第458話 いんすぴれーしょん

 瞬く間に、味が調整されたフルーツポンチ。

 すごいな、カガミ。

 だけど、手際良すぎるだろ。

 あれ?

 そっか。コイツ、経験者だな。

 フルーツポンチに果物を入れすぎて失敗したことがあるのか。

 そうに違い無い。

 我ながら名推理。


「これは?」

「あぁ、イスミダル様、これはフルーツポンチっていう、故郷のお菓子です」

「少し頂けますか?」

「どうぞ」


 カガミが失敗したフルーツポンチを手際良くリカバーしていたことを、訝しがっていたときのことだ。


「これは、スープだ。果物のスープだ」


 イスミダルがフルーツポンチに興味を示し、少しだけ食べて興奮を隠せないように震える声で呟いた。


「あの、リーダさんも、料理を作られるのですか?」

「えぇ。まぁ。私以外にも、ミズキもプレインも作れますよ」

「フルーツポンチくらいなら、大丈夫っスね」


 オレが料理する事がそんなに驚きなのか、イスミダルもその後にいる2人も酷く驚いていた。


「ふむ。何やら騒がしいと思えば……おもしろそうじゃな」


 そこにもう1人、人が増えた。

 リスティネルだ。

 正体が金竜だけあって、人知を超えた力をもつリスティネルは、いつの間にか部屋に来ていた。

 ついでに、彼女は不思議な力で、フルーツポンチの入った器から、リンゴ位の大きさで球状をした塊を浮かび上がらせた。


「このスープが果物を取りまとめておるのか」


 ふわふわと浮かぶフルーツたっぷりの水玉。

 それを手で掴むと齧り付く、ゆっくり咀嚼したあと満足げに笑った。

 水玉を作って齧るなんて器用だな。

 でも、あれだとフルーツポンチじゃないな。

 どちらかというとコンビニなんかに置いてあるフルーツゼリーとかそのへん。

 でも、美味そうだ。


「あの、リスティネル様、器に取り分けましょうか?」

「うむ。そうよな。カガミよ、頼もうか」

「あぁ!」


 カガミがリスティネルにフルーツポンチを取り分けていたとき、ラテイフが突如大きな声をあげた。


「どうした? 姉ちゃん」

「アガイア氷に、果物を砕いたものを入れたら?」

「なるほど」

「アガイア氷?」

「ほら、寒天のこと」


 あのお菓子か。こちらの世界では寒天でなくて、アガイア氷って名前なんだな。

 味も少し違うし、砂糖がまぶしてあって違う料理といわれても納得できる。

 その言葉をうけて、カガミとミズキがチッキーを見た。


「あの、ごめんなさいでち。海藻……海亀さんが全部食べちゃったでち」


 すぐに消え入りそうな声で、チッキーが頭を深々と下げる。

 もう食べたのか。

 念の為、半分食べたってところで回収しておけばよかった。


「そうですか……」


 チッキーの回答をうけて、イスミダルがうなだれる。

 他の2人もだ。


「まぁ、そう気を落とすこともあるまいよ」


 だが、その様子をみて、リスティネルが事も無げに言葉をかけた。

 それから、オレ、カガミ、プレインと、オレと同僚達に視線を向ける。


「何か?」


 カガミがうろたえた様子で声をあげる。

 なんだろう。

 寒天の材料を持っているってことか?

 市場に行けば、在庫があるのかもしれないんだよな。

 でも、それならオレ達には関係ない。

 ん?

 もしかして……。


「ひょっとして、リスティネル様は、海亀を捌いて煮こごりをつくれと?」

「え?」

「ちょっと、リーダ」


 恐ろしい事考えるなとは思うが、ふと思いついたのがそれだ。

 いや、ヘッドバッドはされたけど、いきなりの食材扱いは……ちょっとな。


「また、わけのわからぬことを。ちがうわ」


 でも、即座に否定された。


「そうだよ、リーダ」

「ひょっとして、ヘッドバッドの件、まだ根にもってたの」


 酷い言われよう。

 いや、確かに酷いアイデアだけど。


「其方らの作った菓子がヒントになるのであれば、他の代物も見せればよかろう?」


 そういうことか。

 確かにフルーツポンチからアイデアを得たなら、他の料理でも何かアイデアが出るだろうと。


「えぇ。もし宜しければ……」


 ラテイフもおずおずと協力を願い出る。


「それにほれ、アロンフェルも、トゥンヘルもおる。あの2人も料理くらいつくれよう」

「あと、リスティネル様もいますしね」

「ううん? ほれ。私は、そう、審判じゃ」


 そう言って、リスティネルはそそくさと部屋から出て行った。

 でも、考えは悪くないか。

 行き詰まっているなら、皆で対応すればいい。

 臨時のお菓子パーティーだな。

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