第34話 しゅうかくさいにいこう

 ダラダラとしているうちに収穫祭の日が訪れた。

 ロバに荷台をひかせてのんびりとした出発。


「朝から晴れてますね。幸先が良いと思います。みんなも思いません?」

「えへへ、みんなでお出かけ」


 ノアは上機嫌。そのうえ空は澄み渡っている。晴れだ。雨の気配など微塵もない。

 荷台に全員で腰かけての出発。小さい荷台の端に座るような形で乗る。

 少しだけ、ロバがオレたち全員が荷台に乗ったのを見てビビったような風だったが、重さをほとんど感じなかったことに安心したようで、いつものように進む。

 最近は、何も指示しなくても町までトコトコ進んでくれるので、このロバは本当に頭が良いと思う。


「お、順調にうごいた。ダラダラしてても町に行けるのはやっぱりいいな。他のこともできる」

「浮遊魔法って、こういう使い方もできるんっスね。さすが先輩っス」


 重さを感じなかったのは、それぞれが浮遊魔法を自分にかけて、足を荷台に引っ掛けている状態だからだ。残念ながらノアは安定して浮遊魔法が使えなかったので、ノアだけが荷台の中央あたりに座る。

 その結果、この荷台は、子供一人分の重さだけということになった。

 ロバの引く小さい荷馬車は案外快適だ。

 問題があるとすれば、途中で眠りかけてしまうと起動状態だった浮遊魔法が切れてしまい、荷馬車から転げ落ちてしまう可能性があるくらいだ。

 ついつい、眠ってしまいサムソンに髪をひっつかまれてしまうというハプニングで、その危険性を実感した。まだ、頭皮がひりひりする。


「そういえばさ、マスターキー使って、鍵の開けられなかった部屋を回ってみたよ」

「あぁ、ミズキ氏が調べてくれてたのか。後回しにしてたよ」


 ゴロゴロしていたオレは調べること自体をすっかり忘れていたが、鍵のあかない部屋を調べた結果について教えてもらう。

 とても豪華な部屋がいくつかと、マスターキーでも開けられない箱がたくさん置いてある部屋と、書物が置いてある部屋、氷室、理科の実験室のような部屋、生き物の標本がいっぱいの部屋、あとは何もない部屋だったらしい。


「わたしも見ましたけど、興味深い部屋が多かったです。一番立派な部屋は屋敷の主人の部屋だったかもしれないと思います。あと、ブラウニーさんたちに、掃除と修繕が必要な個所の確認をお願いしました」


 そういって修繕が必要な個所と必要な資材を書いたリストを見せてもらう。

 結構たくさんある。しかも、これが最低限らしい。これだけでも結構なお金がかかりそうだ。

 それでも、収穫祭がおわるとゆっくりと寒さが厳しくなるらしいので、それまでに最低限の修繕はしたいところだ。

 そんな話をしつつ、本を読んだり、ノアを交えてあっちむいてホイで遊んだりしながら町へと向かう。

 昼前には、いつものように町の城壁がみえてきた。


「あれぇ、いつもとあんまり変わんないね」


 ミズキががっかりしたような声をあげる。

 オレも同感だ。本当に祭りの当日なのか不安になる。もっとカーニバルとかやんないのかと……思っていたら、門を超えると一気に賑やかになった。

 色とりどりの屋台が並んでいる。どこから湧いてきたのかと思うほどに人も増えてきた。

 ロバの荷台から降りて、歩いて見て回ることにしたが、いろいろ有りすぎて何を見ればいいのかわからない。


「いつもとちがってゴチャゴチャっとして、どこに行けばいいのかも分かんないっスね」

「祭りはたいていそうだな。プレイン氏がいうように俺もわからん」


 どうやら皆もそうらしい。屋台もありすぎて、正直なところ今いる場所がわからなくなってきた。

 そんな感じに、わけもわからずウロウロとしていたら男が手を振り近づいてきた。


「よぉ、リーダじゃねーか。あん、御一行様で祭り見物か?」


 誰だろうと声がしたほうをみると、いつも聖獣ヴァーヨークのいる場所で話をする男だった。起動したままにした看破の魔法のお陰で今日は名前がわかる。彼はバルカンというらしい。いつもより上等な服を着て、片手にソフトボールくらいの薄紫色した丸い物を持っている。


