第131話 ミランダとハロルド

 ミランダって何処かで聞いたことがあるな。


「呪い子……ミランダの事かしらぁ」


 ロンロがオレの後ろで独り言のように呟く。


「呪い子ミランダ?」

「うむ。そうでござる。呪い子ミランダ。この世界で最も名の知れた呪い子。氷の女王ミランダでござる」

「ノアノアとミランダが戦うっていうの?」

「そうでござる。どういうわけかミランダは、呪い子を殺して回っているでござる。最近であれば、毒をまとうキールマインが……ミランダの手にかかったでござる」


 そんな物騒な呪い子がいるのか。確かに、そんな怖いやつが来るのであれば護衛は多いほうがいい。


「それで、ミランダがいずれノアちゃんの所へ来ると……ちなみに、ハロルドさんはミランダと会ったことあるん?」

「会ったことも、戦ったこともあるでござる。そしてミランダこそ、拙者に子犬になる呪いをかけ、祖国を滅ぼし征服した、敵でござる」

「カタキ……でしたか」


 ノアの言葉に深く頷きハロルドは説明する。

 ベアルドという国に、突然ミランダは現れたそうだ。何を目的としていたのかはわからない。当時、遠征中で国を離れていたハロルドは、祖国が襲われたという連絡を受けて急ぎ帰国したらしい。

 だが、彼が戻ったときには、すでに国中が氷漬けだったそうだ。すぐさま王城へと乗り込み、ミランダと対峙し、三日三晩戦い続けたらしい。

 そして、ようやくミランダを追い詰めたと思ったその時、彼女は切り札の魔導具を使いハロルドを子犬の姿に変えて、投げ捨てたそうだ。


「その後も、幾度となく戦いを挑んだが、ミランダは逃げまわるばかりでござった。奴めは、拙者が手強いと知るや、満月の夜には決着をつけないことを望んだでござる」

「つまりは、満月の夜は逃げて、子犬に戻るのを待つ作戦ってこと?」

「そうでござる」


 なるほど。ハロルドの方がミランダより強いってことか。


「呪いを解いてもらうため、加えて、氷の女王ミランダからノアちゃんを守るために、ハロルドさんは、ここまで来たってことっスか?」

「うむ。そうでござる。姫様は拙者に守られて安心、拙者は祖国を滅ぼしたミランダを倒せて嬉しい。そんなわけでござる。それに、道中で姫様の噂を聞いて益々仕えるべきお方だと確信したでござる」

「噂?」


 ノアって有名になっているのか。


「姫様の活躍は、すでに多くの吟遊詩人が歌っている。その内容も、偽りがないことは、この屋敷に召喚されてからの数日での経験から判断つくでござるよ」


 そういえば、ゴーレムの騒動は吟遊詩人のネタになっていたな。

 わりと誇張されていたけれど、あれが広まったのか。


「私……活躍なんてしてない……」


 ノアが下を向いて、小さく呟く。


「姫様は、自らを軽んじておられる」

「カロンジテ……でしたか?」

「拙者は、道中、姫様が病気の獣人へとても高価な薬を与え、なおかつ非道な奴隷商人の手より助け出したと聞いたのでござる。チッキー殿か、ピッキー殿はたまたトッキー殿の誰かでござろう?」

「そうでち。お嬢様にお薬もらったでち」


 ハロルドの言葉に、チッキーが誇らしげに賛同した。その様子にハロルドは深く頷き言葉を続ける。


「それにゴーレムの一件も聞いたでござる。呪い子として、迫害される身でありながら、町の人を助けるために、荒事の中乗り込んだでござろう。なかなか出来ないことでござる」


 確かに、あの時、ノアが町に来なければオレ達は死んでいたかもしれない。すくなくとも、町はもっともっと被害がおおきかっただろう。


「ゴーレムはリーダ達が作ったの」

「リーダが何かを成したとしても、それはリーダの功績だけでなく、主である姫様の功績でもあるでござる。もし、姫様がつまらぬ人間なら、誰も助けぬでござるよ」


 そうかもな。オレ達は一生懸命なノアが好きだし、ノアもオレ達を助けてくれる。主として、イザベラに謝罪までしてくれたしな。


「そうそう。ノアノアだって頑張ったじゃん」

「というより、オレ達のゴーレムがあれほど強くなったのはノアちゃんのおかげだ」


 オレ達の会話にハロルドは大きく頷く。


「して、そのような理由から拙者は姫様にお仕えすべくはせ参じたというわけでござる」


 ハロルドが、わざわざやってきた理由はわかった。

 オレとしては、ノアの味方が増える分には問題ない。言動から頼りになりそうだしな。

 でもまぁ、ノア次第かな。


「ノアはどうする? ハロルドさんに居てもらう?」

「リーダ達がいいならいいよ。あのね、どうしてハロルドさんは、私のこと姫様っていうの?」


 そうだ。なんでハロルドは、ノアのことを姫様って呼ぶのだろう。

 その質問を聞いたハロルドはニヤリと笑う。


「昔から、騎士が仕える女性は姫様と決まっている。つまり、拙者が仕えるノアお嬢様は姫様ということになるでござるよ。あと、拙者のことはハロルドと呼び捨てにてもらってかまわん。姫様はもちろん、皆もハロルドと呼んでくだされ」


 なんとなく言いたいことはわかったが、大した理由じゃなかった。


 ん?


「あれ? ハロルドって、戦士長だったんだよな。騎士じゃないだろ」

「……まったくもう、リーダは細かいでござるな。その細かさを似顔絵にも発揮してほしかったでござるよ」


 細かい……。

 というか、似顔絵の事、まだ根に持ってやがった。

 とにもかくにも、こうしてハロルドはこの屋敷の住人となった。

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