第51話 かげのまほう
しばらくボンヤリと空をみていた。
青空には巨大な魔法陣である天の蓋が浮かんでいる。
ダラダラと魔法陣をしばらくながめていて、やることを思いつく。
新しい魔法を考えよう。他の同僚共をぎゃふんと言わせるのだ。
ここ最近、オレもゴロゴロしていただけではない。それなりに魔法の勉強もしていた。
召喚魔法で使いたいものもあるし、いろいろと面白い発見もしている。
その片鱗を見せてやるときだ。
さっそく、研究成果を考慮した魔法陣を地面にチクチク描いてみる。
「なにをしてるの?」
魔法陣を描いたり消したりしていると、ノアの声が聞こえた。
見上げると、カロメーと水筒が入った籠を両手に抱え、すぐ側まで来ていた。
「新しい魔法陣を考えているところだよ」
「あらぁ、リーダもぉ、新しい魔法を作るのぉ?」
ロンロも上空から降りてきた。
「あぁ、屋敷で遊んでいる雑魚共をぎゃふんと言わせるんだ」
「雑魚?」
「カガミとか、サムソンとか、あいつらだ」
「ぎゃふんと言って欲しいの?」
ノアは水筒と一緒に持ってきていたコップに水を入れながら、不思議そうに首を傾げ聞いてきた。
「まぁ、そうだね。そんなことより新しい魔法だ」
「どんな魔法を作るの?」
「影を使う魔法だ。いろいろ魔法を調べていたら、影を表すマークを見つけたんだよ。これを使えば、いろいろな魔法の対象に影を指定できるようになるんだ」
そうだ。いくつかの本を見ていると文字でなく、マークで対象を設定しているものを見つけた。今回は、そのマークのうち”影”を指定するものを使う。
「それでぇ、今、地面に描いてるのがぁ、その新しい魔法なのぉ?」
「そうだな。指を光らせる魔法を応用したものだよ」
「ふぅん。リーダ達ってぇ、不思議と魔法陣の文字が読み書きできるのよねぇ」
「読み書きできないの?」
「うん」
ノアもロンロも魔法陣に描かれている文字を理解できないらしい。確かに、魔法陣に使われている文字は他ではみたことがない。
もっとも、魔法陣に描かれている文字を何でも読めるわけでもない。中には、全く読めない文字だけで書かれている魔法陣もある。
新しい魔法を作るときも、自分たちが理解できる文字だけを使って書いている。
「それじゃ、こうやって新しい魔法作る人もいないのか?」
「多分ねぇ、魔法陣に使われている文字も記号も、神様の秘文字や古代文字なんて呼ばれているくらいだからぁ、解読もあまり進んでないのぉ。それでも、大国の大魔法使い達は、何百年かに一度ぉ新しい魔法を作り出すこともあるわぁ」
そうなると、オレ達がポンポン新しい魔法作っているのは異常ってことか。
オレ達がこの世界にきて便利に使っている文字を自由に読み書きできる力は、案外すごい能力なのかもしれない。
話をしているうちに魔法陣を書き終える。指先を光らせる魔法を改造したものだ。指先でなく影が光る。
「改造魔法の第一弾だ!」
宣言し、起動させる。
自分の影が、ほんのり光る。影が光るというのは妙な気分だ。
「光った!」
「ほんとぉ。リーダはすごいわねぇ……で、これ、影が光ってどうなるのぉ」
指摘されて気がついた。影が光っても何の役にも立たない。
もともと、影を対象にするアイデアを思いついただけだ。先は何にも考えていない。……手当たり次第試すか。
「次、次だ次」
「何も考えてなかったのねぇ……」
今度は攻撃魔法ベースで作る。ところが残念なことに、自分の手帳に写している魔法陣で、対象を影に置き換えられることができるものは自己発火魔法しかなかった。
元々簡単な魔法陣だったのでサクッと書き換え、詠唱する。
「えっと……影が光ってる」
「自己発火の魔法を書き換えた。名付けて影発火の魔法だ。触ったら熱いよ」
「少しは使えそうねぇん」
ロンロに褒められた。少し嬉しい。
自分の影に、カロメーをひとつ置く。ジュゥと音をたてて焼けた。
「こうやって、焼いて料理ができる。攻撃だけでない臨機応変な使い方ができる」
「カロメーって焼かなくてもおいしいよ」
ノアは不思議そうにオレを見ている。たまたま手元にあったカロメーを焼いたけれど、肉を焼いたりできるという、応用力アピールがノアには通じていないようだ。
「そうだね。カロメーは焼かなくてもおいしい。でも、焼かないと食べられない、お肉なんかをこうやって焼くことができる」
少しだけ得意げにカロメーを拾い上げながら補足説明して……していたら、バランスを崩して自分の影に倒れてしまった。両手でペタリと影のある地面を触って、ついでに額を地面にぶつける。つまりは土下座のような形で前に倒れた。
