第52話 かりにいく

 目が覚めて、昨日何かを忘れていたことを思い出した。

 ただ、その何かが思い出せない。

 とりあえず広間へと朝食を食べに行く。きっと誰かが作ってくれているだろう。

 すでにサムソン以外は皆そろっていた。

 ノアもチッキーと一緒にちょこまかと朝食の支度をしている。

 そうだ。

 朝食のテーブルにあるコロッケをみて、忘れていたことを思い出す。


「唐揚げが食べたかったんだった」

「いいっスね」

「……いや、別に良いと思うんですが、唐揚げ……ですか?」


 コロッケを食べていて、唐揚げも食べたいと思った。揚げ物といえば唐揚げだ。

 ただし、調味料の問題で作れないかもしれない。

 思えば昨日のコロッケも、いままで食べていたものと少し違って甘みがあった。

 それはそれで美味しかったわけだが。


「作れそうにない?」

「別に、鶏肉があれば作りますよ。ただし、新鮮なもも肉じゃないと美味しくないと思います」


 やった。唐揚げだ!


「それじゃ、オレが、ちゃちゃっと鶏肉調達してくるよ」

「先輩、町に行くっスか?」

「いや、狩りをする。満足いく出来の弓ができたからな」


 以前より弓を作り続けていた。

 先日やっとのこと、きちんと矢を飛ばせる弓を作ることができた。矢も沢山準備している。

 弓は思っていたよりもずっと難しかった。トッキーとピッキーの獣人二人から作り方を聞かなかったら完成はもっと先だったと思う。


「へぇー。手作りってのも面白そうっスね。ボクも、マヨネーズ作る泡立て器を自分で作ってみようかなぁ」


 オレが弓を作ったという話をきいて、考え込みだしたプレインをあとに、手早く食事をすませ出発することにした。

 昨日作った影に収納する魔法、名付けて影収納の魔法に、矢を投げ込んで出発。


「あのね。私も一緒にいく」

「それじゃぁ、私もぉついて行こうかしらぁ」

「あたちもお供します。狩りの時のお手伝いは得意でち。それに山菜が採れるかもしれないでち」


 ノアとロンロ、それにチッキーも付いてくることになった。

 ちょっとしたピクニック気分だ。

 森に分け入っていく、木漏れ日が気持ちいい。森の中独特の懐かしい匂いがする。カブトムシを飼うときに使う……腐葉土の匂いだ。


「リーダ様、あちらでち」


 先ほどから鳥を見つけるたびに矢を射るがあたらない。

 鳥や鹿といった獲物を見つけるのにも時間がかかる。チッキーは手なれたもので、山菜を採りながら獲物を見つけるたびに教えてくれる。ノアも矢の束を両手に抱えて、サッと渡してくれるが、今のところ収穫ゼロだ。


「もうすぐ、お昼になるわぁ。一旦もどりましょうよぉ」

 ロンロの一言で一旦帰ることになった。

「この森は人が入ったことがないようでち。辺り一面、食べられるものが一杯でち」


 手をパタパタと上下させながら話すチッキーの報告を聞く。

 午前中だけでチッキーは籠一杯の山菜を採っていた。まったくチッキーは優秀だなぁ。


「あれ、もう帰宅するんだ」

「ミズキ様。お昼なので一旦帰るでち。ご飯たべて、それから狩りを再開するでち」

「もおぅ、リーダ、一発も矢があたらないのよぉ」


 帰り道に馬に乗ったミズキと出会った。ロンロが余計な事をいいやがった。


「ふぅん」


 特に興味も無いように、チッキーとロンロの話を聞いたかと思うと、手帳を取り出して何かの魔法を詠唱した。それは魔法の矢だった。手加減をしたのだろうか、出現した3本の矢は、ほぼ真上に飛んだかと思うと、上を飛んでいた鳥に当たった。

 タタッと、少しだけ馬をはしらせ、落ちてきた鳥を空中キャッチする。


「わー。ミズキ様すごいでち」

「かっこいいの」


 チッキーとノアが馬に乗ったミズキの周りをクルクル回りながら賞賛の声をあげる。ミズキもまんざらではないようで笑顔だ。確かにかっこいいと思うが、ちょっと悔しい。

 それからミズキを加えて皆で帰る。

 帰りしな「はい」と鳥を渡された。


「わたし、鳥なんて捌いたことないし」

「あたちも……兄ちゃん達なら出来るけど……」

「リーダはできるの?」


 オレも捌けないけれど、秘策がある。そうでなければ狩りなどしない。

 今度はオレがかっこいいところを見せる番だ。


「まぁね、オレも鳥を捌いたりはできないけれど、きちんと考えているさ」

「そっか。じゃ、任せるね。そういえばさ、勝負の件はどうするの?」


 勝負? 何か勝負するんだっけ?


「えと、ハッカソンだっけ? ミズキお姉ちゃん?」

「そうそう。コロッケに夢中で忘れてたでしょ?」


 そうだった! そもそも影収納の魔法を作ることになったのも、オレがハッカソンでのけ者にされたからだった。

 あのあと、影収納の魔法が完成したことに満足して、さらには久しぶりのコロッケに夢中ですっかり忘れていた。

 何か忘れていたと思っていたけれど、唐揚げじゃなくてハッカソンだ。


「ごめんなさい。あれだ。夕方にちゃちゃっと判定するよ」

「リーダはまったく適当なんだからさ」

「適当でしたか」


 帰宅の道は、そんな取り留めない話をだらだらとしながら進んだ。

 そして、屋敷の門をくぐる。

 この辺りでいいだろう。

 オレは鳥を捌くとっておきの計画を、皆に発表することにした。

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