「今日はみんなで祭りを見に来たんだ。もっとも賑やかすぎて、ちょっと迷っているんだけどな。どこか見どころになるような催しはないかな?」


 いろいろと詳しそうだし、アドバイスをもらえないかと聞いてみることにした。

 彼は「どーも」とオレの仲間に軽く挨拶したあとで、少しだけ考えて指を1本ほど立てた。


「今日一日の案内賃、銀貨1枚でどーだ? 今日は休みなんだ。俺だったらこの町の隅々まで案内できるぜ。そうだな、うまい屋台だって店だって案内できる」

「高くないか?」


 その答えに、楽しそうに笑って反論する。


「そんなことないぜ、今日は祭りの日だ。案内できるヤツは引っ張りだこってやつだ。ここいらで安く楽しく充実した祭り見物するに、俺は適役だぜ。へぼい屋台に大金とられるよりずっと安上がりだぜ」


 確かにトータルで安く楽しめるかもしれない。

 このままオレたちだけで楽しめるかというと、わからないまま町を歩いておしまいということになりそうだ。


「お願いするってことでいいじゃん。てゆーかさ、その手に持ってるの何?」

「これかい? グラプゥっていう果物だ。この町のおすすめの一つだ。これのうまい店を最初に案内しようか……もちろんお金が先だがよ」


 町の案内を頼むことにして、収納の魔法をかけたカバンからお金を取り出そうとする。

 お金の入った袋を漁っていて、オレたちが金貨しかもっていないことに気が付いた。


「金貨しかない……」

「おいおい、マジかぁ。しょうがねぇな」


 それからのバルカンはとても迅速だった、瞬く間に両替商を呼んで金貨4枚を銀貨と銅貨に両替してくれた。それが終わると、おすすめの屋台に案内してくれて、人数分のグラプゥを手配し、手渡してくれる。

 ソフトボールくらいの大きさをした果物だ。紫色をしていて上半分が凍っているようで冷んやりとしている。凍った部分に、ストローのような物がくっついていた。


「ひんやりしてるっスね」

「これどうやって食べるの?」


 ノアが興味津々といったふうにバルカンに問いかける、そのあとしまったという感じで荷台の陰にうずくまる。人見知りしたのかもしれない。

 バルカンは、特に気にするようでもなく二コリと笑って、ノアの元まで近づき跪いた。


「これは挨拶が遅れました。ロドリコ商会所有奴隷のバルカンでございます。今日1日、案内人を務めます。以後お見知りおきを……んで、グラプゥの食べ方なんですがね……」


 そういうと、オレのもっていたグラプゥを取り上げて、ノアの目の前にだし、氷でくっつけてあるストローのようなものを取り外した。それから、グラプゥの上のあたりの少し色が変わっている部分に突き刺す。


「こうやって、てっぺんに突き刺して、この刺した茎を吸うんだ。とりあえずこうやって蜜を吸って飲むんだぜ」


 バルカンが実演して、それに倣ってノアが試す。というか、いまバルカンが飲んでいるのはオレのグラプゥじゃないのか?

 いや、一口くらいならいいけどさ。


「冷たくて、甘くて、おいしい!」

「あー、これグレープジュースだ」

「ぶどうっスね」


 オレのグラプゥは、いまだにバルカンが持っているのでまだ飲めていない。しかし皆の反応を見る限りおいしそうだ。よく見ると、ブドウの一粒を大きくしたようにも見える。巨大ブドウなのかな。


「お気に召したようで何より、んで蜜を吸い終わったら、こうやって皮を剥いでから、中の果実を食べんだぜ」


 オレにグラプゥを返したあとで、脇に挟んでいた自分のグラプゥの皮を剥いて齧って見せる。紫色の薄皮を剥けば白い果実が見える。

 冬にはバターをかけて焼いたグラプゥが食べられるらしい。


「2度おいしくて、面白い食べ物だよね。コレ」

「あー、だからこそ町の名物になるってもんだぜ。それにこの店のグラプゥは、上半分を凍らせて吸うための茎をくっつける工夫してるんだ。おかげで冷たくおいしいし、店で茎を貰い忘れるってこともない。だからおすすめってもんだ」


 異世界果物は面白いな。

 もっともっと、いろいろな物を見たり食べたりしたいものだ。

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