『ジュゥ……』
即座に魔法を解除したが一瞬遅く、自分の影で、自分を焼いてしまった。
「あっつぃ、あちっあちっ」
熱さと痛みでゴロゴロ転がり、エリクサーを飲む羽目になった。
「あのね、危ないね」
その様子をみてノアは困ったようにポツリという。ロンロは無言のままあきれ顔だ。
確かに攻撃魔法は破壊力があるから誤爆が怖い。
それにしても困った。ネタがない。
「ハァ……」
なんだか面倒くさくなって、ゴロンと寝転んで溜め息をついた。
「困った。なんにも思いつかない……」
「困ったね」
ノアもオレの真似をしてゴロンと横になって言った。最初に影を示すマークを見つけたときは、これは役に立ちそうだと思ったものだが、いざ使ってみるといまいちだ。
「影を使う魔法……なにか良いアイデアないかなぁ」
「そうねぇ。影を動かして物をつかむ……だめぇねぇ……見てるもの動かせる念力の魔法あるしぃ。うーん……」
ロンロも一緒になって考えてくれているがアイデアが浮かばない。
屋敷で資料を探せば別のネタも見つかるかもしれないが、同僚に見つかって「もう帰ってきたの?」とか言われるのは癪に障る。いま手元にある手帳だけでなんとかしたい。
「しゅうのう。収納の魔法は? 自分の影に物をいっぱい詰め込むの」
ノアはガバッと起き上がり、収納の魔法を提案した。
確かに、収納の魔法は良いアイデアだ。
材質を指定するところを影に置き換えると上手くいくかもしれない。しかも、ゴーレム作るときに散々練習したので、得意な魔法のひとつでもある。
「ありがとうノア。収納の魔法はいいかもしれない。試してみよう」
ノアにお礼をいって、さっそく作業にとりかかる。収納の魔法は、さきほどの2つの魔法とは違って少しだけ複雑だ。
サクッと書き換えるわけにはいかない。
書き換える箇所は複数に及ぶ、おかげで書き換えるのに苦労した。
うまく動かず、何度も書き直す。
オレが作業している中、ノアはときたまコップに水をついでくれたり、カロメーを補充してくれたりと手伝ってくれた。
ロンロも、オレが魔法陣の綴りを間違えると指摘してくれた。
ようやく動くものができたとき、日もだいぶ落ちて夕暮れにさしかかろうという頃合いになっていた。
魔法陣を起動させる。
自分の影に魔力が行き渡った感覚を覚える。
とりあえずカロメーを投げ込んでみる。フッとカロメーは影の中へ消えた。
「消えた!」
ノアが驚きの声をあげる。
自分の影に手を近づけてカロメーを取りだそうとすると、影からポンとカロメーが飛び出した。思ったより使い勝手がいい。
「成功したようねぇ」
「あぁ、これはすごい魔法が出来たと思う。オレは天才じゃないのか」
それから日が暮れるまで、魔法を試してみた。
魔力を流し続けていれば収納の魔法は切れない。流すことをやめたら解除されて、影に収納した物が飛び出すようだ。
物を影に入れるときに、魔力を大きく消費するが、起動しておくだけだったら消費量は少ない事も分かった。
物は術者であるオレが触れていないと収納できない。取り出すときは、イメージするだけで飛び出すように現れる。
そして、この魔法で収納したり取り出したりできる物体の大きさは、自分の影の大きさに固定される。
夜になって分かったのは、自分の影がなくなると、収納ができなくなること。物体を選んで取り出すことはできないが、解除すると足下からはじかれるように飛び出すことがわかった。
「あのね、ご飯ができたから帰っておいでって、カガミお姉ちゃんが言ってるの」
日がすっかりくれても魔法を試していたら、ノアから声をかけられた。
「了解」
トコトコとノアについて家に帰る。
「ぎゃふん」
「ぎゃふんっス」
ん? 何言っているんだ、コイツら?
家に帰ったとたん、同僚がわけのわからないことを言い出した。なんだろうか。
魔法陣作りにエキサイトしすぎて疲れているのかもしれない。
体調管理も立派な仕事なのに、困った奴らだ。
「よかったね」
ノアはその様子をみて嬉しそうに笑った。
晩飯はコロッケだった。揚げ物を作ったのか、どんどん増えるレパートリーに感心する。
揚げたてのサクサクした衣をまとったお芋のコロッケは、味付けしなくても最高においしくて、幸せな気分になれた。
ハッカソンの審判をする事を思い出したのは夜寝る直前だったが、どうでも良くなっていたので、そのままぐっすりと眠った。
「おやすみなさい」
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