第166話 もりをぬけて
森を抜けたところにモペアが待っていた。ヌネフと一緒だ。
「よかった。リーダ達。無事に抜け出したのか」
「だから言ったのです」
「ただ、馬車も壊れてしまった。それに随分疲れちゃったよ」
なんだかんだと疲労感があるなか、笑顔を作りモペアに答える。
ふと、ロバがトコトコと近づいてきた。
屋敷に置いてきたままのロバが追いかけてきたのだ。
「追いかけてきたのか?」
驚くオレ達に、モペアが何でも無いようにいう。
「だって、そいつ、ノアの側をはなれないように魔法がかけてあるからな。そりゃ、来るよ」
「魔法?」
「そうだよ。呪い子の魔力に子供の頃から慣れさせたロバだ」
ロバのお尻のあたりを手で触って教えてくれる。
「ほら、これ、この魔法陣」
お尻に彫られた魔法陣の力で、ノアの場所がわかるそうだ。
「この子も、ノアのこと嫌いでは無いのです。だから追いかけてきたのです。私と一緒で頑張り屋さんなのです」
「とりあえずそっちの森で休めばいいよ。普通の森だったら、あたしが見守ってやれるからさ」
「ああ、そうだな」
森の影へと移動する、雨はすっかり止んでいて、静かな夜が続いていた。
真っ暗な森だったが、不思議と怖くはなかった。
森でしばらく休み、その間にモペアが森の中に準備した絨毯で横になる。
ノアはしばらくオレにしがみついていたが、眠くなったようで横になった。
「クゥーン」
ハロルドの鳴き声がした。見ると、首を数回振った後寝てしまった。
「助かったよ、ハロルド」
聞こえてないかもしれないが、改めてお礼をいう。
それから先はモペアとヌネフに見張りを任せ、オレ達は横になった。ノアに起こされて目が覚める。
どうやらオレが一番遅く起きたようだ。
「どうするの?」
オレが起きた事に、ノアは気がつき声をかけてきた。
あまり眠れなかったようで、目の下にクマができている。
周りを見渡すと皆が黙っていた。
「とりあえず、ノア。クローヴィスを呼んで、無事であることを教えてあげよう」
「うん」
ノアは勢いよく返事し、クローヴィスを召喚する。
さて、これからどうしよう。
今回襲ってきたやつらがまた襲ってくるかもしれない。
黒騎士が再びやってくるかもしれない。
何処かに隠れる? 何処かに逃げる?
ピンとこない。隠れるところも、逃げるところも思いつかない。
そのあたりのノウハウないしな。
敵を発見すれば、そりゃ逃げるが……。
本当に、どうしよう。
大きく伸びをする。
『チャラ……』
オレのポケットから小さな音がした。
ふと、自分のポケットに手をやると領主から貰った小袋が入っていた。
中に沢山の宝石が入った小袋だ。
一気にひらめく。
「まずは、ギリアとは違う町を目指そう」
オレの言葉に反応して、クローヴィスと話をしていたノアが振り向いた。
「町に行って、どうするの?」
「そうだな、美味しいものを食べる」
「美味しいもの?」
オレの返答にノアは首を傾げた。妙な事は言っていないはずだ。
他の皆も黙ったままだ。
何か見落としているのか?
