第十七章 立ちはだかる現実

第316話 みちがえるギリア

「つめたい!」


 すぐそばで、ノアの声が聞こえた。

 目が覚めたようだ。


「おはよう、ノア」


 ノアに声をかける。


「リーダ!」


 大きな声を上げて、ノアはオレに抱きついてきた。

 オレの服に顔をうずめて、ぐりぐりと額を押し付けている。


「心配させちゃったね。ノア」


 ノアの頭を軽く撫でながら、そう答える。

 オレの服に顔をうずめたまま、ノアはコクコクと大きく何度も頷いた。


「でも、おかげで、黒の滴を本体もまとめてやっつけちゃったよ」


 成果を報告する。


「倒しちゃったの?」


 ノアは、ぱっと顔を上げ言った。


「そーだ。倒しちゃった」

「すごい!」


 満面の笑顔でノアはねぎらってくれた。


「どうします」


 そんなオレ達をみて、嬉しそうな笑顔のカガミが声をかけてくる。


「とりあえず陸に上がろう。こんな寒いのはまっぴらだ」

「茶釜は?」

「ほら、あそこ」


 ノアの問いかけに、カガミが器用に泳ぐ茶釜を指さす。

 茶釜を先頭に、子ウサギが器用にパチャパチャと音をたてて泳いでいた。


「じゃあ、茶釜に続け!」

「海亀さん、お願いします」


 獣人3人が床を叩き、海亀に指示を出す。


「帽子、帽子。この子、寒そう」


 ミズキに言われて、海亀用につくった、シルクハット型の帽子を取り出す。

 かぶると海亀が飛翔魔法を使えるようになる魔導具だ。

 ミズキが慣れた様子で、帽子を被せると、海亀は即座に魔法を使い、水面へと浮き上がった。

 湖の冷たさがよっぽど堪えていたのか、必死な感じだ。

 水面の上を跳ねるように走っていく。

 スピードはぐんぐんと増し、先行していた茶釜に一気に追いついた。

 そして追い抜く。

 追い抜かれた茶釜は、すぐに海亀の尻尾にかじりつき、引きずられるように泳ぐ。

 その背中には子ウサギが、器用に捕まっている。


「可愛い!」


 ミズキが嬉しそうな声をあげる。

 オレは、周りを見る余裕なんてない。

 跳ねる水が体にかかって、冷たくてしょうがない。早く陸に上がりたい。

 軍艦は、しばらく追いかけてきていたが、やがて諦めたのか、スピードをどんどん落としていった。

 いきなり空から物体が落ちてきたら、それは警戒するよな。

 春は近いが、いまだ空気が冷たい。

 そして水も冷たい。

 下手すると、ショック死するんじゃないかって言うぐらいの冷たさだ。

 だが周りを見ると、もうすでに雪は溶け、湖から見える山々も青々としていた。

 ギリアの山の緑と、湖の青は、やはり絵になる風景だと思う。

 港に着き、飛び上がるように上陸した。

 今度は兵士がこちらに向かってくる。

 特に、武装しているようではなく、何だアレって感じで互いに話をしながらの小走りだ。

 捕まって冷たいまま尋問されるのは嫌だ。


「とりあえず外にでよう。それから影の中から家を取り出して、海亀の背に取り付ける。体を乾かしてゆっくりギリアの屋敷に戻ろう」


 領主への報告は、後日でいいだろう。


「オッケーイ!」


 茶釜達エルフ馬は、上陸して、しばらく走った後、ぷるぷると身体を震わせた。

 茶釜がやるのを見よう見まねで、子ウサギ達も一緒になってぶるぶると体を震わせる。


「かわいい!」


 カガミとミズキが嬉しそうに見ている。

 茶釜と旅を始めて、数ヶ月。

 そろそろ見慣れてもいいころだと思う。

 まあ、そんなことはどうでもいい。まず外に出るのだ。

 道なりに、町を進んでいくと、ギリアがずいぶんと様変わりしていることに気がつく。

 スカスカだったギリアの町に多くの建物が並んでいる。

 それだけではない。巨大な足場が見えたり、トントンカンカンと金槌をたたく音が、あちらこちらから響いてくる。

 ギリアの町がどんどん発展していっている。


「あっ。親方だ! おやかたー!」


 ピッキーが嬉しそうな声をあげる。


「おう! 坊主共!」

「ただいま親方!」

「すいません。後でまたお伺いします!」

「おお、頑張れよ!」


 レーハフさんは引退したはずなのに、足場の方に立って作業中だった。

 ピッキーの声に、嬉しそうな声をあげ、手を振ってくれた。

 ギリアは変わっても、住んでいる人は変わらない。


「落ち着いたら挨拶に行こうな」

「はい!」


 そう言いながら、町の外へと出ていく。

 とりあえず、外に出て落ち着いたら、とっとと体を乾かそう、お風呂に入るのもいいかもしれない。


「あれ。宿が立派になってる」

「マジだ。3階建てになってるぞ」


 見違えるように変わっていく町並みを眺めつつ、しばらく進んでいき、ギリアの町を出ていく。

 門に近づいたとき、最初は槍を構えていた兵士たちだったが、オレ達の姿を見ると、サッと槍をよけて道を譲ってくれた。


「やっぱり信用っていいもんだよな」


 不審人物だと思ったが、知っている人だったので道を空けてくれたっていう感じだ。


「さぁ。町の外っス」


 町からで出て、しばらく道なりに進む。


「あっ。バルカンじゃん!」


 前から、バルカンが馬車にのって向かってきていた。

 二頭立ての、ものすごく巨大な馬車に乗っていた。


「あー。ミズキじゃないか! 戻ってきてたのか!」

「今さっき戻ったとこ」

「あぁ、そういや……」

「ごめん、バルカン。ちょっと急ぎだからさ、お話はまた今度!」

「あっ、おい」


 バルカンとの再会も祝いたいが、とりあえず暖を取りたい。

 もう少し進んだら、休憩にしよう。

 それにしてもバルカンが乗っていた場所は、巨大だった。

 馬車と言っても、引っ張っているのは巨大な猿だ。

 そういや昔見たな。

 エレク少年を冬に迎えにきた巨大猿だったな。

 名前忘れてしまったけれど。

 巨大猿の2頭立て。迫力があった。

 その後も頻繁に馬車とすれ違う。

 護衛の兵士なども一緒にいて、物流が盛んといった感じだ。


「街道を外れたあたりで、休憩をとることにしたほうが良くないっスか?」


 プレインの言葉に大きく頷き、屋敷へ向かって進んでいく。

 街道をはずれて、しばらく進むと人通りもいなくなった。


「家を備え付けて、ここで一旦休憩にしよう」

「寒いしね。ちょっと着替えたいと思います」


 すぐに家を取り出す。

 トッキーとピッキーが手慣れた様子で海亀の背に取り付けてくれる。


「なんだか、工事現場ばっかりだったっスね」

「新しい家も増えてた」

「結局、オレ達って1年近く旅をしてたから、その間にあれだけ家が建ったんだよな」

「そうそう」

「たった1年の間にあんなに変わっていたのには、驚いたぞ」

「何があったんでしょうね」


 当面は、情報収集をした方がいいかもしれない。

 だが、まずは暖を取ろう。

 いろいろあったし、少し休憩だ。

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