第123話 こうじげんば

「……というわけなんだ」


 屋敷に戻った後、さっそく皆に成り行きを説明する。

 ゴーレムを操って行う工事のお手伝いに、誰かがいかないといけないことも含めてだ。


「何も聞かれなかったのは不幸中の幸いだな」

「そうだね。そんなわけで、プレインに工事の手伝いに行ってもらいたいんだが」

「すみません、ボク、町にマヨネーズ作りにいかなきゃいけなくて、急に仕事が入ったっスよ」


 プレインは先約有りか。


「そうしたら……カガミ、お願いできるかな?」

「私も、イザベラ様からいつ呼び出しがあるかわからないので。それにドレスの受け取りも、そろそろあると思います」


 そういえばカガミも仕事を請け負っているんだった。


「カガミも仕事か。それじゃ、ミズキ」

「ゴメン、私もさ、仕事で酒場に飲みにいかなきゃいけなくてさ」


 ミズキも仕事か。


「しょうがない、サムソン……」

「ちょっと待て。リーダ、お前、何ナチュラルに自分を外してるんだ?」


 ちっ。バレていた。


「そんなことないよ……オレは、皆のほうが適任だと思って、うぅ」


 軽く泣き真似をしつつサムソンに答える。

 ちょっとした冗談だったが、本気にする人物がいた。


「あのね。リーダ……困ってるの」


 ノアだ。

 皆の責めるような視線を感じる。


「ハァ……。そっか。ノアちゃん知らないからなぁ」


 カガミが唐突に何かを言い出した。


「知らない?」

「働いているリーダの格好良さ」


 何をいっているのだ?


「そういえば、そうだな。働いているリーダは格好いい。すごく格好いいぞ」


 サムソンが大きく頷き同調している。その様子に、ノアは何かに気がついたように目を輝かせる。


「ノアノアは、リーダの格好いいところみたくない?」

「みたい!」

「そうっスね。じゃ、ノアちゃんは誰が工事のお手伝いをするのが良いと思う?」

「リーダ!」


 全員が示し合わせたように、拍手する。

 嬉しそうなノアをみると断ることができなくなった。


「いってらっしゃーい!」


 満面の笑みをしたノアに見送られる。

 片道4時間の通勤生活。泣きたい。

 急いでコレだ。

 工事は今日で6日目。だいたいの様子はつかめたので、今日はノア達がお昼に食事を持ってくる。

 いつものように、親方連中の指示のとおりにゴーレムをうごかす。

 意外と皆フレンドリーのホワイトな職場だ。仕事時間も3時間程度。すぐに終わる。

 初日にゴブリンや狼の襲撃があったが、同行した兵士が倒してくれた。


「ボーチル親方。この木材はこっちですかー」

「兄ちゃん。こっちだって」


 トッキーとピッキーの声がする。

 今日はチッキーもお昼に来るので、お手伝いを志願したそうだ。

 すでに石工達とも顔見知りのようで、仲よさそうに仕事を手伝っている。

 スムーズに工事は進みお昼になった。

 今日は皆が屋敷からやってきている。


「あのね、ずっと見てたよ。リーダがゴーレムを動かしててかっこ良かったよ」

「ノアノアとこっそり見てたんだよね。結構やるじゃん」


 ノアが、オレを描いた絵を見せてくれる。オレがゴーレムの側で両手を挙げている姿が描かれている。絵が上手いな、ノア。

 昼食に持ってきてくれたのはサンドイッチだ。周りをみると、職人達も、思い思いに肉を焼いたり、鍋を作ったりと昼食をとっている。肉の焼ける匂いがこちらまで漂ってくる。美味しそうな匂いだ。


「お昼から豪勢っスね」

「今回は、特に急な仕事だからお城からいろいろと援助があるんだとさ」


 だが料理については、オレ達も負けてはいない。

 山菜に鳥ハム、それにピリ辛のマヨネーズで味付けされたサンドイッチは美味しい。サンドイッチごとに、いろいろと配分や味付けが違うので何個食べてもあきない。


「お、うまそーじゃないか。だけど、足りないだろ」


 レーハフさんの息子であるクストンさんに、串焼きのお裾分けをもらった。とても大きな肉の塊。元の世界では考えられない昼休憩時の豪勢な食事。


「ボリュームたっぷり」

「塩だけの味付けなのに、このお肉すごく美味しいと思います」


 皆で、豪勢な食事に舌鼓をうつ。昼飯だけでお腹いっぱいになって動けなくなりそうだ。

 そんな時、急にあたりがざわめきだした。


「敵襲!」


 大声が聞こえた。

 一瞬で状況がかわる。

 狼に乗ったゴブリンが走ってくる。その後ろにはもっと大きいゴブリン。しかも、空から大きなカラスにのったゴブリンも急降下してきた。

 兵士も対応しているが、前回とは数が大違いだ。次々と兵士が取りこぼし、職人達へと突っ込んでくる。

 筋骨隆々な職人達だが、戦闘は不慣れなのだろう。圧倒的な数の差により押されつつある。

 楽しい食事だったのに、一気に大混乱だ。


「どうしよう……?」


 ノアが不安そうにオレをみていた。

 周りをみると皆が頷いている。

 そうだ。


「問題ないよ。ちょうどいい。食後の運動に、迎撃しよう」


 飛竜に襲われてから、ずっと考えて対策してきたのだ。オレ達の努力、その成果をみせてやろう。

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