第286話 めいきゅうへはいる

「快諾していただけて、嬉しく存じます。では、よろしくお願いしますね」


 迷宮へ一緒に潜ることを了承する。

 3日の後、迷宮ランフィッコ前で落ち合うことを約束し、軽く自己紹介することになった。

 短剣をオレに突きつけた男、ウートカルデ。彼はゲームで言うところの盗賊職。

 そういえば、前に名前を呼ばれていたな。

 上半身裸の男は、ヒューレイスト。治癒術士らしい。加えて格闘戦の達人ということだ。


「そして、そこのお方が、アンクホルタ様。我らが主人だ」


 ヒューレイストが笑顔で、水晶をもった女性を紹介する。

 一緒に迷宮へと行くことを提案し、他の2人からお嬢と呼ばれていた女性だ。


「ご紹介にあずかりました、アンクホルタと……えぇと、前も名乗りましたね。わたくしは、望む未来への手がかりを、ほんの少しだけ見ることができます。もっとも、取り柄がそれだけで、2人の足手まといなのですよ」


 そういって小さく笑う。


「いやいや、お嬢。そんなことは!」


 笑うアンクホルタに、2人の男がまくし立てるように、彼女の良いところを言う。

 2人の言葉からわかるのは、彼女は本当の未来が占えるということ。

 その力を使い、目的のものがフェズルードにあることを知り、さらには、この迷宮に入るための鍵も見つけたということだ。そして、鍵を使うことで、あの隠し通路を開くことができたそうだ。


「あの迷宮、ランフィッコの先をみつけて4ヶ月になります」


 そして、今までの探索による結果を教えてくれた。

 地図を作りながら、じっくりと進んでいたそうだ。

 ちなみにオレ達も、3人へ自己紹介する。

 もっとも、彼女達のようにはっきりとした役割分担はない。

 皆、魔法を使うだけ。つまり魔法使い。

 特筆できる違いといえば、ミズキが接近戦が得意なことくらいかな。


 そして3日後。


「ご主人様行ってらっしゃいませ!」


 ドーナツの作り方を習うことができると大喜びのマンチョと、すました様子のキンダッタ。

 いつものように元気な獣人3人に見送られ迷宮へと向かう。


「子供を連れてくるなんて、どうかしてる。足手まといはいらないんだがな」


 出会い頭、さっそく悪態をつかれる。

 というより、当然の反応か。危険な迷宮にノアを連れてきたのだ。


「まぁまぁ、ウートカルデ。出発前からそのような態度ではうまくいくものも、行きませんよ」

「だが、お嬢。わしも彼らの装備には不安になる。準備はそれで全部なのか?」


 なだめる占い師のアンクホルタに、不安な様子のヒューレイスト。

 アンクホルタはともかく、格闘家兼治癒術士のヒューレイストは、今日も上半身裸だ。

 確かに、ヒューレイストの疑問は当然だ。


「ご心配なく。私が、ほら、このように」


 そう言って、壁に映った影から杖を取り出す。

 手ぶらに見えて、大量に物を持っているアピールだ。


「ははっ。そうか。さすがは魔法使い。わしらの使う魔法とは格が違う」


 オレの影収納をみて、ヒューレイストは楽しそうに笑った。

 誤解が解けて、オレも嬉しい。

 だが正直言って、何か上に羽織って欲しい。

 見ているオレが寒くなる。

 彼は、あれなのだろうか。小学生時代にいた、どんなに寒くても半袖半ズボンを貫く、気合いが入っている人。

 もっとも、言っても意味が無い。むしろ、せっかくのいい雰囲気が壊れると嫌なので言う気はない。

 前回の隠し通路を開き、進む。

 中に入った先にも、隠し通路を閉じるボタンがあり、真っ暗になった通路をランタンで照らして進む。

 防寒対策をしてよかった。

 隠し扉を進んだ先は、迷宮入り口よりも寒かった。

 迷宮の薄暗さもあって、感じる冷気もひとしおだ。


「この辺りはまだ安全だ。我々が探索し尽くしている」


 唯一上半身で身につけている金属製の小手を器用に使い、地図をめくりながらヒューレイストが言った。

 ゆっくりと地図を描きながら、慎重に進んでいったらしい。

 盗賊役のウートカルデが敵や罠がないかを探りつつ先行し、他の2人はその後を進む。

 すぐに判断がつかないものがあれば、占い師アンクホルタが、判断を下す。

 敵が現れれば皆で戦い、傷つけばヒューレイストが治療にあたる。

 そういう役割分担で、繰り返しこの迷宮へと挑戦し続けたそうだ。


「まて、宝箱だ」


 話をしていると、ウートカルデが通路のへこみを指さし言った。


「おや、前回来たときは見落としておったか」

「こんなとこに、なんで宝箱があるんスかね」

「元々は赤龍の財産だ」

「赤龍の?」

「迷宮都市フェズルードをの下に埋もれてる町は、かつて赤龍の支配下だったのですよ。赤龍の財産を蓄える金庫。そう……土砂に埋もれ廃墟となったその町を自らの宝物殿にしたといわれています」

「町1つがまるごと宝物殿スか」

「そして……」


 しゃがみこんで、箱を調べながら、ウートカルデが言葉を続ける。


「赤龍が眠りについて、しばらくして、どこかの王が赤龍の財産をかすめ取ろうとした。眠っている赤龍を封印し、財宝を地上に運び出そうとした」


 なるほど。

 こんな所に箱がぽつんと置いてある理由がわからなかったけれど、なんとなく分かってきた。


「運び出せなかった?」

「吟遊詩人の歌では、そうらしいですよ。運び出す途中、赤龍は目覚め、魔物を呼び出し、王の軍勢と争い、そして宝を守りきった。かくして、運び出される途中の財宝は、迷宮にのこされた……なんて言っていました」


 吟遊詩人の歌か。

 この町に来てから酒場には行かなかったからな、酒場にいっていたら同じような歌を聴けたのかもしれない。


「まだ赤龍っているの?」

「さてな。死んだとは聞いたことないし、迷宮の魔物は尽きてはいない。生きていて、眠りについているのだろう」

「なんだか強そうだね」

「ははは。そうだな。お嬢ちゃん。そりぁあ、未だにフェズルードの地下深くに眠る赤龍は古龍の1つといわれておるからな。そりゃ強いだろう」


 パシンと軽くヒューレイストがノアの背中を叩く。

 ノアがよろよろとよろめいて、オレの足にあたった。


「ヒューレイスト」

「いや、すまない。ついつい。はっはは」


 アンクホルタにたしなめられてヒューレイストが笑う。

 別に悪気があってのことでないし、ノアに嫌悪感を抱いていないこともわかるので、皆笑顔だ。

 ノアも、楽しげに笑ってオレをみていた。


「騒がしい。静かにしてくれ」


 思った以上に声が響いていたようで、1人黙々と宝箱と格闘していたウートカルデがぼやく。


「いやいや、はっはっは」

「ヒューレイスト。お前が一番うるさいんだ。気が散るだろ……と、やっと開いた」


 そして、箱の中からボロボロの布きれと、コインを取り出した。


「プラチナ貨……と、昔は立派な服か何かだったのでしょうね」


 箱の中にあった、白い硬貨がどれくらいの価値があるかはわからない。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 迷宮を探索し、宝物を見つける。

 このシチュエーションだけで、わくわくする。

 さて、ガンガン進んで、目指す魔導具の本を見つけよう。

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