【本編完結済】召還社畜と魔法の豪邸

第124話 いっかつ

「ピッキー達のとこ行ってくるね、追加よろしく」

　ミズキは、素早く魔法を唱え、槍を片手にピッキー達の方へと地面を滑るように飛んでいく。

　棒を振り回し、カラスにのったゴブリンに抵抗していたトッキーとピッキーのそばへと移動したかと思うと、一瞬でゴブリンをカラスから叩き落とした。ゴブリンはバリバリと音を立てて痙攣して倒れる。槍が当たっていないカラスも同じように痙攣して動かなくなった。

「うまくいったな」

　サムソンがニヤリと笑う。

　簡単な詠唱をして魔力を流すことで、電撃をまとった攻撃を放てる槍を作った。

　何も考えずにぶん殴りたいというミズキのリクエストに沿って皆で作ったものだ。

「次はボクっス」

　プレインが弓を射る。矢は、ゴブリンの肩へと当たる。もちろんそれだけでない。彼が足下に置いていた剣が意志をもったように飛び、矢の当たったゴブリンへと突き刺さる。

　魔法の攻撃は、詠唱が必要だったり、小回りがきかない。それで、プレインは弓矢に追加効果を載せる方法を考えた。

　順調順調。

　ミズキとプレインの活躍に満足したのも束の間、後ろからカラスにのったゴブリンが滑空してきた。

「次は俺だな」

　サムソンが、接近するゴブリンに向き直った。そして、魔法を詠唱すると、彼の体が灰色の円柱だけで構成された鎧で包まれる。

『ゴォン』

　鉄板にぶち当たったような、大きな音が響く。

　カラスがサムソンにぶち当たったのだ。カラスは墜落し、振り落とされたゴブリンも地面に落ちてのたうち回っている。だが、サムソンはびくともしない。加えて、サムソンの側に出現した大きな茶色い手がはのたうち回るゴブリンを殴りつけた。

　カガミは、まだ怖いようで、震えながら馬車の中から魔法の矢を使っていた。

　ノアにはチッキーと一緒に隠れてもらっている。

　問題無しだ。

「リーダ」「先輩」

　ミズキとプレインから同時に声がかかる。

　見るとミズキの槍は折れ、プレインの抱えている矢はあとわずかになっていた。

　まずミズキだ。折れた槍を掲げながら声をだしているミズキへ、影から槍が沢山つまった一輪車を蹴り渡す。電撃を纏う槍は、耐久力に難がある。今後の課題だが、今回は問題ない。壊れるなら次を渡せばいいだけだ。

　プレインには、矢の束を投げ渡し、ついでに武器が詰まった木箱を投げ渡す。飛び道具を沢山使うから、しょうが無い。

　加えて大量に作り出せる魔法の矢に、電撃、火球と魔法を駆使して戦っていく。

　気がつけば圧勝だった。

　手応えを実感した同僚達と頷き会う。

　戦いが終わったかと思ったとき、うち数体のゴブリンが起き上がった。

「倒したはず……なんで？」

　ミズキが、不思議そうに言葉を発した。

　周りの兵士や石工達もどよめく。

　こうやってみるとよく分かる。

　あれは死に忘れだ。

　比べると普通のゴブリンより、やや黒みがかった肌の色をしている。

「問題ない。あれは、死を忘れたゴブリン。ただの死に忘れだ」

　対処方法も分かっている。問題ないと軽い調子でミズキに死に忘れであることを伝える。

　死に忘れという単語に、兵士が反応した。

「神官を呼べ、退避、退避」

　兵士達は叫ぶように周りに指示を出しはじめた。

「リーダ」

「問題ない、オレが対処する」

　オレの名前を呼んだサムソンに、返答し、立ち上がったゴブリンへと歩みを進める。

　先ほどの戦闘では、オレはあまり仕事をしていない。少しはオレも戦うべきだろう。

　ゆっくりとゴブリン達へと近づきながら、魔法の矢を連続して使用する。

　１回、２回と、何度も何度も、死に忘れたゴブリンが立ち上がる度、お構いなしに魔法の矢を詠唱し打ち続ける。

　６回ほどの詠唱。魔法の矢を数十本たたき込んだところで、残りの敵はゴブリン一匹になった。

　怯えた様子のゴブリンにも容赦なく魔法の矢を連続してたたきこむ。

「終わった」

　動いているゴブリンがいなくなったことを確認し、小さく呟く。

「何が起こったんだ？」

「あぁ、死に忘れが、死を思い出すまで攻撃をたたき込んだんですよ」

　不思議そうに尋ねてきた兵士に返答する。

　オレの返答に絶句する兵士。あんまりメジャーな対処法ではないようだ。

　それでも終わった。

　馬車からノアが飛び出してオレのところへと駆けてきた。

「やったね、リーダ」

「そうだね。勝ったよ」

　ノアも無事だった。もっとも、馬車の側にはサムソンがいたし、中にはカガミもいた。心配はしていなかった。概ね予想通りの展開だ。

　そう思ったのも束の間、予想外のことが起きた。

　周りの職人達がノアを見て、ざわめきが起き始めた。

「呪い子だ」

「あいつのせいで襲撃されたんじゃないのか？」

「死に忘れなんて滅多に出会わないぞ……」

　ふと周りをみたノアの顔が一瞬で恐怖に歪む。

　案外、ノアは勇敢だ。ゴブリンは恐れないし、飛竜にだって立ち向かった。

　だが、人の悪意にはひどく弱いようだ。ガチガチと下を向いて歯を鳴らす。

　ノアを非難する声にひどくいらつく。オレが周りを見回して声を上げようとしたとき。

「恩人になんて態度だ！」

　怒号が響いた。

　レーハフさんの息子、クストンさんが顔を真っ赤にして怒鳴っていた。