第321話 こんごについて

 不機嫌なノアが寝た後、夜遅く。

 同僚たちと話をした。

 オレが、この世界とは別の異世界で体験したこと。

 そこで話をしたこと。

 さらには今後のことについてだ。


「ということは、何かすごい人達が殺しに来るってことっスか?」

「まあ、そうなるな」

「マジか」

「で、結局さ相手は?」

「うーん……なんとかなんとかの、イ・アっていう人の仲間らしいよ」

「なんとかなんとかって……」

「いや、いきなりだったし、早口で名前の前についた言葉が長かったんだよ」


 名乗りをもうちょっとちゃんと聞いておけばよかったと思うが、覚えきれなかった。

 でも、なんだかなじみのある言葉でもあったな。

 もう一回聞けば思い出せるかもしれない。

 逆に、名前は二文字だったので、簡単に覚えることができた。


「情報は多い方がいいと思うんです」

「おいおい、何かヒントはないのか?」

「あとは、モルススの者だって、赤い髪の人が言ってたよ。で、イ・アっていう人はそれを否定していた」

「モルスス、毒をばらまいた国っスね」

「病の王国だっけかな。まぁ、正確なところはわからないけど」

「うーん」


 オレの言葉を聞いて、サムソンが椅子に座ったまま大きくのけぞった。

 サムソンを始め、皆、冷静だった。

 カガミは頬杖をついて前をぼんやりと見ている。

 ミズキと、プレインは、興味のない会議での態度そのものだ。


「なんか急にスケールが大きくなっちゃって、分かんないっスね」


 プレインはいつもの調子でぼやくように言った。


「まぁ、何とかなるでしょ」


 ミズキも、いつもの調子だ。しかも人が真面目な話をしているのに酒を飲んでいる。

 まったく。


「真面目な話をしてるのに、酒なんか飲みやがって」

「まあまあ」


 そう言ってオレのコップに、ミズキが酒を注ぐ。


「まだ、お茶残ってたんだけど……」

「つまみも、あるんだしさ」


 そんなこと言って干し肉を入れた皿を差し出してきた。

 まったく。やる気があるのか。

 しょうがないので、干し肉を手に取り、モグモグと食べる。


「で、問題は、これから更に危険なことになるってことだ」

「それで?」

「いや、もう一度、身の振り方を考えた方がいいんじゃないかなと思ってね」

「リーダは帰るの?」

「そんなわけないだろ」

「ですよね」

「私もさ、そのうち帰ることになるとは思ってるよ。でもさ、危ない状況にあるって言われて、ノアノアやチッキー達を置いて帰るわけないじゃん」


 ミズキが当然のことのように言う。


「俺もだな、残るぞ」

「ボクも残るっスよ」

「私も残ります。そうなれば、対策をした方がいいと思うんです。思いません?」


 皆が残ると言った後、カガミが対策を立てることを提案する。

 確かに対策は必要だな。


「リーダ。お前がやった、あの魔改造聖水。あれもう一回作るべきだと思うぞ」


 確かにそうだな。

 同じような敵にあたった時、あれは武器になる。


「じゃ、もう一個の樽で神殿周りするよ」

「他にも、神殿で何か役に立ちそうなもの……いえ、とりあえず、なんでもかんでも買っといた方がいいと思うんです。思いません?」

「そうだな」


 今回、聖水が偶然役にたったのだ、先入観なしで、道具は準備したほうがいいだろう。


「聖なる武器とかあるのかな」

「神殿で、武器を売っている場面は見たことないが、もしかしたら、あるかもしれない」

「俺は、魔導具に、屋敷にある目録、そのあたりを当たってみるぞ」


 その後も夜遅くまで皆で話し合った。

 結局、誰1人として元の世界に帰るつもりはないこと。

 襲いかかってくると予告のあった敵について、対策を立てる話で盛り上がった。

 それが、オレにはなんとなく嬉しかった。


「ギャーギャー」


 翌日は、うるさい鳥の声で目が覚める。

 二日酔いで頭が痛い中、さらに鳥の叫び声でガンガンと痛みが増した。

 なんなんだ一体?

 ノソノソと起き上がり、広間へと向かう。

 すると広間には、カガミとチッキーが話をしていた。


「あっ、おはようございます。顔でも洗ってきたらどうですか?」

「そうなんだけどさ、鳥の声がうるさくて。あと、薬飲みたいんだけど」

「飲めば? 影の中にあるんですよね?」


 そうだった。

 しゃがみこみ、薬を取り出し、エリクサーを飲み干す。

 一瞬で二日酔いが治るので、この世界は便利だなと思う。


「領主様が、すぐに城へと来るように。ですって」


 オレがそうやって、二日酔いからの解放でスッキリ気分を味わっていると、カガミが声を上げた。

 あのうるさい鳥は、領主の送ってきたトーク鳥か。


「まぁ、近々行くつもりだったけどさ。じゃあ今日やることは決まりだな。とりあえずオレが行けばいいだろう? カガミ達は部屋を掃除して……」

「いや、全員で来るようにということですよ」

「全員? チッキー達も?」

「いえ、ノアサリーナと5人の従者、全員で来ること……だそうです」


 そっか。

 すぐそばのチッキーが安心した様子で、小さく息を吐いていた。

 相変わらずお偉いさんは苦手なようだ。

 オレも嫌だけど。


「全員で来い……か。しょうがない。じゃ、他のやつもたたき起こして、朝食食べたら出発しようか」

「ミズキ以外、皆起きてますよ。そうですね。ついでにレーハフさんのところにも寄っていきましょう」


 帰って早々、のんびりする暇もなく、城へと出発する。

 もっとも御者はピッキーに任せるし、海亀の背には小屋を乗せた状態のままなので、特に苦労もせず町へと着くことができた。

 ゴロゴロしつつ、町へと行けるのは凄く快適だ。

 ギリアの町で、オレ達の様子は珍しいようで、指さされたりしていた。

 おかげで、小屋の外には出にくい。

 ノアは小屋の窓からチラチラと外を見て、すごく嬉しそうにしていた。

 城へと着くと、ヘイネルさんとエレク少年、それに数人の兵士が待っていた。

 いつもとは違い、大所帯で出迎えられ、こちらも全員が揃っている状態だ。

 いつもの執務室は、人数的に無理だという判断なのだろう。

 大きな部屋に通される。

 そこには領主と、そして、青い髪をして、金属製の仮面をつけた男が待っていた。

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