、助手として餅をついたくらいだ。

 そもそも、菓子の作り方なんて知らない。

 まったく知らなかったサムソンはともかく、やたらと博識な同僚に驚きを隠せない。


「あと、お菓子作りに欠かせないのがマヨネーズ」

「我々が作るクッキーとは違うのですね」

「あの……彼は、ちょっと変わっているので……もちろんマヨネーズを使わないお菓子のほうが多いですよ」


 特にプレインがマヨネーズを取り出したときは、どうしようかと考えたけれど、美味しいお菓子をつくるのでビビる。

 レパートリーも多いしな。

 お菓子にマヨネーズを使うのは一般的……ではないよな。

 カガミも驚いていたし。

 それにしても、リスティネル。

 作ってみせるのがいいとかなんとか言っていたけれど、自分が食いたかっただけじゃないか。


「布のように薄い生地を重ねるのか、面白いのぅ」


 お菓子を一番楽しんでいたのはリスティネル。


「ふむ。苦みがアクセントとなって、下に引いた甘い雪のような生地を引き立てている。くわえてやや冷やしてあるゆえ、口の中で溶けるような感触をもたらし、それがいっそうこの菓子の味を演出している」


 次点でハロルド。


「やっぱ、甘い物っていいよね」


 3番手につけたのはミズキ。


「案外、なんでも手に入るんですよね」


 カガミが嬉しそうに言う。

 確かに、この町では他のどの町よりも食材が手に入った。

 特に、調味料は本当に沢山あった。

 お金にも余裕があったので、ガシガシ買い込んだ。

 これで、作れる料理のレパートリーは格段に増える。


「皆さんのお菓子をみて、作ってみました」

「予選には、これを持って行こうかと思います」


 何作も作った結果、予選に持って行くお菓子が決まる。


「食べちゃうのはもったいないよね」


 オレ達の作ったお菓子を見て、インスピレーションを受けた2人が作り上げたお菓子を目の前にして、ミズキが言った。

 結局、一番琴線に触れたのは、意外なことに、大福だった。


「餅が作れるとは思わなかった」

「トウモロコシみたいな食べ物を流用しました。すこし苦味があったんですよね」


 目の前にあるのはただの大福ではない。

 一口サイズで、中にはあんこ、そして小さいイチゴが入っている。

 ちっこいイチゴ大福だ。

 見た目も楽しく工夫されている。

 大福の上に、もう一個小さなお餅が乗っている。

 さらに上に赤い食材、加えて上に載っけた小さいお餅には、目と口を3つの点で表現してある。

 ぱっと見、雪だるまだ。

 お菓子でできた小さな雪だるま。

 小さなイチゴはイチゴを縮小してから複製することで、実装した。

 魔法を使うからこそ作り出せる食材だ。

 異世界でないと、魔法のある世界でないと作れないお菓子。

 本来であれば面倒臭い餅の成形も、魔法を使うことで一気に解決できる。

 餅もあんこも、イスミダルとラテイフが他の料理の応用ですぐにマスターしてしまった。

 舌触りもいいし、甘みも丁度良い。さすがプロは違う。


「後少し、もう少し工夫し、これをもっと良くしていきたいです」

「いつから予選は始まるんですか?」

「予選は明日から始まります」

「時間がない」

「これから15日間かけて予選が進みます。途中参加もできるので、もう少しだけ工夫をして、それから出品しようかと考えています」


 焦るオレ達に、ラテイフが落ち着いた様子で回答する。


「十分って感じだけど、やっぱりプロは違うよね」


 ミズキがいくつも試作した物のうち一つを口に入れながら言った。

 あんこの中に入れる砂糖や、餅とあんこの配分などを色々試したいという。

 オレもミズキに同感だ。プロのこだわりは凄いな。


「そうっスね。それに、お店も時間かかりそうっスしね」


 そういえばそうだったな。

 壊されたお店。

 トゥンヘルと、トッキーピッキーのコンビが取りかかっているけれど、進捗はどうかな。


「ちょっと、聞いてみるよ」

「何から何までありがとうございます」

「いえいえ」


 恐縮する2人にパタパタと手を振り、外へとでると庭に木片がいくつか置いてあった。

 そして、トゥンヘルが何やら説明していて、トッキーとピッキーが頷いている。

 3人の前には、すでに店の扉が横になって置いてあった。

 作業は随分と進んでいるようだ。


「もうここで組み立てるの?」

「あっ。リーダ様」

「お店に行って、これを上からかぶせてみます。それから、壊れてるものを取り外したりします」

「微調整しながら進めていきます」

「へぇ」


 オレの質問に、トッキーとピッキーがちょこまかと動きながら説明してくれる。

 ちょうど部品を切り出したところのようだ。

 大きな板に下書きのように模様が描いてあるので、将来的には、細工が入るのだろう。


「これは仮組みでね。ちょうどよかった、リーダさんにお願いがあるんだよ」


 トゥンヘルが、2人の説明に頷いていたオレに声をかける。


「なんでしょう?」

「これから今日の内に、店に行きたいんだ」


 確かにいつかはお店で作業しなきゃいけない。扉の取り付けなんてあるからな。

 下準備が終わったから、次はお店で実際の作業を進めたいということだろう。


「了解。ラテイフさんに了解を得てきます」


 お菓子は順調。

 次は、お店だな。

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