第323話 しゃっきんせいかつのはじまり

 意気消沈して帰路へとつく。

 結局、金貨3000枚に、利息。

 借金を抱えることになってしまった。

 不可抗力の借金だ。

 しかも相手は、領主。

 利息の方は、金貨1000枚にまけてもらった。

 現時点で、金貨4000枚の返済が必要になる。

 加えて、これからひと月あたり金貨300枚の利息が加わってくる。

 なんてことだ。

 信じられない多額の借金だ。

 この世界はとってもシビアだ。

 返済できないと、借金奴隷として売り飛ばされるなんてこともあるらしい。

 もっとも救いはある。


「なんにせよ、単利で助かった。複利だったらアウトだったぞ」

「本当によかった。それに、返済の期限も切られなかったし」


 単利なので、利息は元本にしかつかない。

 利息に利息がついたら、一気にアウトだった。

 これだけで、随分と返済しやすい。

 加えて、もろもろの条件もクリアになった。

 概ね、金額以外はオレ達にとって理想的な話になった。


 ……とか、言ってられるか。


 領主なんだから、金貨3000枚くらいポーンとくれてもいいだろう。

 まったく。


「月に金貨300枚かぁ」


 ミズキが、投げやりな声をあげる。


「リーダ、どうしよう?」


 ノアが心配そうに、オレを見た。


「大丈夫だよ」

「そうそう、大丈夫だって。金は天下の回り物」

「ミズキさん、素敵、頼もしい。解決策をどうぞ」

「リーダがなんとかするんでしょ?」


 ヘラヘラと笑ってミズキが答える。

 いつものように丸投げ。


「ところで、現状、どれくらい余りがあるんだ?」

「これぐらい」


 サッと宝石の入った袋を取り出す。

 あれだけ沢山あった宝石は、今や小さい物が2つだけになってしまった。


「金貨は? 一応、大金貨が5枚に、欠片金貨が13枚あります。思ったよりつかってしまってると思います」


 金貨は、オレ達がそれぞれ数枚ずつ持っている。

 合わせても大した額にはならないだろう。

 途中、トッキー達と合流して帰路へとつく。

 トッキーとピッキーは、2・3日したら親方のところで修行を再開したいそうだ。

 ただ、修行になるかどうかはわからないという。


「一杯のお家をギリアに建てるらしいです」


 ギリアはとても発展している。

 建物も建てまくらなくてはならない。

 そんなわけで、ビッキートッキーも仕事の手伝いに駆り出される公算が高いらしい。


「お賃金がもらえる仕事です」


 レーハフさんも、月謝どころか、逆にお金を払うことになるだろうと言っていた。


「だが、こんなチャンスは二度とない。修行中の小僧共には、経験を積むいい機会だ」


 そう言って積極的に仕事に参加することを勧めてくれた。

 トッキーとピッキーの実力が上がるのであれば、それに越したことはない。

 二つ返事で了承した。


「あの、おいら達も、お金」


 帰り道、獣人達3人がそう言ってきた。


「えっ?」

「お嬢様に聞きました。たくさんお金を払わなくちゃいけないって」

「まあ、そうだね」

「おいら達もいっぱい贅沢しちゃったから」

「気にするな」

「リテレテとかいっぱい食べたし……」

「大丈夫だって、ピッキー達が食べたリテレテなんて、全部合わせても茶釜に使った石鹸、一個ぐらいだし」


 しんみりした空気の中、ミズキがとんでもないことを言った。

 あの大量に使った石鹸一個が、獣人達3人が食べたリテレテより高い?


「あの石鹸、そんなに高かったのか?」

「いやいや、こうなること分かんなかったしさ」

「というか、よくよく考えたらなんであんなにお金使ったんだっけ。フェズルードに入る前は、まだ残ってたと思ったんだけど」

「悪い。ノイタイエルを作るために、金使っちまった」


 サムソンが申し訳なさそうに言う。


「まぁ、あの時はオレ達も期待していたし、しょうがない」

「そうっスよ」

「明日から情報収集だな」


 お金をどう調達するかを考えなくちゃいけない。


「そうそう、前向きにいこうよ」


 帰り道、金銭問題について楽観視していたのは、オレと同僚達で、悲観的なのはノアと獣人達3人だった。

 金銭問題なんて、子供があれこれ考えなくてもいいと思うのだが、なかなか難しいようだ。


「大丈夫だよ」と何度も、ノアと獣人達3人をなだめ、その日の夜、改めて話し合う。

「とりあえず、どうするかだな」


 夜中、同僚達とテーブルを囲んで金策会議をした。


「そうだ、大前提としてオレは働きたくない」


 まず譲れないところを宣言することにする。

 やっとデスマーチ続きのクソ仕事から逃げられたってのに、1年程度でまた仕事の嵐に巻き込まれるなんてまっぴらごめんだ。

 異世界生活らしく、ドカンと一攫千金を狙いたい。

 無論働かずに。

 オレの一言に込めた想いに気づいたのか、カガミがため息をついた。


「で、どうします? 働かないとダメだと思うんです。思いません?」


 オレの言葉は一蹴された。


「ただ、どこで、どう働くかっていう問題があるぞ」

「魔法を使って、じゃんじゃん稼ぐってのは?」

「確か前に、魔法を使う商売は、魔術師ギルドに加入しないとできないと聞いたな」

「そっか。残念」


 魔術師ギルドは、ギリアにはない。

 しかも、ギルドの加入するためには、それなりの身分が必要だということだった。

 つまり奴隷階級のオレ達にはちょっと難しい。


「肉体労働は? 身体強化で、パワフルに肉体労働で荒稼ぎってのはどうっスか?」

「さあ、ギルドとかで確認してみないとわからないな」

「ギルドって言えば、冒険者ギルドの依頼で、難しいやつ片付けてさ、一攫千金っていうのは?」

「冒険者稼業ってことか?」

「冒険者に限らず、一攫千金のいいアイデアがあれば、それに乗るのは悪くないな」

「では、明日か明後日、ピッキー達をレーハフさんの所に送った後で、商業ギルドにいきましょう」

「そっスね」

「そういえばプレインのマヨネーズ事業どうなったんだ?」

「さあ、それもギルドで確認してみるっス」

「そうだな、オレ達がいない間に大ブームってことも、あるかもしれないしな」

「ギリアは、人増えたようですしね」

「そうだな、栄えてる。商売も上手くいってそうだ」

「あっ、そうそう。バルカンは?」


 忘れていた。あいつに温泉事業を任せていたんだ。

 少しは売り上げがあるかもしれない。

 うまくいけば一気に返済できるかもしれない。

 悪くても利息分にはなるだろう。


「明日あたり、バルカンところにも行ってみようか」

「あっ、そうっすね。それがいいっス」


 結局、地道に働くという話にはならなかった。

 この世界に来た当初と違い、皆が楽観的だ。

 知り合いもいる。魔法を始め、いろいろな知識も手に入れた。

 経験生かして、一攫千金。

 楽してお金を稼ぐのだ。

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