第113話 ひるね
一心不乱にロッドを振り回しているエレク少年を横目に広間へと戻る。
ここ最近は、影収納の魔法を常時起動できるように修行の日々だ。
寝入っても魔法が切れないようにと頑張っているため、寝不足なのだ。
そんなわけで昼寝。起きたらご飯を食べたいと伝え椅子に座ってゆらゆら揺れる。
「先輩」
ところが目をつぶった瞬間にプレインの声がした。
寝るって言ったのに。
「どうしたんだ?」
「この世界って結構おっかないっスね。オーガに飛竜。危険ばかりっス」
確かにそうだな。最初、ノアにゴブリンがいて追っ払ったりするという話を聞いて、物騒な世界だと思った。そして対策に、攻撃魔法と防御魔法、つまりは戦闘用の魔法を憶えた。
しかし、戦闘は甘くなかった。
どれほど強くても、心がついていかないと駄目だったし、攻撃魔法の命中精度という問題も感じた。
「どうするんスか?」
プレインの言葉に、彼が不安に思っている事がみてとれた。
「どうするって?」
「ボクは、ノアちゃんがクローヴィス君に背負われて戻ってきたときに、こんなことが2度とないようにかんがえなくちゃと思ったんスよ」
皆同じ事を考えるのだな。
プレインは言葉をつづける。
「それで、剣術とか習おうとか考えてるんスけど、先輩はどうするのかなって」
なるほどな。剣術か……闇雲に刃物を振り回すより、人に習えるものは習ったほうがいいだろう。もっとも、オレの考えは違う。
「オレは、物量で勝負するよ」
「物量っスか?」
オレは長い時間をかけて強くなることを考えていない。これから先、いつ何時、事が起こるかわからない。それに、あらゆる状況に耐えられる強さこそ、オレが望むものだ。
「現地の人と同じ事やって勝てる気がしないからな。大量の武器や、不思議な魔導具を影に詰め込んで、物量で圧倒するよ」
そんなわけで物量。考えてみれば、オレの強みは圧倒的な収納力だ。影収納の魔法は他の誰も使いこなせていない。そうであれば、その強みを生かすまでだ。
「不思議な魔導具って?」
この世界は、オレの知らない武器に、道具に溢れている。
そのうえ、魔法だ。そうであれば、それを活用しない手はない。
「これから作るよ。サムソンも、カガミだって作ってたろ?」
「現地の人にかなわない……さすが先輩っスね。ボクも、もう一回考え直してみるっスよ」
プレインは何かに納得したように立ち去っていく。
さて寝ることにしよう。
目をつぶる。また声をかけられる。カガミだ。
「あれ、寝てる?」
「起きてます起きてます」
「ちょっと相談があるんだけど、聞いて貰いたいと思うんです」
プレインに続いてカガミか。
「相談って?」
「昨日みたいな吹雪じゃなくても、雪が降ると温泉にいけなくなるんです」
一体、何事かと思えば、そんなことか……。
「いかなきゃいいのではないかと」
「ふざけないで下さい!」
えー。
極めて常識的な返答ではないか。人間、温泉に入らなくても死なない。
「だって……屋敷でお風呂はいれば」
オレの返答は、軽くスルーされ、カガミが質問を重ねた。
「どうすれば良いと思います?」
「まったくプレインは、飛竜さわぎのような事が次起きたらどうすればいいのかって悩んでたのに、カガミさんときたら……」
「それなら考え済みです」
そっか。すでに考え済みか。さすがカガミだ。
「ちなみにどんな対策を?」
「眠り雲や、痺れ雲の魔法です。目録をあたって見つけました。広範囲の標的に眠りや、痺れる効果を発揮する雲というか霧を作り出す魔法です」
なるほど、広範囲に一気に攻撃をする方法を考えたのか。さすがだ。
「ん? ちなみに風が吹いてる環境だったらどうなの?」
ふと、疑問に思ったことをそのまま口にする。いいアイデアだ。だからこそ、もっとブラッシュアップして欲しいと思った。
「それも考え済みです。魔法の盾を改造して、魔法で作った半透明の壁で覆われた空間を作る魔法も作成中です。雲と壁、二つを組み合わせれば大丈夫だと思います。思いません?」
そんなオレの心配は杞憂だった。すでに対策を考えていたか。
そのうえ、そのアイデアを流用すれば、カガミの問題も解決するんじゃないか。
「壁か。それなら、その壁でロープウエイも向こう岸までその盾で覆ってしまえば?」
「さすがに範囲が広すぎだと思いますが、試してみます」
オレの答えに何か閃いたのか頷いてカガミも立ち去った。
やっと眠れる。こんなに邪魔されると、意地でも一眠りしたい。
目を閉じる。
と、思ったらまたまた声をかけられる。
「リーダリーダあのさちょっと質問なんだけどさ」
今度はミズキだ
「まったく一体何だ?」
こう何度も眠りを邪魔されるとイライラしてきて、抗議するような言い方になってしまった。間が悪いとはいえ、ミズキには悪気はない。少しだけ反省する。
「雪だるまつくるんだけどさ、リーダは頭にバケツ乗せる方? 乗せない方?」
ところが、そんなしおらしいオレの考えはミズキの質問内容に打ち砕かれた。
「知るか。オレは眠りたいんだ! まったくもう!」
オレの軽く怒りのこもった声に、ミズキはあきれ顔だ。
「もうカリカリしちゃってさ」
そう言ってミズキは立ち去っていった。
絶対昼寝する。もう寝る。ようやく落ち着いてお昼寝タイムに入れた。
……ん、声? 笑い声か?
笑い声で目が覚める。皆の笑い声だ。
楽しげな声に誘われるように外にでてみると、みんなが雪合戦をしていた。
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