第十一章 不思議な旅行者達
第169話 かいてきなたび
馬車に乗りのんびりと進む。
西へ、西へ。
この先にクイットパースという名前の港町があるという。
とりあえず行くあてのない旅だ。
のんびりと進み、モペアの案内で森の中に入り適当に山菜を摘む。
影収納の魔法で中から鍋を出し、料理をしようと思ったときに、はたと困った。
「水がないっスね」
そうだった。
屋敷の中ではウンディーネに水を出してもらっていたが、そのウンディーネは屋敷の外まで力が及ばなかった。
「困ったね」
ノアの言葉にモペアが首を傾げる。
「呼べばいいじゃん」
「えっ、あいつらって屋敷の外に出ないんじゃないか」
「あそこは居心地がいいから出なかっただけで、どうせあいつらサボってただけだよ。ずっと気配は感じるし、近くにいると思うよ」
「多分、何処かではぐれたのです。ずっと一緒にいる私達が、頑張り屋さんなのです」
ヌネフが胸を張る。
「そんなもんなのか、じゃあ、どうすればいいんだ」
「そこに水たまりがあるだろ。呼び出し条件は整ってるんだから、呼びかけたら?」
カガミが水たまりの方に歩み寄った後、覗き込み声をかける。
「ウンディーネ?」
ポチャンと澄んだ水音がして、俺の頭上からウンディーネが降ってくる。ボトンと俺の頭に落ちてきた。
「ゲェコ」
いつもの鳴き声を上げ、辺りをキョロキョロと見回し、ピョーンと飛び跳ねる。
そして、カガミの方に飛び跳ね、いつものように肩に乗りかかる。
「ほら、きたじゃん」
モぺアは得意顔だ。
「そうなんだ。へー」
「じゃ、次は私。サラマンダー」
ミズキがカガミに習って呼びかける。
「出て来ないね」
「だって、ここに火がないじゃん。燃えさかる火を窓口にすれば、絶対呼び掛けに応じるよ」
「了解。ちょっと待ってて」
空に向かってミズキが魔法を唱える、空中に巨大な火球が生じた。
「サラマンダー」
火球が大きくなったとき、ミズキが声をかける。
「キャウキャウ」
また俺の頭上から、サラマンダーが落ちてきた。
「あのさ、モペア。なんでオレの頭上に落ちてくるんだ?」
「さぁ」
特に理由はないらしい。サラマンダーは俺の頭からしばらく動かなかったので、首根っこを掴んで下に投げ落とす。
「ガルルルルルルー」
少しだけオレに向かって唸ったが、すぐにミズキを見つけ、彼女の足元でクルクル回りだした。
精霊は屋敷の中でなくても大丈夫だったのか。
もしかしたら、もっと頑張ってお願いすれば屋敷の外でも、水を出したりしてくれたかもしれない。
そうだったら、厩舎の掃除……楽だったな。
早速、ウンディーネに頼んで鍋に水を張ってもらう。それから、サラマンダーに頼んで火をつけてもらい料理を作る。次は食器だ。影収納の魔法に食器も投げ込んでいたはずだ。
「食器か? そろそろ、新しいの持ってくるよ。あれ、限界近かったし」
モペアが、そばの森にトコトコと入っていく。しばらくして戻ってきたモペアの手には、皿を幾つかとスプーンとフォークがあった。ちなみにフォークは、こちらの世界で使うものなので、ちょっと形状が違う二又のものだ。
「はい」
真新しい食器の数々を見て、不思議に思う。
「これってどうしたんだ?」
「木々からちょっとだけ力を分けてもらって作ったんだよ。屋敷にもあっただろう」
「ああ、あの木の皿ってこうやって用意していたのか」
最初にノアから皿を渡されたときに覚えた違和感の正体に気がつく。
あの屋敷にあって、オレ達の人数分あった木製の食器。
屋敷に元からあったものは、全て古びた代物だったのに、食器だけは綺麗だったのが不思議だった。
そっか。
あれは、モペアが作ってくれたのか。
ということは、オレ達が思っていたより、ずっと当初からモペアは力を貸してくれていたことになる。
「カロメーを作るね」
ノアがバッグの中からひときわ大きい布を取り出した。複雑な魔法陣が描かれている布だ。
魔法を唱えると、カロメーが大量にぼとぼとっと出てきた。
糧食創造の魔法陣か。
「転記したんだ、頑張ったね」
「そうなの」
ノアの作ったカロメーを食べながら山菜のスープを飲む。あの戦いが終わり、ようやくひと心地ついたことを実感した。
当初考えていたよりも、ずっと快適な旅行が始まった。精霊と魔法の力は絶大なものだと再認識する。
それから数日は、西へ西へと街道を進む。
人通りが少ない道だ。
旅路は単調だったが、生活は日々変わっていく。
「お風呂に入りたいと思うんです」
「風を遮る壁がほしいっスね」
皆が思い思いに希望を述べて、魔法を作り、魔導具を作る。それに精霊達も協力してくれる。
結果、2日目にはシャワールームができ、3日目にはお風呂と、夜風をしのぐ魔法の壁ができた。トッキー達が、馬車の幌を可動式に改造したりもしている。
ふかふかのベッドが欲しいという話もあった。それはまだ先になりそうだが、皆の熱意を見る限り時間の問題だろう。
たまに人と会っても、特になにもない。なんだか、避けられている気がする。
もしかしたら、街道でテーブルについて優雅にお茶を飲み、お菓子を食べている我々を不思議に思っているのかもしれない。
「あれ、誰かいるよ」
それは、西へと向かう旅が順調に進んでいたある日のこと、いつものように昼食を取っていた時の事だ。
ミズキが森の中を指さし、言う。
大きな男の子と小さな男の子。
小さな子供の方はオレ達をじっと見ていた。その視線から、なんとなくお腹を空かせているのかなと思う。
カガミが手招きをしたら、男の子達はこちらへと走ってきた。
子供が2人だけ……迷子かな。
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