第161話 みんないっしょに
「温泉宿から外に出た方が良いのでは? 黒騎士と鉢合わせないようにしたほうがいいと思います。思いません?」
カガミの提案に賛同し、ロープウエイに乗る。
向こう側で、バルカンに馬車を譲ってもらうつもりだ。
ロープウエイから降りて温泉を抜け、宿へと向かう。
扉を何回か叩き、しばらく待つ。バルカンが出てきた、驚いた顔でオレ達を見ている。
なぜかトッキーとピッキーもそこにはいた。
「なにかあったのか」
「ああ、急な話なんだが、オレ達は、暫く屋敷を空けなくてはならない。それで一つお願いがあるんだ。馬車を売ってくれないか?」
「わかった、いいぜ、一番いいやつをくれてやる」
「くれる?」
「当たり前だろ、お前たちから金は取れない、あの一番はしっこの馬車だ。新しく丈夫だ。ついでに二頭立てだ。そちらのほうがスピードが出る」
バルカンはデッティリアさんに何かを依頼し、彼女は跳ねるように外へ出ていった。
「悪い」
「何があったかは詳しくは聞かないぜ、急いでるんだろ」
「あぁ」
いきなり押しかけて、馬車をゆずってくれとお願いしたにもかかわらず、何もいわず協力してくれる。
そんなバルカンの態度に、うまく感謝の言葉がでない。
「リーダ様」
ピッキーが、声をかけてくる。
そうだな。トッキーとピッキーにも話をしなくてはならない。
「ごめん。オレ達は急遽ギリアをでなきゃいけない。安全とはいえない。できれば……」
オレに話しかけてきたピッキーに、そして後で兄の話を聞いているトッキーに、レーハフさんのところで待っていて欲しいと伝えようとする。
急な話になるが、レーハフさんなら大丈夫だろう。
「おいらたちは、お嬢様についていきます!」
「絶対に離れません!」
ところが、オレの言葉を遮って、2人はついてくると言い出した。
「ピッキー達はレーハフさんのところにいたほうがいい。危険だ」
「駄目だな。2人の決意を尊重してもらいたい」
サムソンが危険なので残るべきだと伝えた直後、クストンさんが割り込んできた。
クストンさんも2人と一緒だったのか。よく見れば、他の職人さん達もいる。なにかの工事で来ていたようだ。
「現場の見学に2人を連れてきた時の……この状況だ。これは、きっと、2人についていけといってるようなもんだ。元々、お嬢様のために2人は頑張ってるんだ」
「そうです。サムソン様、リーダ様」
「おいら達は、まだ恩を返していません」
トッキーとピッキーが、オレ達をまっすぐ見てうなずく。
2人のそんな姿に、なんとなく嬉しく思う。
「決意は尊重してもらいたい。なーに、親父には俺がいっとく……うるさそうだがな」
クストンさんは、おどけたように言う。
だが、目が真剣だった。
決意か……後悔したくないとか、そのようなものかもしれない。
「危険だよ」
「覚悟してます!」
「チッキーもついていくんだ。おいらもついていく!」
そうだな。なし崩し的にチッキーも同行していた。
まったく取り乱しもせず、黙々としていたから意識していなかった。
「リーダ。皆、バラバラは嫌なの……だから、怖くても……」
ノアがオレの袖を引っ張って言う。
そうか、そうかもな。
「わかった。でも、自分の身は自分で守ってもらうよ」
そんなやりとりをしている間に、馬車の用意は完了していた。
バルカンに、お礼とお別れを言って馬車に乗り込む。
ゆっくりと動き出す馬車からチッキーが身を乗り出し声をあげる。
「あの……バルカン樣、お願いがあるでち」
「何だ?」
「屋敷にいる牛さんや鳥さんの、お世話をお願いしたいでち」
「了解した。任せろ」
この件も快く了解してくれる。
バルカンに礼を言って馬車を走らせる。
二頭立ての馬車は足並みを揃えてすごいスピードで降りていく。
そして、街道へと出た。
町への方向とは逆方向に曲がり、さらに進む。
そんな勢いを増す馬車でのことだ、唐突にクローヴィスが叫びだした。
「いやだ、僕はノアと一緒に行くんだ。ノアが困っているんだ。僕は助けるんだ!」
何だ……誰かと話をしている? テストゥネル様か。
やはり、クローヴィスにだけ聞こえる声で、テストゥネル様が話をしていたようだ。
つづけて、テストゥネル様の声が聞こえはじめた。
「クローヴィス、お前ではダメなのじゃ。お前のブレスではあやつらを焼き殺すことができぬ。力が足りぬ」
「嫌だ! 嫌だ! 僕は一緒にいるんだ!」
「ノアサリーナよ、許しておくれ。妾は、クローヴィスを失うわけにはいかぬ。ゆえに、クローヴィスは連れ戻させてもらう」
ジリジリと音を立て、クローヴィスの姿が、ゆっくり消えていく。お母さん、お母さんと叫ぶクローヴィスはやがて見えなくなった。
予想外の出来事にも、対応する間もなく馬車は進む。
馬車がスピードを増すなか、テストゥネル様の言葉が気になった。
これから戦うかもしれない相手が、誰だかを知ってる?
黒騎士ではない……のか?
そして、焼き殺す?
わからないことが増えていく。
領主の鬼気迫る態度も怖かった。
「気合いをいれなきゃな」
深刻な顔をしている皆に、オレは言った。
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