第306話 きんのトーテムポール
「なにあれ?」
「ノイタイエル……潰れちゃった」
「トーテムポールが落ちてきた?」
予想外の事態だ。
トーテムポールの顔の部分が、ガクンと音を立てて動き、口から金色の粉を吐き出す。
何だろう?
『ドサリ』
背後で音がした。
「にい、ちゃ……ケホッケホッ」
振り向くとチッキーが苦しそうに小さく咳き込んでいた。
ピッキーとトッキーは倒れていて、トッキーはビクビクと痙攣していた。
モルススの毒。
そうだ。迷宮ランフィッコでスライフが言っていた。
モルススの毒は人間には効かないが、獣人には効く。
それを思い出す。
放っておくことはできない。
すぐにこの場から離れなくてはならない。
「ミズキ!」
放心状態で、チッキーを見ていたミズキに声をかける。
ショックで、呆然としたミズキがぼんやりとこちらを向いた。
「ミズキ! 茶釜に乗って3人を別の場所に!」
影から無造作にエリクサーの入った小瓶を取り出し、ミズキに投げ渡し大声をあげる。
小瓶がコツンと胸元にあたったところで、ミズキがようやく状況が飲み込めたように頷いた。
「わか……わかった!」
ミズキはコクコクと頷き、跳ねるように駆け出していく。
まるで、ミズキの動きに呼応するように、茶釜が走り寄ってきた。
そのままふわりと慣れた調子で、茶釜に跨がったミズキは、3人を抱えて遠く離れていく。
とりあえず、獣人3人は心配だが、ミズキに任せる。
離れてエリクサーを飲ませれば、きっとなんとかなるはずだ。
次は。
「カガミ!」
「壁で囲むんでしょ? もうやってる!」
オレが名前を呼んだ直後、カガミの怒鳴り声のような返答が聞こえた。
さすがだ。
そういえば、ハロルドは?
モルススの毒は、人以外にとって毒だったはずだ。
「ハロルド」
「拙者は大丈夫でござる!」
ハロルドは胸をドンとたたき返事する。
あいつは平気なのか。
あの様子であれば、ほっておいても大丈夫だろう。
「先輩! あれ、壊しましょう」
「あぁ! まかせろ! オレがぶっ壊す」
こんな物騒なものはとっとと破壊するに限る。
「ヌネフ! 頼む! 風で粉をとばしてくれ」
オレが魔導弓タイマーネタを取り出している途中、サムソンの声が聞こえた。
風で、飛ばすか。
確かに、町に粉が充満するのは避けたい。
「遙か遠くへ、飛ばしてあげますよ」
「てやんでぇ」
真面目な顔したヌネフがオレ達の側へと降りて、そう言った。
なぜか、ノームも、ツルハシで地面を叩いている。
ヌネフの応援でもしているのだろうか。
だがヌネフの言葉を聞いて、安心できた。
タイマーネタをトーテムポールへと向ける。
「下から、こいつで貫く! サムソン、手伝ってくれ」
「まかせろ」
カラカラと音を立てながら金色の粉を吐くトーテムポールを破壊すべく行動する。
今度は大丈夫、射線上には何もない。広い空が広がるだけだ。
「ラルトリッシに囁き……」
躊躇無くタイマーネタを発射する。もちろん、フルパワーでだ。
光の柱がトーテムポールを貫く。
『ガァン』
けたたましい轟音。まるで鐘が鳴るような音がして、トーテムポールが真っ二つに破壊される。
『ドォン、ドォン』
2度大きな音がして、大きな破片となったトーテムポールが倒れた。
『ガガ……ガ……』
倒れた後も、少しだけトーテムポールの顔は震えていたが、すぐに止まり、金色の粉も吐かなくなった。
とりあえず、モルススの毒を吐くことはなくなったようだ。
タイマーネタを影に直し、一息つく。
「焦ったぞ」
「これで、ミズキ姉さんが連れて行ったピッキー達が無事だったら、一安心っスね」
プレインの言葉に頷く。
「それにしても、こいつ何だったんだ」
「わからないが、ノイタイエルはアウトだぞ」
粉々になったノイタイエルに視線をやり、サムソンが呟く。
「魔法が……認証が失敗したってことっスかね?」
「うーん、どうなんだろうな。わからないことだらけだ」
「ちょっとボク、ミズキ姉さんを追いかけてくるっス」
終わったことを伝えにプレインが動き出そうとした時。
「気をつけろ、そいつは爆発するぞ!」
聞いたこともない男の声が辺りに響いた。
えっ?
その言葉を聞いて、トーテムポールを見ると、そこで初めて異常に気がついた。
バラバラになったトーテムポールの破片が小刻みに震え、そして少しだけ膨らんでいたのだ。
ゆっくりゆっくり、震えながら膨らみは大きくなる。
『チチチチチチチ』
しかも、気持ち悪い音がこだましていた。
小さな音だ。
見逃していた。
まるで、秒針の動く音。
そう、映画でみる爆弾のタイマーが進むような音だ。
爆発する?
秒針が動くような音はどんどんと間隔が短くなっていく。
やばい。爆発する。
妙な確信があった。ここから逃げるどのくらい爆発どうかわからない。
トーテムポールの破片が、黄色い光を放ちだした。
時間がない。
「皆、伏せろ!」
大声をあげる。幸い、深くは積もっていないとはいえ、周りは雪だ。雪に埋もれるように体を沈めれば凌げるかもしれない。
『ドゴォン……ゴッゴォォン』
伏せろと、オレがそう言って、地面にダイブしたのとほぼ同じタイミングで、轟音が響いた。
2度。
2度?
そしてパラパラと土煙が空から落ちてくる。
ふと顔を上げると、先ほどまでトーテムポールの破片が転がっていた場所が大きく盛り上がっていた。
まるで、地面が円柱状に隆起したように。
「ひょっとして、ノームが……トーテムポールの破片を地面ごと盛り上げたっスか?」
「てやんでぇ」
プレインの問いかけに、まるでそうだと言わんばかりにツルハシを頭上で振り回した。
「助かったよ。ノーム」
これで終わりだよな。
さすがに、これ以上なにも起こらないだろう。
「それにしても……」
「毒に、自爆って、あぶなすぎっスね」
「確実に俺達を殺しにきてたぞ。あれ」
オレ達というより、獣人を、殺す気満々な挙動だった。
なんだったんだ、一体。
「でもこれで大丈夫……っスよね?」
プレインが同意を求めるように質問してきたときだ。
空がいきなり暗くなった。
『ポチャン……』
とても澄んだ水音があたりに響いた。
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