第137話 閑話 聖女様とあたし
「もう、すごかったのよ。悪い領主様も、怖い化け物も、落ちてきた大きな石も!」
「全部?」
「そう、ぜんぶぜーんぶ、ノアサリーナ様がドカーンって解決しちゃったのよ」
あたしとお母さんは、ノアサリーナ様に助けられた。
おとぎ話でも聞いたことのない凄い魔法を使って、一瞬で解決したあの瞬間をいっぱいの人に知ってもらいたくて、一生懸命お話しする。
しかも、助けられたのはあたしとお母さんだけじゃない。
「それにね、悪い領主に捕らえられていたお姫様も助けたのよ。それにそれに、助けられたお姫様は、クルリンパッって屋根から落ちた王子様を助けちゃったのよ」
スルリと、ノアサリーナ様が倒した悪い領主から逃げ出したお姫様は、屋根から落ちちゃった王子様を地面にぶつかる前にパッと抱きかかえた。
あんなに格好いいお姉さんになれれば、いっぱいお母さんのお手伝いができるのにと思う。
「嘘だ。そんなのあるわけない。魔法は、詠唱と触媒っていうのがあって、一度に一杯の魔法を使えないんだ」
あたしよりほんの少しだけ、年上のバウトットが得意気にあたしに指摘する。
でも、嘘ではないのだ。だって、あたしは目の前でノアサリーナ様が魔法を使うところも、落ちてきた石が、消えて無くなったところも見ているのだから。
だから、あたしは自信をもって反論する。
「本当なのよ。バウトットだって、何でも知っているわけじゃないでしょ。あたしはこの目でちゃーんとみたんだからね」
あたしの友達は、みんなあたしのお話を信じてくれた。
でも、友達じゃ無い人は、半信半疑だ。
あたしとバウトットは喧嘩になった。どっちが最初に殴ったのかはわからない。もう、殴ったり叩いたりひっかいたり。分からず屋にはパンチだ。
「おいおい、喧嘩はいけないよ」
グイッと私達2人は引き離された。
見上げると、そこにはニコニコと笑うおじさんがいた。旅姿に、楽器。
吟遊詩人だ。
お嬢ちゃん、ノアサリーナ様に助けられたお話、もうちょっと詳しく教えてくれるかい。
しゃがみこんで、あたしに吟遊詩人さんはお願いをしてきた。
「どうして知りたいの?」
「それは、もう、呪われた聖女ノアサリーナと5人の大魔法使いの歌をいっぱい歌いたいからだよ」
すごい。あたしは吟遊詩人さんに沢山お話しすることにした。
ところが。
「そんなの嘘っぱちだ」
バウトットがまたしても、あたしの話を嘘だといった。
もう。バウトットなんて大嫌い。
あたしがもう一回懲らしめてやろうと両手を握りしめる。
「うんうん。君はどうして嘘だと思うんだい? 沢山の魔法が一度に使えないからかな?」
ところが、吟遊詩人さんはあたしを止めると、バウトットに優しく質問した。
「うん。魔法は一度に一回しか使えないんだ。それに俺は見たんだ。格好いい騎士様が、協力して魔物を鎖で捕まえたのをね」
得意気にバウトットが言う。あたしも、それは知っている。だけど、そうじゃないのだ。
「なるほどなるほど、君が見たのは本当だね。あれは、偉い公爵様の騎士なんだ」
「ほらみろ!」
バウトットが胸を張る。
でもね、それだけではないみたいなのだ。だって、公爵様は、ノアサリーナに沢山の褒美をあげたらしいからね。
今度はあたしが胸を張る。
そんなあたし達をみて、吟遊詩人さんは「だからね」と言葉を続けた。
「だからね、きっと公爵様とノアサリーナは協力して魔物を倒したんだよ」
協力。そうか。公爵様っていえばとっても偉い貴族のはずだ。そんな偉い人と一緒に魔物を倒したノアサリーナ様もすごくて格好いい。
バウトットは吟遊詩人さんに格好いい騎士様も活躍したのか聞いている。
「もちろん」
笑って答えた吟遊詩人さんに、あたしとバウトットは顔を見合わせて、一生懸命にお話しした。ノアサリーナ様の活躍に、公爵様の騎士達の活躍を。
「うん。よくわかったよ。ありがとう」
あたし達が一生懸命にお話しした言葉をいっぱいの紙に書いて、吟遊詩人さんは嬉しそうにお礼をいった。
「お歌ができたらきかせてね」
「もちろん。……そうだ、ノアサリーナと5人の大魔法使いの歌を聴かせてあげよう。大サービスだ」
ギリアの町で、ゴーレムが巨大な魔物を一撃で倒した話。
石を投げられたのに、ノアサリーナ様は町のために頑張ったのだという。
獣人のために、高価なお薬をあげたお話。いまでは、助けられた獣人達は、ノアサリーナ様の従者となっているという。素敵なお話だ。あたしみたいに助けられた人はいっぱいいるのだ。
巨大な竜と対決したお話には、わくわくした。
そして不思議な温泉と、小さな飛空挺のお話。たくさんの不思議があって、面白かった。それはノアサリーナ様にお仕えする5人の大魔法使いが作ったのだそうだ。
それから、5人の大魔法使いのお話。ノアサリーナ様が、寒くないように雪を消し去ったお話には、バウトットもびっくりしていてスカッとした。しかも、ほんのちょっぴり芽吹いた木もあるそうだ。それは、まるで、少しだけ早く春がきたように。
最後に、あたしとバウトットのお話。
即興だから、まだまだ素敵さが足りないけれどね
吟遊詩人さんはそんなことを言うけれど、とんでもない。
すごい。あたしがお話ししたノアサリーナ様の活躍が歌になったのだ。
いっぱいいっぱい広まってほしい。
あたしは、お仕事に向かう吟遊詩人さんをいっぱい見送って満足して、お家に帰った。
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