第285話 ばんねこ

 別荘に戻って作戦会議をすることになった。

 とりあえず決まっているのは、寒さへの対策。

 最初の対策として、服を買うことにする。

 幸いなところ、お金さえあれば、暖かい服については簡単に手に入りそうだ。

 古着であればの話だが。


「それに暖炉石も作っておこう」

「暖炉石?」

「魔力で暖かくなる懐炉の魔導具だよ」

「いいね。他にも暖かく過ごせる魔導具あったら、じゃんじゃん作っちゃおうよ」


 暖かく過ごす魔導具は、あるにこしたことない。


「じゃ、目録をあたってみるか」


 寒いのは嫌だということで、皆の意見は一致している。

 笑顔で皆が頷く。

 後は、あの人達の申し出を受けるかどうかだ。


「受けてもいいと思うぞ」

「えぇ。話を聞く限り、信用できるかと思います。思いません?」


 確かにオレも、話を受けていいと思っている。


「そうだな。確かに、罠の解除とかできる人間を雇うことを考えたくらいだ。一緒に組むのであれば、願ったりかなったりだ」


 というわけで、申し出を受けることに決まった。


「それじゃあ、あとは誰が留守番するか決める必要があるっスね」


 そう。あとはチーム分けを決めなくてはならない。

 エルフ馬である茶釜と子ウサギ3匹、それに海亀、加えてロバ。

 それらを世話するチッキー、そしてトッキーとピッキー。

 獣人達3人と家畜だけを置いて、家を空けるわけにいかない。

 迷宮に行きたいのはミズキ。

 戦力としてハロルドには居て欲しい。そうなるとノアも一緒だ。

 ノアを危ない場所に連れて行くのは不安だが、仕方が無い。ということになれば、オレも迷宮にいきたい。


「ちょっと戦った跡があったよね」


 ミズキの指摘に、危険な場所であると再確認する。

 それにしても、気づかなかったけれども、戦った後だったのか。

 確かに何度も出入りしていると言っていた。何も危険がないのであれば、そこまで複数回、探索する必要はないだろう。

 そういえば、自分達の戦う技能についても言っていたな。

 いつの間にか背後も取られていたし、強そうな2人が手こずる迷宮か。

 迷宮探索について人員は多い方がいいな。となると、ここに残すのは、せいぜい2人だ。


「うーん、あのさ」

「ミズキ氏、何か考えが?」

「イアメ……えーと、キンダッタに頼むのはどう?」

「あいつが信用できるかな、微妙だぞ」

「話した感じ、自分が金獅子だって白状してたし、大丈夫なんじゃない?」


 今まで隠していた正体を明かしたのだ。今更、敵対することはないか。


「ヌネフは悪意を感じていましたか?」

「ムグ? そんな悪意なんて感じなかったですよ」


 カガミの言葉に、部屋の隅でドーナツを食べていたヌネフが答える。

 ヌネフがそう言うなら大丈夫か。


「まぁ、受けてくれるかどうかは分かんないけど、頼む価値はありそうだな」

「じゃあ、とりあえずさ。明日、買い物ついでにキンダッタのところに行って、ちょっと打診してみてさ。それから決めようよ」


 ミズキの提案に乗ることにする。

 翌日、朝食を食べた後、キンダッタのいる宿へと向かう。

 なかなか立派な宿だった。清潔感が溢れる宿で、高そうだ。

 とりあえず、宿の職員にチップを払い、キンダッタを呼び出してもらう。


「ここって宿っていうよりもさ、なんかホテルって感じだよね」

「そうっスね」


 呼び出しに応じて出てきたのは、キンダッタと、そしてもう1人。


「うわっ、デブ猫」


 ミズキはとても失礼なことを言ったので、たしなめなくてはならない。

 確かにデブ猫だけど。

 だが、これは聞こえたとか、聞こえないとか、そういう問題ではないのだ。


「デブとかいうなよ、デブとか」

「はいはい」

「おはようございます。キンダッタ様」

「お前達は何でゴンス?」


 後ろのデブ猫がずいっと前に飛び出て、オレを睨みつけ、言葉を続ける。


「奴隷の立場で、キンダッタ様に直接口を利くとは!」

「良いのですゾ。で、何か用ですかな?」

「キンダッタ様にお願い事がありまして」

「お願い事?」

「あのさ、キンダッタ様に護衛をお願いしたくてさ……じゃなくて、したいと考えまして」

「なるほど護衛と」


 それから簡単に説明をする。別荘の護衛を依頼したいこと。報酬は1日辺り小金貨くらいでどうだろうかという話だ。


「ふむ。チッキー達のおもりも加えてですかな?」

「お守りっていうか、護衛ですね」

「住み込みで? 後のものは?」


 そういって、キンダッタは後に控えていたデブ猫をチラリと見る。


「もちろん一緒に、別荘に行って滞在していただければ」

「ふむ、分かりましたぞ。まぁ、それぐらいなら、引き受けましょうゾ」


 よかった。快諾してくれた。後、獣人達3人に、用意が出来たよって伝えるぐらいだな。

 それから、キンダッタは後のデブ猫……マンチョという彼の従者に事情を説明していた。

 どういった説明をしたのかわからないが、いきなりキンダッタの前にしゃがみ込み、キラキラした目で返答していた。


「ちなみにドーナツの作り方を教えていただけますかな?」


 キンダッタは本当にドーナツ好きだな。

 作り方を知りたいのか。


「かまいませんよ。そうですね……チッキーが作り方を知っています。護衛で滞在中にチッキーに習って頂ければと思います。繰り返し練習すれば、きっとすぐに作れるようになりますよ」

「無償で教えてくれるのですか?」

「もちろん」


 カガミの回答を聞き、キンダッタはすぐに後に控えていたマンチョへ小声で何かを伝える。


「さすが! キンダッタ様。このマンチョ、一生ついていくでゴンス」


 なぜか、マンチョはキンダッタにお礼を言っていた。

 オレ達の会話は、マンチョにも聞こえているはずだから、別にいいんだけど、不思議だ。


「では、任されましたぞ」


 とりあえず留守番は決まった。

 次は暖かい服だ。

 これはサクッと購入できた。しかも新品。微調整もその場でしてもらう。上から羽織るタイプのすごく分厚いマント。

 ノアはハーフリング用の服を流用することになった

くわえて、暖炉石をはじめ、防寒用の魔導具を作る。

 思ったより、いろいろな防寒用の魔導具を作ることができた。

 なんだかんだといって、魔導具作りにも慣れてきたようだ。

 準備はできた。

 ついに迷宮へ挑むのだ。

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