第261話 てぃらのさうるす
「ティラノサウルス」
「だな」
「リーダも、サムソンお兄ちゃんも知ってるの?」
「ちょっとね……ハロルドの呪いを解いてもらえる?」
こんなところでティラノサウルスに出会うとは、思っても見なかった。
幸い、距離が離れている。
助けられるなら助けたいが、皆の安全が第一だ。
「戦うでござるか?」
「助けられるならね。勝てそう?」
なんだかんだと言って、何日も探し回っていたわけだ。それに、茶釜とは別のエルフ馬だが、一緒に過ごしているということもあって、結構愛着がわいている。それが襲われているのだ。出来るなら助けたいと思う。
「うーん。拙者も、大平原の巨獣は知らぬでござるからなぁ」
ハロルドは顎に手をやり撫でながら思案にくれている。
「サエンティちゃんと、パエンティちゃんは逃げて。それからノアは海亀の背に。ピッキー達はノアを守っててもらえる」
対応方針はハロルドに聞くとして、まずは安全確保だ。2人には逃げて貰う。ノア達は海亀の背中に戻って貰う。いざとなれば、海亀が上手い具合に距離を取るだろう。
次は……。
「ノア達は、どうするの?」
「どうするんだ?」
「あのエルフ馬を助けられるなら、助けたいと思ってね」
「無理だよ。おおぐちって強いよ。大きな口でガブリとされるよ」
「うん。あれ……」
2人の女の子がティラノサウルスをみて口々に何かを言おうとしたときのことだ。
「やめるでござる!」
ハロルドの焦りを含んだ大声で、2人の女の子に何かを訴える。
やめる? なにを?
「ギャァァオォォオォ!」
それと同時にティラノサウルスが吠えた。
とんでもない声量だ。
こんなに離れていても耳が痛い。
「ちぃ」
舌打ちしたハロルドが剣を構えるのと、ほぼ同時にティラノサウルスがこちらへと向かってくる。
どうして、こちらに向かって来るのだ? そういえば、ハロルドが何か言っていたな、止めろとかなんとか。
そうだ。あの2人に声をかけていた。止めろと。
何をした?
今、2人はどうしているのかと思い見やる。
女の子の一人……サエンティが、エルフ馬から転げ落ちていて、もう1人のパエンティがうろたえていた。
『ガリリッ』
何かが削られるような轟音が響く。
ハロルドが全力で振るった剣が、ティラノサウルスの足から胴の部分を捕らえ、金属同士がこすれ合うように火花を散らしていた。
ガリガリと音をたてて。
「ぬぅん!」
ハロルドが大きく踏み込み、声をあげ、両手で剣を振り抜く。
視界一杯に広がるティラノサウルスの巨体が少しだけ浮き上がった。
巨体が驚異的なスピードで接近したことにも驚くし、それをハロルドの一撃が押し返したのにも驚いた。
そのままティラノサウルスは着地に失敗し、前のめりに倒れる。
「あ!」
2人の女の子のうち、どちらかがあげた声が響く。
ティラノサウルスが倒れゆく先、さらに悪いことに、その口のあたりにサエンティとパエンティの乗ったエルフ馬がいた。
サエンティがエルフ馬に乗るよりも前に、危機を察知したエルフ馬は大きく飛び跳ね逃げた。
結果的に、サエンティ1人が取り残されてしまっていた。
絶望的な表情の彼女が見える。
まるでスローモーションのように、辺りが動いて見えた。
このままいくと、ティラノサウルスの大きな口……もしかしたら頭の下敷きになってサエンティは死ぬ。
『ガシャン、ガシャン』
そんな状況に、視界の外から金属同士がぶつかる音がして、彼女に接近する姿が見えた。
サムソンだ。
円筒形の魔法で作った鎧を着込んだサムソンが、彼女に覆い被さるように飛び込んでいった。
ティラノサウルスと、サエンティの間に滑り込むように。
『ドドォン』
直後、地面を揺らし、音を響かせティラノサウルスが地面に倒れた。
「サムソン!」
大きく口を開いた状態で横に倒れたティラノサウルス。その上顎と下顎のちょうど中間に、サムソンがいた。サエンティを守ろうと、彼女に覆い被さっていた。
幸運にも、下敷きにならなかったことに安堵する。
だが、ギョロリと瞳を動かしたティラノサウルスをみて、それは間違いだったと理解する。その瞳は、サムソンを捕らえていたのだ。下敷きにならなかったことは幸運によるものでないことを理解する。
「サムソン! 逃げて!」
ミズキも気がついたのか大声でサムソンに呼びかけ、彼の元へと向かって進む。
そんなオレ達をあざ笑うかのようにニヤリと、ティラノサウルスは笑ったようにみえた。
そして……。
『ガジャン』
寝転がったままのティラノサウルスが口を閉じる。
だが、直後、ティラノサウルスがもだえだした。グルグルと唸りながら転がり周る。
サムソンは無事だった。
ゆったりとした服装の、いつもの姿でサムソンはよろよろと立ち上がる。
「ははっ……」
声にならない笑い声を上げて、ティラノサウルスを見やった後、彼は倒れた。
すぐにミズキが駆け寄る。
「大丈夫! 怪我はない、気を失ってるだけ!」
ミズキの言葉に安堵しつつ、影の中から古代兵器である魔導弓タイマーネタを取り出す。
ビビらせやがって。
反撃開始だ。
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