第313話 アンクホルタのていあん
気がつくとベッドの上だった。
フェズルードにある屋敷のベッド。
「目を覚ました」
オレがムクリと起き上がると、カガミがそんな俺の動きに気づいたよう大声をあげた。
「あっ、おはよう」
オレなんかに興味はないとばかりに、部屋から出て行こうとするカガミに答える。
ちらりと笑顔でカガミはオレを見た後、部屋を出て行って外の皆にオレが目を覚ましたことを伝えて回っていた。
随分心配させてしまったようだ。
ふと見ると、部屋の隅に毛布にくるまって、ノアが眠っていた。
ノアは目元が腫れていた。
『バタン』
次にプレインが部屋に入ってきた。
「先輩、もう目が覚めないんじゃないかと」
涙声でプレインが言う。
「いや、心配をかけた。でも、もう大丈夫だ」
「そうだ、目を覚まして、すぐで申し訳ないんスけど、ちょっと困ったことが」
「あぁ」
寝起きなのに、頭はすっきりしている。
問題はない。
「あっ、ノアちゃん。ボクが連れていくっス」
オレが、ちらりとノアを見たのに気がついたのか、プレインがそんな申し出をしてノアを抱きかかえた。
器用に、ノアを抱きかかえたまま扉を開ける。
外へと向かって歩く。
「先輩が寝たまま起きなくなっちゃって、ノアちゃんがすっごく大泣きして、何本も何本もエリクサーを飲ませて……」
「そっか」
不安にさせてしまったようだ。
不可抗力だったとはいえ、酷く心が痛む。
外に出るとアンクホルタと、ヒューレイストがいた。
「あれ?」
「えぇ。リーダ様の目が覚めたようで、安心しました。あぁ、ウートカルデは、町の様子を見に行っています」
「皆、心配して来てくれたんだよ」
ミズキが言う。
ふと見ると獣人達3人も元気そうだった。
皆、無事だ。よかった。
外に真っ黒い水が入った樽が残っていた。
サムソンが腕を組み、ずっとそれを見ていた。
「目が覚めたようだな」
「あぁ。心配かけたよ」
「一応、ずっと見張っていたけど、もう動きはないようだ」
「元凶を潰してきた。もうそれは無害だよ」
「元凶? まぁ、その話は後にしよう。ちょっと困ったことがおこってるぞ」
「困ったこと?」
「町が大混乱なんです。それで、どうやら、私達が原因でないかと思われているようで……」
そう言って、カガミがちらりとアンクホルタを見る。
「すごい爆発があって、それから黒の滴でした。あの闇が晴れた後、混乱の中、噂になっています。皆さんが、何かしたのではないかと」
カガミの視線をうけて、アンクホルタが状況を説明する。
つまり、元凶がオレ達だと思われている。
思われているというか、それは真実で、対応は必要ということか。
言われてみると、遠くの方から人の声が聞こえる。
人が少ないこの地域で、これほど聞こえるということは、町は大騒ぎなのだろう。
「領主からの呼び出しはありそうだな」
ここの領主がどんな人か知らないが、なんとなくやり手だという印象はある。
正直に言うにも、言い訳するにも、良い言葉が浮かばない。
さてどうしたものか。
だが、事はそんな簡単ではなかった。
「たーいへん。領主が兵士をつれて、こっちにきてるわぁ」
慌てた様子のロンロが、バタ足するように、足をばたつかせながら、こちらへと向かってくる。
領主が直々に、向かってきている?
いきなりか。
オレが寝ていたせいもあるかもしれないが、行動が早く感じる。
「町が混乱しているのに、私達を目指しているんですか?」
カガミが、ロンロへと問いかける。
そういえば、そうだ。
町の混乱を放置して、領主がこちらへと来るのは意外といえば意外だ。
「盗み? 喧嘩? そんなものは放置しておけ、いつものことが多少派手になっただけではないか。だが、黒の滴は別だ。あれがあんな風に消えるなど文献にはなかった。それに、目立った犠牲者がいない。爆発といい、黒の滴といい、元凶を、奴らを、尋問する必要がある。最優先だ! ……なんて言ってたわぁ」
ロンロが口調を変えてまくし立てる。
きびきびした口調だ。
領主のものまねか。
思いっきり、オレ達が目的か。そのうえ、尋問とか、穏やかな話になりそうもない。
「お嬢……、リーダ様も!」
そういう話をしていた時、ウートカルデが屋敷へと駆け込んでくる。
「状況は?」
「はい、お嬢。領主は、想像以上の精鋭を抱えています」
アンクホルタに、そう言ったあと、オレ達をみて言葉を続ける。
「おそらく、目的は皆さん達です。目の前で、強盗があっても無視して、一人一人の人相を確認しつつ向かってきています。展開している兵士の数からいっても、この屋敷を取り囲む予定だと思われます」
「ロンロの言葉とも一致するっスね」
「一旦、逃げるか」
こちらから出頭して、話をしようとも考えたが、なんとなくそういう雰囲気ではなさそうだ。
とりあえず、相手が落ち着くまで、身を隠したほうがいいようだ。
「でも、いきなり兵士連れてくるなんてひどくない?」
「いや、最初の大爆発で、警戒したんだとおもうぞ」
「爆発? あれって、そんなに酷かったか?」
「屋敷をよく見ろ」
オレの言葉に、サムソンが屋敷を指さす。
いわれるまま見ると、屋敷の一部が吹き飛んでいた。
しかも、壁も消え失せ、さらに先にある建物も倒壊している。
思った以上の大爆発だったのか。
確かに、この状況を見ると警戒されてしかるべきだ。
「さて、どうしたものか」
ウートカルデの見立てでは、兵士は精鋭揃いだという。
そんな精鋭を引き連れて、領主は警戒をあらわに、迫ってきている。
姿を見せるのは、不安だ。
だからと言って、この大所帯だ。
これから、隠れる場所を探すことも、秘密裏に脱出することも難しい。
「ここは、わたくし達が引き受けましょう」
オレが考えあぐねていると、アンクホルタが声をあげた。
「お嬢?」
「いつか恩を返さないといけないと思ってたでしょ?」
「確かに」
アンクホルタの言葉に、ヒューレイストが深く頷く。
「巨人の鳥かごをつかいましょう」
「鳥かご?」
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