第334話 だましうち

 ブラウニー共が、ミズキとカガミ以外の女性に監督して欲しいと、言い出した。

 ふざけた主張だ。

 良い酒と、新鮮な果物を渡している上に、追加の要求。

 だが、ブラウニー共の手は借りざるをえない。

 その対策に、オレに変装しろというミズキの考え。


「おい、それってオレ達に女装しろっていうことか?」


 ミズキのふざけた考えに即座に反論する。

 女装なんかしてたまるか。


「いやいや。女装っていうよりさ、幻術の魔法を使うんだよ。幻術で女の人になるってやつ」


 変装……魔法で?


「魔法か」


 サムソンか小さく呟く。


「そんな、魔法あるんスか?」

「あるある、ちょっと待ってて」


 ミズキが書斎へと駆けていき、すぐに1冊の本を手に戻ってきた。

 パラパラと慣れた調子でページをめくり、オレ達のに突き出す。


「ほら、これこれ」

「変装の魔法」


 ミズキが差したところにはそう書かれていた。

 なかなか複雑な魔法陣だが、一日あれば描くことができそうだ。


「これを使えと?」

「そ。変装の魔法陣。これを使ってさ、リーダ達が女の子になって、ブラウニーたちを指導するってわけ」

「えぇ。先ほどの課題がクリアできているし、いいと思います。思いません?」

「嫌に決まってるだろ」


 バレたらどうするんだ。


「もう他に方法ないじゃん。ならリーダはいい方法思いついてるの?」


 そんなこと言われると反論に困る。ないのだ。


「いい方法などない……」

「でも、ブラウニー達、すぐ気付くんじゃないっスかね?」

「大丈夫だよ。きっと」


 ミズキのやつ。軽い調子でいいやがって。


「リーダが、変装! いけるいける」

「そうです。リーダなら大丈夫なのです」


 ふと見ると、窓の側にモペアが立っていた。

 ヌネフも、モペアの側で頷いている。


「大丈夫って?」

「ブラウニーだろ? あいつらバカっぽいじゃん、幻術だってバレやしないって」


 楽しそうにモペアが言う。

 バレない理由が、直感というところが気にかかるが、同じ精霊同士だ。なんとなくわかるのだろう。


「じゃあ試してみようよ。バレたら一緒に謝るからさ」


 そういう話になった。

 翌日、幻術を使って女性になったオレとプレインが、ブラウニー共の監督をすることになった。

 カガミとミズキ、2人の代わりに、2人でいいだろうというのがその理由だ。

 ジャンケンで誰が変装するのかで勝負をしたが、サムソンが軽く一抜けしてしまった。

 そんなわけでプレインとオレの2人が変装の魔法を使う。


「あっ、まじ、女の子に見える」


 魔法使った途端ミズキがオレを見ていった。

 大丈夫なのかなと思って、両手を見て、ぺちぺちと顔を叩いてみるが、いつもと同じだ。

 変わっているところが見当たらない。


「これ、本当に大丈夫なんだろうな?」

「大丈夫だと思います。窓を見てください」


 カガミに促されて指さされた窓を見る。

 窓にはオレの姿が反射して見えた。

 そこに写っているのは、先ほどのオレの姿とは違う。

 1人の女性が立っていた。

 不思議な感覚だ。

 手を動かしたり、首を振ったりすると、同じように映った姿も動く。

 だが、そこにいるのは女性だ。


「あーいるいる。こんな感じ、スーパーでレジ打ってそう」


 ミズキが、幻術によって女性になったオレを見て、ゲラゲラと笑いながらそんなコメントをした。


「すーぱーでしたか」


 ノアはキョトンとした顔をして、オレを見つめていた。


「あっ、ホントっスね。女の人に見えるっス」

「なんか服売ってそう」

「プッ」


 プレインはミズキにそう評されていた。

 吹き出すようにカガミが笑う。

 こいつら絶対、面白がっていると思う。

 だけど、手応えを感じる。

 とりあえず、騙せそうだ。

 ということで、早速、ブラウニー共を呼び出す。


「おぉ。今日はめんこいお姉さんじゃワイ」


 第一印象はバッチリだ。

 これならいけそうだ。


「では、今日はカガミ様とミズキ様の代わりに、私たちが皆さんと一緒にお仕事しますね」


 とりあえずそう言っておく。

 すると、ブラウニーの1人が首を傾げた。


「うーん。なんか違うワイ」


 そしてそう呟く。

 げっ。

 やばい。

 いきなりバレたんじゃないか、これ。

 背中に変な汗をかく。


「違い……ます、か?」

「そうじゃそうじゃ。女の人は挨拶の最後に、笑顔でクスリと笑うのが常じゃけん」

「もしや、お主……?」


 やばい。

 いきなり疑われている。


「そんなことありませんよ。オーッホッホッホッホ」


 とりあえず即座に取り繕う。


「変な笑い方する女子じゃ」

「初めて聞いたワイ」


 くそ。

 とっさに脳裏によぎった女性の笑い声が、リスティネルだったから、真似したのに、ダメだしされた。


「えっと。では早速、地下室に行きませんか?」


 プレインがそう言ってブラウニー達を引き連れて、地下室へと進む。

 それからは、カガミとミズキの代わりとして、監督作業をする。

 地下室につくとすぐに、ブラウニー共は静かに作業を始めた。

 意外だ。

 いつもハイホーハイホーと踊り歌いながら仕事しているのだと思っていた。

 屋敷の掃除は、歌声が聞こえていた。

 だが、地下室では静かだ。

 地下室の仕事はブラウニー共にとっては辛いのかもしれない。

 いつもと違い黙々と作業するブラウニー達を見て、少し気の毒に思う。

 だが、だからといってブラウニー共を頼らないわけにいかない。


「がんばってくださいましね」


 ということで、労いの言葉を贈ってみた。


「ありがとうよ。そうだ。お嬢さん、歌をうたってくれないのか」


 歌?


「えっと、カガミねー……カガミ様は、歌をうたったりされてたのですか?」


 プレインがすかさず質問する。


「いんや。カガミ様はいるだけで潤いになるけん。そんなこと言わないワイ」

「そこの嬢ちゃんは、アホっぽいから、歌くらいサービスしてほしいワイ」


 なんだと。

 ちょっと優しくしたらつけあがりやがって。

 やっぱり、ロンロの言う通り、数匹ほど生贄に……。


「あ、ちょっとお花を摘みに」


 オレが内心怒りに震え始めたときに、唐突にプレインが声をあげる。

 お花?

 あぁ、トイレか。

 手をパタパタ振って、まかせろと合図を送る。


「うーん」


 ブラウニーの1人がオレをみて唸る。


「ど……どうかされましたか?」


 やっぱりバレてるんじゃないか、これ。


「いんや。どっかで見たことがあるような気がするワイ」

「よくある顔ですから」

「そうじゃ。あいつに似とるワイ」

「あいつ?」

「そうじゃ。リーダとかいうのに、似とるけん。アホっぽく見えるんじゃ」

「なるほど」

「そういうことか。すっきりしたワイ」


 こいつら。

 オレの周りをクルクル回って、口々にいうブラウニー共がムカつく。

 蹴り飛ばしたい。

 オレのイライラがマックスに到達しようとしていたときのことだ。


「リーダ。交代しましょう」


 部屋の奥から声が聞こえた。

 声のした方をみると、最近見た顔。

 この世界より、さらに先の世界。

 そこで出会った赤髪の女性が立っていた。

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