第324話 きんさく

 同僚達と話し合った翌日から、金策を実行に移す。

 速攻で、完済。

 利息など余計な金など払いたくないのだ。

 とりあえずはまずバルカンのところへと向かう。

 ロープウェイを使えば、すぐだ。

 久しぶりに乗るロープウェイ。

 1年の歳月を感じることなくゴンドラは綺麗に保たれていた。

 時の流れを感じない状況は、ミランダに凍らされていたおかげだろう。

 だが、いいことばかりではない。

 変わらないのはゴンドラだけだった。


「このロープ。ちょっと傷んでいると思います。思いません?」


 ガクンガクンと不自然に揺れ、異音を立てるゴンドラに、カガミが不安げな声を漏らす。


「ロープぅ、痛んでるみたいねぇ」


 カガミの言葉をうけて、ロンロがふわりとロープウェイ周りを見てくれた。


「やっぱりメンテ、大事っスね」

「使わないと痛むのが早いのは、家と同じか」


 安心して乗れない乗り物に命を預ける気にはなれない。

 オレ達は魔法でなんとかなるが、ピッキー達には難しい。


「しょうがない。ロープは張り替えるか」


 しょっぱなから、金が出ていく話。

 まだだ、まだ始まったばかり。

 温泉の売り上げがたんまりあるはずだ。


「よっ。元気そうで俺もうれしいぜ」


 温泉に着いたら、バルカンが出迎えてくれる。


「すまない、前に譲って貰った馬車なんだが……」

「気にするな。お前らが無事だってだけで、本当に嬉しいんだよ」


 とても嬉しいことをバルカンは言ってくれた。


「ところでさ、早速なんだけど、バルカン」

「ああ、俺も話をしなきゃいけないことがあるんだよ。まずは見てくれ」


 バルカンが宿を出て、さらに先の方へと進む。

 まだ春は少し先、ひんやりとした風。

 綺麗に舗装された道を歩いて進む。

 以前に来たときよりも、道が装飾されていて、歩いて進むだけでも楽しい。

 しばらく道なりに進み、バルカンの案内で横道にそれ、さらに進むと眼下に段々畑が広がっていた。


「素敵」


 カガミが嬉しそうな声をあげる。

 だんだん畑には小さな木がたくさん植えられている。

 数人の男女が働いているのも見えた。

 オレ達に気づいて手を振ってくれる。


「これは?」

「あー。リーダ達がいない時に、ロウス法国のお姫様が送ってきたもんだ」

「ロウス法国のお姫様?」

「それがどうかしたの?」

「というか、リーダ達に宛てて届いたものだぞ。これ」


 全然心当たりがない。

 というか、ロウス法国のお姫様って、誰だ?


「なんかお茶が欲しいって依頼したんだろう?」


 お茶が欲しい?


「あっ」


 ミズキが小さな声を上げる。


「ミズキ?」

「チッキーが頼んでくれたやつかな?」


 お茶……チッキー……。

 そうだった。

 テストゥネル様のお付きの人から、お茶を分けてもらえるという話があったな。

 チッキーが頼んでくれたんだった。

 そういうことか。

 お茶を分けるにしても、せっかくだから景気良くパーっと送ってきたということか。


「そんな話あったな。バタバタしていて忘れていたぞ。だが、お姫様というのは?」

「テストゥネル様のことじゃないっスか? どこかで言葉の行き違いがあって、お姫様という話になったとか」


 なるほど。

 ちょっとした勘違いか。

 あのおばちゃん、お姫様って感じではないしな。

 とは言うものの、眼下に広がるお茶の畑。


「すごいな。風情があるよ」

「あのよ」

「バルカン?」


 オレが感嘆の声を上げると、バルカンが申し訳なさそうに口を開く。


「いや、感動してるとこ悪いんだが、この畑なんだけどな、領主からの命令で、俺が手配したんだが……」


 言いにくそうに、バルカンが言う。


「うん?」

「金貨1000枚かかった」

「は?」


 ちょっと待て。

 この話の流れでいくと、もしかして……。


「で、費用についてなんだが、領主様が貸しにするから、リーダかお前が返済するようにということになっているんだ」


 人がいない所で勝手に話を進めやがって。


「マジか……」


 バルカンの言葉を聞いて、サムソンが遠い目をして茶畑を見回す。


「領主命令だったから、失敗ができない案件だった。結果、お金が異常にかかってしまった」


 まぁ、なんとなく言いたいことはわかる。

 山を切り開いて畑にして、茶畑を作り運営する。

 そりゃ、お金かかるだろうな。


「しょうがないな」

「収益になるのは、あと数年は先だと思う……商売にするならだが」

「商売か。お願いできるなら、まかせるよ」


 それにしても、金策に来たら、借金が増えてしまった。

 なんてことだ。


「ところでさ、バルカン。温泉の儲けってのなかったの?」

「それがよう……」


 バルカンが頭をかきながら言葉を続ける。


「ミランダが来ちまって……」

「この温泉にか?」

「いや、リーダ達の屋敷のことなんだが、すぐ側だろ?」

「直線距離ではそうだな」

「屋敷が、キラキラと光って、そのせいで、あそこにミランダがいると話題になってな。それでこの辺りも商売あがったりってことになっちまった」


 氷漬けの屋敷が、妙な所でアピールしてしまったのか。

 はた迷惑な話だ。


「つまり、売り上げがなかったと?」

「あぁ。そういうことだ」


 バルカンが申し訳なさそうに言う。

 だが、ミランダも、お茶畑も、バルカンのせいではない。

 いうなれば温泉宿の不振はミランダが原因。

 お茶畑はテストゥネル様のせいじゃないか。

 送るにしても、お茶を送りすぎだろう。

 そういやミランダ。

 あいつ家賃を払っていないじゃないか。

 人の屋敷を借りきっておきながら金を払っていない。

 連絡をなんとかして取って、家賃請求した方がいいな。


「お金って集まらないね」


 ノアが心配そうにオレに言う。


「大丈夫、まだ始まったばかりだ」


 オレは心配するノアに笑って答えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る