第104話 はんばーがー

「えっと、ハイスソ島はここから西にあるんだ、街道沿いに西にすすんで」


 食後、4階の祭壇で地図を呼び出しクローヴィスに火山までの道を教えてもらう。

 屋敷の力で作られた魔法の地図を、クローヴィスの指示に従って動かす。

 地図には狭い範囲だけが写されている。その表示された範囲がするすると移動する様は、本当にスマホの地図アプリだ。


「了解、どこまで進めばいいか目印あるん?」

「港町があるよ、とりあえずそこまで」


 サムソンの問いに、クローヴィスが的確に答えていく。

 よどみなくテンポのいいやり取りで、順調に進んでいるのがわかる。

 ノアはそんな二人を興味津々といった感じでキョロキョロと見ていた。


「ちょっとゴンドラを見に行ってくるよ」


 少し地図から目を離しただけで、ついていけなくなってしまった。

 手持ち無沙汰になったので、空き部屋で作り込んでいるゴンドラを見に行く。

 馬車を参考につくったゴンドラだ。

 10人乗れるサイズを目指した結果、かなり大きくなってしまった。

 これを屋根に増設するベランダに置く。ベランダには屋敷の塔から行けるようにする予定だ。

 構想通り完成すれば、屋敷から出ることなくロープウエイのゴンドラに乗ることができる。

 そして向こう岸についた後は、温泉を堪能する。

 この部屋にはゴンドラの他に、増設するベランダについての設計図も置いてある。

 次にピッキートッキーを迎えにいくときに、材料を買う予定だ。

 屋敷の修繕は遅れるが、ベランダを優先した。

 ベランダはあっさり作れるそうだ。屋敷の修繕の方が難しい仕事らしい。

 最初は意外に思ったが、他人の作ったプログラムをメンテナンスするより、新しく作った方が早いこともあるので、それと似たようなものだろう。

 ゴンドラを一通りみたあと、部屋に置いてある机につく。机には魔法陣の描かれた紙が大量に置いてある。


「これが、滑車部分で……これはゴンドラ本体か」


 独り言をいいながら、机の上にある紙の束をペラペラとめくる。

 そのうち、ひときわ大きな紙を引っ張り出す。取り出した大きな紙に書かれているのはパソコンの魔法だ。

 パソコンの魔法を起動させ、ゴンドラを移動させるプログラムのデバッグを始めることにする。

 最初はウッドバードの魔法だけでいいかと思っていたが、ゴンドラを移動させることも考えると、いろいろと機能追加が必要になり、魔法陣も複雑になってしまった。

 魔法陣が複雑ということになると、そのコンバート元になるプログラムも複雑ということだ。

 複雑なプログラムには誤り……バグはつきもの。人は間違える動物なのだって事で、うまく動かない魔法陣が出来上がってしまった。


「やっぱり、こんなに複雑になると魔法陣をみても、さっぱりわからないな」


 そんなわけで、ロープウエイのゴンドラを動かす魔法陣を、一旦プログラムに戻して、バグを取り除く作業……デバッグをすることにした。

 プログラムを小さな部品にわけて、一つ一つ確認していく。

 ちょっとした単語の間違いなど、問題点が見つかる度に訂正する。


「クローヴィス君と一緒じゃなかったんですね」


 作業に没頭していると声をかけられた。振り返るとカガミが来ていた。


「サムソンとクローヴィスに任せることにしたよ。ついていけない」

「お昼ご飯作りましたけど、どうします?」


 あれ、もうそんな時間だったのかと思う。


「他のみんなは?」

「もうすぐ終わるそうです。お昼には少し早いですが、すぐ食べるそうです」

「それじゃ、オレも今から食べるよ」


 のけものは嫌なので、立ち上がり広間へと向かう。

 すでに広間では皆が揃っていた。


「ハンバーガーだ!」


 テーブルの上に乗っていた料理に思わず声が出た。

 こちらの世界にきて初めてみた。

 いつの間にかハンバーガーまで作れるようになっていたとは。


「クローヴィス君が来るから、頑張ってみました。我ながら力作だと思います」

「ほぼ半日かかった力作なんで堪能してよ」


 そんな言葉から始まった昼食。

 小さめに作られたハンバーガーだったが、ノアには少し大きかったようだ。食べるのに、悪戦苦闘している。だが、気に入ったようで一生懸命に食べてて微笑ましい。

 クローヴィスも気に入ったようで、すでに2つめだ。その様子を、カガミが嬉しそうに見ている。


「そういえば何やってたんスか?」

「ロープウエイを動かす魔法陣のデバッグ」

「リーダってデバッグ好きだよね。どれくらいかかりそう?」


 ミズキが明るい調子で質問する。


「このペースでいくと3日くらいかな。デバッガが欲しいよ」


 プログラム中にある誤り……バグを直すデバッグ作業を支援するツールが欲しい。

 あとは、魔法陣に戻して実行より、仮想的にでもパソコンの魔法上で動かせればいいのにと思う。


「デバッグ周りは考えているが、すぐには無理だな」

「残念だね。でも、リーダなら大丈夫。応援してるよ」

「応援じゃない。ミズキもデバッグやれよ。それにオレはデバッグが好きなんじゃ無い。誰もやらないから、仕方なくやっているんだ」


 なんとなくオレ一人がデバッグやる方向になりかけていたので、強く主張しておく。

 特にいまの状況でのデバッグは面倒くさいのだ。


「あのね。クローヴィスがロープ張ってくれるって」

「ロープウエイの?」

「空を飛ぶのは大好きで、得意なんだ」


 食事が終わり、まったりとお茶を飲んでいたらノアとクローヴィスが声をあげた。

 それは、もう一つの問題……ロープウエイ工事にかかるロープを張る方法の解決策だった。それも、いままでで一番の解決策だ。

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