第九章 ソノ名前はギリアを越えて
第138話 つかいこみ
木の精霊ドライアドのモペアは、お肉。
風の精霊シルフのヌネフは、ドーナツ。
二人の精霊は、気まぐれで、好物の食べ物がない限り食卓はおろか姿も見せない。
屋敷で栽培されているメテの実に、元の世界にあった食べ物を再現してもらうためには、モペアに頼まないとならない。よって、最近は肉料理で釣って、メテの実を違う食べ物に換えるお願いする流れだ。
「やだよ。めんどう」
スイカ味をリクエストしたら断られた。大きさを変えるのは大変だそうだ。
小さくてもいいと言ったが、ある程度大きさを似せないと味も似ないそうだ。残念。
しょぼくれて、台所へと行く。スイカの話をしていたら小腹が空いてきた。
なにか余り物を食べようと思ったのだ。
そこにはチッキーが笑顔で楽しそうに洗い物をしていた。
「ごきげんだね」
「はいでち、ルタメェン神殿で信徒契約したので、加護が使えるです」
お小遣いを貯めて契約したのかな。
「へー。加護は便利?」
「加護を使えば、すぐにお手々が綺麗になるので、洗い物やお掃除がとっても楽しいでち。お金出してくれたサムソン様には沢山ありがとうでち」
すごいな。仕事が楽になったことが嬉しいのか。
というか、チッキーはよく働く。ゴロゴロしたり本読んで遊んでいるだけのオレとは雲泥の差だ。
それにしても、サムソン?
「サムソンがお金だしたの」
「年間契約してくれたでち。ピッキーお兄ちゃんの分も、トッキーお兄ちゃんの分も全部だしてくれたでち」
チッキーが頷いて答える。
結構面倒見いいな。あいつ。
ところが事はそんな簡単な話ではなかった。
「つかいこみ?」
「そうです。サムソンが割り当てのお金を使い込んでいるみたいなんです」
「別に割り当て分だと大丈夫なんじゃない?」
以前、オーガを倒して手に入れたお金などは、一部を共有財産として、残りを山分けしている。それから先は、それぞれが稼ぎ定期的に山分けしている。
工事の手伝いで手に入った金貨5枚も、そうやって共有財産にプールしている。
山分けして、それぞれの財産として使う分には問題ないはずだ。
「そうですが……心配じゃないですか?」
カガミの心配もわかるが、過干渉じゃないかなとも思う。
「ところでサムソンは今どこにいるんだ?」
「町です。最近は、結構町に出かけているんです」
あいつは、ずっと部屋にこもって魔法の研究しているのかと思った。面白いからといって結構なひきこもり生活だったはずだ。町か……。
町で何をやっているかだな。
「どうしたんスか?」
オレとカガミが話をしていると、プレインが広間へと入ってきた。
「サムソンが何処にいったのかなって話してたんだよ」
「町に行ったっスよ」
「毎日行ってるらしいね」
「そうっスね。何をしに行ってるんスかね。お金が必要だっていうから貸したけど」
お金を貸した?
同僚間での貸し借りは、ちょっと不味い。そりゃ、昼飯代を忘れたとかなら別にいいけど、今回はそうじゃない。それにあいつが町で何かを買ってきた形跡がない。一体何にお金をつかっているのか。
「今後のためにも、とりあえずサムソンが何をしに町に行っているのか聞いておくかな」
「そうですね」
そんなわけで、翌日。
町でサムソンが何をしているのか調査する。昨日、聞いてみたがはぐらかされたので、実力行使。教えてくれないのであれば調べるまでだ。大した額ではないが、ミズキにもお金を借りたそうだ。あんまり個人を詮索したくないが、しょうがない。
メンバーはミズキ、オレ、ハロルドだ。
ミズキは宿で待機、ハロルドは子犬の姿で目立たないよう泥水ぶっかけて野良犬感を増した。オレとハロルドでサムソンを尾行する。
サムソンからかなり遅れて出発。町に行ったのは確実だ。だから、町についた後でサムソンを探す。ちょっとした探偵気分だ。
「サムソンなら、酒場にいるぜ。湖沿いの大きなところだ」
町で出会ったバルカンに聞いたらあっさりわかった。
酒場、とりあえず行ってみることにする。
人だかりだ。
入る前に銅貨5枚も取られた。
中は普通の酒場だった。一つ違うのは、酒場の中央あたりが大きくあいている事。そして、2階へと通じる階段にも人が沢山居ることだ。
サムソンを探すが、意外と人が多く見つけきれない。
そうこうするうちに、宿の中央に人影が現れた。中央付近の男性が手を叩く。
中央の人影は2人。だんだんと、中央を照らす明かりが強くなり、輪郭がはっきりする。
二人の女性だ。
赤いフラメンコを踊るダンサーを彷彿とさせるドレスを着ている。お腹と背中がはっきり出ていて露出が大きいドレスだ。両手に短剣がキラリと光る。
彼女達が、クルクルと踊り出した。踊りのさなか、両手の短剣をテンポよく打ち合う。それで小さな火花が起こり踊りにアクセントを加えていた。周りの喝采が大きくなる。
酒場の片隅には演奏している人も見えた。
テンポのいい音楽に合わせて踊る女性。その音楽に合わせたタイミングでそろった喝采。なんとなく元の世界にあったアイドルのライブ風景がダブる。どこの世界でも、同じなのだなと思った。
そして中央に最も近いテーブル。そこでひときわ大きな身振りで応援する男。
サムソン?
そう、サムソンをそこで見つけた。
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