第114話 ゆきがっせん
雪合戦か。ずいぶん昔に数回遊んだきりだ。
キャイキャイ楽しそうな声が聞こえる庭へと繰り出して、ぼんやりとその光景を眺める。
「あぶ」
いきなり顔面に雪玉があたる。
きゃはきゃはとミズキの笑い声がした。声のする方向を見ると彼女は空を飛んでいた。間違いない。下手人はあいつだ。
とりあえず反撃だ。
雪玉をつくって投げることにする。
ところが雪玉を作ろうとしゃがみこんだとたんに、ドスドスと雪玉が2つ当たる。追撃された。誰だ?
投げられた方向をみると、楽しそうなカガミがいた。今度はカガミか。
少なくても2対1。この場は敵が多い。
ちょうど視界の隅に、雪だるまをみつけた。
あれを影にして体勢を立て直すことにする。
オレの背丈より大きい雪だるまだ。
よく作ったものだ。棒きれをさして作った手に、炭の塊で顔が描かれている。頭には、黒っぽい鍋が帽子代わりに置いてあった。よく見ると、胸元にはネクタイのような装飾があしらわれていた。
そんな凝った作りをした雪だるまの陰に隠れて、反撃のための雪玉を作っていると、声が聞こえた。
「ノアノア、リーダが雪だるまさんを人質にとってる! やっつけないと!」
ミズキが横に回り込んで、どんどん雪玉を投げつけてくる。
雪玉を作る暇すら与えてくれず、攻撃は続く。
さっきから、なんであいつあんなに沢山の雪玉を投げられるんだと思っていたら、チッキーとノアがひたすら雪玉作って、ミズキがそれを投げていた。
なんてことだ。
「子供に雪玉つくらせておいて大人が投げるとか、普通逆だろ」
「チームプレーだよ。リーダ」
何がチームプレーだ。大人げない。
結局、オレはひたすら雪玉をぶつけられて終わった。
軽やかに魔法をつかって飛び回るミズキに、冷静に投げつけてくるカガミ、コントロールのいいプレインと、持ち味を生かした攻撃にやられっぱなしだった。
「久しぶりに雪合戦したっスけど。面白いっスね」
「がんばったでち」
「空を飛びながら雪合戦、とっても新鮮」
口々に、雪合戦の感想を語る。
オレはあまり雪玉を投げられなかったので不完全燃焼だ。
しかも、みんなオレを標的にしやがって。
「憶えてろよ!」
振り返って、同僚達に向かってリベンジを宣言する。
「うん! 今度はね、私もいっぱい投げるね」
ところが、一番元気よく返事したのは上機嫌のノアだった。
一足先に屋敷にもどっていたカガミがお風呂の支度をしていたので、風呂に入る。この屋敷に、風呂が二つあって良かった。
唯一、雪合戦をしていなかったサムソンは、強化結界維持のため、魔力の補給に勤しんでいたそうだ。ごめんなさい。
晩ご飯はキノコのスープだった。
あっさりした塩味の効いたスープで色々な種類のキノコが入っていて美味しかった。
翌日も吹雪は続く、その翌日も。どんだけ降るんだ。
エレク少年は、勉強したり、魔法の練習をしたりと、ひたすら頑張っている。
オレはといえば、魔法の常時起動についての修行をしつつ、調べ物をしたり、魔法開発や読書をしてすごしている。
ついでに、屋敷への魔力補給も忘れない。強化結界は魔力を食う。毎日、備蓄されている魔力を補給しなくてはすぐに切れてしまうのだ。
さて、そんな日々だが、エレク少年は3日目にして、両方の手でロッドを灯らせることができるようになった。
連絡をうけて、外へとでる。
エレク少年と、サムソンがいた。
他の皆も遅れてやってくる。
「がんばったスね」
「じゃ、始めようか」
サムソンが何かをエレク少年に伝える。
それを受けてエレク少年は右手、つぎは左手と、両方の手でロッドを灯らせる。
先日と違い、腕は振っていない。
「成功しました」
「上出来だ。皆に見られていても大丈夫か。じゃ、次の段階にいこう」
サムソンはそう言ったかとおもうと、地面に紙を置いた。
「魔法陣……魔法の矢ですね」
紙に書かれた魔法陣をみてエレク少年が緊張気味に言葉を発する。
「ここに両手をついて」
サムソンが簡単に実演したあと、エレク少年を促す。
「はい。こうでしょうか?」
「目はしっかりと魔法陣をみて……あぁ、腰はうかせて」
エレク少年が、サムソンのようにかがみ込み魔法陣に両手をついたところで、いろいろと姿勢に注文をつける。まるで短距離走の選手がスタート前にする姿勢になったエレク少年に魔法の矢を詠唱するように伝える。
「はい」
しっかりとした返事をして、エレク少年は詠唱を始める。
「そう、胸元にある熱が体中に広がって、両手の平にストンと落ちるイメージで」
詠唱が続くなか、矢継ぎ早に、サムソンはアドバイスを重ねる。すげー。なんか的確なアドバイスに聞こえる。
エレク少年がゆっくりと詠唱を終えた。その直後、彼の眼前に、小さな魔法で作られた矢が浮かび上がった。
「できた!」
エレク少年は、かみしめるように、ボソリと呟く。
それからバッとサムソンの方をみて、サムソンに満面の笑みで言葉を続けた。
「出来ました! サムソン先生!」
途端、魔法の矢は放たれ空高く飛んでしまった。それでも、魔法が完成していたことは明白だった。
「できたでしょ」
そんなエレク少年に対して、なんでもないように言うサムソン。
アレは本当に的確なアドバイスだったのか。それっぽいこと言ってるなんて思ってごめんなさいと、心の中で謝っておく。
「おめでとう。あなたもこれで魔法使いの仲間入りね」
オレの後ろにいたノアが小さく呟いたのが聞こえた。とても嬉しそうな声だった。
ノアにならってオレも同じように呟き、手を叩く。
他の皆も同じように、呟き手を叩く。最後に、サムソンが同じ台詞を言ったときには、エレク少年は泣いていた。
オレ達が何でもないように使っていた魔法は、本当は苦労する代物だったようだ。
それから、エレク少年は3回ほど魔法の矢を使った。どうやらそれが彼の限界だったようで、顔色が悪くなってフラフラになってしまったのでサムソンが止めた。
彼はとても満足そうで、何度もサムソンにお礼をいい、サムソンもまんざらでもないようだった。
「サムソンって教えるの上手だと思います。思いません?」
屋敷へと戻る道すがらのことだ。
「そういえばわかりやすいね。オレが駆け出しの頃も、サムソンにプログラムのイロハ習ったしな」
カガミの感想に、オレも頷いて応じる。
「え? サムソンお兄ちゃんは、リーダの先生だったの?」
びっくりするノア。
あぁ、先生っていや先生だな。
周りをみると皆が驚いている。あれ、同僚には言ったことなかったっけかな。
「まぁ、そういうわけだ。つまりエレク様にとって、私は兄弟子ということになりますね」
「それほどに、すごいお方の指導を受けただなんて……」
オレの軽口に、エレク少年は酷く驚いた様子だった。
「いや、止めろ。つか、リーダの場合は死活問題だったから仕方なくだ」
そんなオレ達の会話に、サムソンは嫌そうな、だけれど嬉しそうでもある複雑な顔をして応じたかと思うと、プィと顔を逸らして早足で屋敷へと戻っていった。
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