まぁ、いいか。
「そうだよ、暫く屋敷には戻れない。だから別の場所に行くしかない。せっかくだ、このまま、旅行しようじゃないか。社員旅行だ」
「何が社員旅行なんだか」
カガミがあきれたような声をだした。
社員……はちょっと表現がおかしかったかもしれない。
「なんといってもこれこれ」
領主ラングゲレイグからもらった小袋を皆に見せるように掲げ、すこし振る。チャラチャラと小さな音がする。それから皆を見回し言葉を続ける。
「領主がお金をくれてるんだよ。結構なお金になりそうな宝石がたくさん、これを使えばだ。豪遊しながら世界を回れる」
「いや、お前、身を隠せって言われてたろ。目立っちゃまずいだろう」
「それなら、こっそり豪遊しよう。敵にみつかれば、全力でとんずらだ。問題は、どうやって敵を見つけるかだな……」
「ならば、拙者が怪しい気配を察して伝えるでござる」
ハロルドが、胸をドンと叩いて声をあげる。
「このヌネフ、流れる風に悪意を見つけ教えてあげましょう」
「あたしも、草花にきいてやるよ」
「私もぉ、夜の見張り、がんばるわぁ」
頼りになる皆の言葉に安心する。
「そうと決まれば、楽しい楽しい旅行の始まりだ」
「すげえな、リーダ」
モペアが笑う。
影収納の魔法から予備の馬車を取り出す。
「そこのロバに引かせてさ、のんびり旅をしよう。思えば色々やることあるな」
「やること……確かに逃げなきゃいけないっスね」
「まあ、それもあるけどさ、とりあえず快適な生活を再び手に入れようじゃないか。馬車を改造してさ」
「馬車を改造ですか? 何かアイデアがあるなら教えて欲しいと思います」
「どんなに物を積んでも重くならない馬車ってのも、本を読んでいて見つけた。それにオレの影の中には、ネタ元も含めて沢山の書物がある。いろいろ駆使してさ、豪華なキャンピングカーならぬキャンピング馬車を作るんだよ」
ミズキが馬車をパシパシと手で叩き笑う。
「キャンピング馬車。アウトドアって感じでいいじゃん」
「でさ、街に着いたら、美味しいものを食べて、すごいものをいっぱい見るんだ。どうだ、夢が広がらないか?」
「何を考えてるんだか、本当に……でも、いいと思います」
「襲撃に対して、馬車の防衛能力も強化したいな……馬車の改造か。腕が鳴るな」
「おいら達もいっぱいお手伝いします」
「アハハ、さすがリーダ」
皆も乗り気だ。次は、当面の目的地だ。
「そうだ、クローヴィス」
オレ達をぼんやり見ていたクローヴィスの方を向いて声をかける。
「何?」
ビクッとした様子でオレを見る。
どうしたんだろ。
「こっから先に行くと何処につくんだ? なんか前に勉強してるとか言ってたよな」
「えっと、こっから先はクイットパースという港町があるよ」
「じゃあ、まずはそこに進もう」
「あの、これ、お母さんがリーダに渡せって」
クローヴィスに恐る恐るといった調子で渡された手紙を読む。
テストゥネル様の字だ。
中を見るとクローヴィスを許してやってほしいという謝罪の一文があった。
今回のことは自分の一存であり、クローヴィスは望んでいなかったこと。見捨てたことを気に病んでいるが、それも自分が望んだこと。
加えて、せめてもの罪滅ぼしに小さな紋章入りのネックレスが入っていた。
なんでもこれは国の特使が身に着けるものらしい。
身につけておけば大抵の町にはそこまで警戒されずに入ることができるそうだ。すくなくとも、特使は衛兵も詳しく調べないので、多少なら呪い子という理由で排除はされないはずとあった。
ついでに身を隠せる場所として、ロウス法国の近くにある別荘を手配してくれたそうだ。
ふむふむ。
最悪、そこに行けばいいというわけか。
「で、なんて書いてあったのさ」
ミズキがオレの横から手紙をのぞき込む。
「ああ……、まあ大したことじゃないさ」
「なら、いいや」
一応、クローヴィスが気にしているようなので、軽く流す。
謝罪とか、別にどうでもいい。誰もクローヴィスに嫌な感情はもっていない。いままでどおりだ。
手紙のことは、後で伝えればいいだろう。
「ノアにこれをあげるってさ」
かっこよくノアにネックレスをかけてあげようとしたが、金具をうまくつけられず、まごついた。
「まったくもう」
見かねたカガミが、笑いながらオレからネックレスを奪い取り、手慣れた動きでノアにつける。
「よし。じゃあ、とりあえずクイットパースに行こうか」
「おー!」
ミズキと、獣人達3人が調子を合わせて勢いよく返事し、のんびり馬車への旅を再開する。
最初は沈んでいた皆だったが、きっと疲れのせいだろう。
現にオレがのんびり昼寝をし始める頃になって、皆も調子を取り戻してきたようだった。
そうだ。そうだよ。せっかくの旅行だ。楽しもうじゃないか。
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