第389話 こくりゅう

「パルパランがくっついてる?」


 細かいことはわからないが、パルパランが竜と一緒。

 つまり今からやってくる竜は敵だということだ。


「見た感じどうですか? アンデッドですか?」

「うーん……多分アンデッド!」


 カガミの質問に、ミズキが大声で答えた。


「じゃあ、迎撃するっスよ」

「そうだな俺も手伝う」


 頭上からプレインとサムソンの声が聞こえた。


「迎撃って、何をするんだ?」

「光と音の一点照射っスよ」


 そう言って、屋根に上っていたプレインが小屋へと戻っていった。

 その頃には肉眼でも、しっかりとした姿を見ることが出来た。

 巨大な黒い竜。

 そして辺りに声が響き渡る。


「よくぞ、生きてくださいました。やはり、貴方方はお強い。こうなるとは思っていました。ですが、幾日も終わることのない戦いに、もう限界でしょう。体力も! 貴方方の備蓄も! さて、苦しい時間を、わたくしめが終わりにして差し上げましょう!」


 とてもとても楽しそうなパルパランの声が辺りに響き渡る。

 遮音の壁すら突破して頭に響く大声にクラクラする。

 その声は更に続く。


「かつて、100年を超える間、1匹の頭のおかしな黒竜が世界の空を我が物顔に暴れ回りました。それは凶竜ギジゲド。無敵かと思われたその存在は、ある1人の男が魔導具を意図的に暴走させたことによって死を迎えました。ですが、ギジゲドはその体が粉々になっても、諦めず生きつづけることを渇望し、恨みや怒りや妬みを抱え、それを餌にして死の国より帰還を望み続けました」


『ドン……ドォン……ドン』


 大きな爆発音が響き、接近する黒竜の前方に3つの大きな火柱が立った。

 未だ遠くに発生した火柱にもかかわらず、その生み出す爆風はオレ達を容赦なく襲う。

 生み出される衝撃波は、足に力をいれないと、吹き飛びそうなほど激しかった。

 カガミは、グッと茶釜にしがみつき、ユテレシアの乗った馬は少しだけよろめいた。

 難民のうち数人が、踏ん張りが効かず倒れ込んでいた。

 爆風でこれか。

 あの火柱を生み出した攻撃。

 直撃をうければひとたまりもないな。

 とっさに出来ることを考え、魔壁フエンバレアテを取り出す。

 難しいが、この巨大な鉄板を盾にして対抗しようと考える。


「エテーリウ様!」


 ユテレシアがエテーリウに声をかける。


「大丈夫! なんとかしてみせるトヨ!」


 大きな声でエテーリウは返答したが、その声音はどこか投げやりだ。

 そうこうするうちに黒竜はすぐ側まで接近していた。

 一瞬、静かになる。


「あぁ……アンデッドが!」


 難民の悲観した声が上がる。

 いままで接近する度に塵となっていたアンデッドが、塵となる境界を乗り越え向かってきていた。

 それに対抗するように、泥縄の巨人がユラユラと揺れながら前進する。


「カガミ! 壁の魔……」

「ダメ元でやってる!」


 全てを任せるわけにはいかない。

 オレ達は、オレ達でできることをするしかない。

 黒竜がついにはっきりと細かい部分まで見えるところまで接近した。

 竜の額の部分にはパルパランが埋まっていた。

 体の半分を黒竜に埋め込んだパルパランがはっきり見えた。

 虚ろな目をしたパルパランと目が合う。


「あれが凶竜ギジゲドでござるな」


 緊張した面持ちでハロルドは呟いたかと思うと、剣を構え黒竜の方へと駆けだしていく。


「ハロルド!」

「やつが! もし拙者の剣が届く範囲まで降りてきたんであれば、なんとしても一撃! 喉に一撃を食らわせるでござるよ!」


 オレの呼びかけに、こちらを振り向くことなくハロルドが叫ぶように答える。


「ギジゲドは! 今やただの腐りきった躯ではございません。わたくしが天上の技により手を加え、仕上げましたのです。痛みもなく、快楽もなく、ただひたすらに結果だけを求め、存在するギジゲド。さぁ、おわガァ……!」


 黒竜の口が赤く輝き、再び響き渡りはじめたパルパランの言葉が急に途切れる。

 プリズムの光が1つにまとまり、黒竜にぶち当たった直後のことだ。


『ガガガガガガ』


 岩石が削られるような音があたりに響き渡った。

 そして、海亀から放たれた虹色の光と黒竜がぶつかりあう。

 音の響きはいっそう大きくなった。けたたましく響き渡る轟音に、思わず耳を押さえそうになる。

 魔壁フエンバレアテのコントロールを失うわけにはいかない。

 そう思って、手を動かさないように努めたオレ以外の皆は耳を押さえていた。

 それほどの轟音。


『キィ……ン』


 甲高い音が轟音に割って入った直後、虹色の光とせめぎ合っていた黒竜が爆発する。

 

 星落とし!

 

 ノアが、星落としの魔法で援護したようだ。

 ほぼ拮抗していた黒竜と虹色の光のぶつかり合いは、一気に虹色の光が優勢になった。

 敵わないと悟ったのか、黒竜は逃げるように距離をとる。

 だが、虹色の光はそんな黒竜を追い続けた。

 そして、上へ上へと逃げていた黒竜は、とうとう力つき墜落した。


『ドォォン!』


 大きな音を響かせ、大量のアンデッドを巻き込み黒竜は墜落した。


『キィィ……ン』


 そこへ、再び甲高い音と共に、大量の爆発が巻き起こる。

 ノアの星降りが炸裂したのだ。

 続いて、あたりに軍艦マーチに似た音楽が鳴り響いた。

 音の響きが、すぐ側まで接近していたアンデッドを塵と変える。

 そうか。

 黒竜にぶつけるために、音が鳴る範囲を狭めていたのか。


「リーダ! 聖水を!」


 茶釜に乗ったカガミがオレの側にやってきて叫ぶ。


「了解」


 影から聖水を取り出す。


「私がもっていく」


 ミズキが横からかっさらうように樽を軽々と抱え上げて、カガミの後へ飛び乗った。

 2人が乗った茶釜が猛スピードで、黒竜の落ちた方へと向かう。

 しばらくして2人は戻ってきた。


「適当に、聖水ぶっかけたら白骨になってから崩れて、塵になったよ」

「そっか」

「うまくいったっスね」

「あぁ」


 パルパラン。お前は強敵だったよ。本当に。

 勝利を確信し、オレは心の中で呟いた。

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