第33話 ともだちのあかし

 悪態をつかれてもニマニマ笑っていたオレをみて、ブラウニー共は苦笑しつつ一歩下がりオレから離れた。


「あわわわ。この人間、なにかおかしいワイ」

「あれじゃ、きっと貧乏でパーになったんじゃ。顔も悪いしのぉ」

「シー、顔の話は駄目じゃワイ。本人、気にしとるかもしれんけん。そっとしておいてやろう」


 わりと酷い事を、ひそひそと小声で話あっているのが聞こえる。


「あはは、ブラウニーはこうでなくちゃね……って、わぁ」


 ミズキがブラウニーをみて笑っていると、暖炉からサラマンダーが飛び出してミズキに駆け寄ってきた。犬のようにみえたが、その動きは猫っぽかった。

 サラマンダーはミズキの足に体をこすりつけている、甘えているようにもみえた。


「なに、この子、目隠しなかったら可愛い」


 ミズキは満面の笑顔でサラマンダーを持ち上げる。


「熱くはないのか?」

「へーきへーき、わぁ、猫パンチされた。あははは」

「私も、私も!」


 サラマンダーは外見とは違って熱くないらしい。

 ノアも触ってみたいようだ。ミズキとサラマンダーを見上げて、両手を上げている。その微笑ましい光景をしばらく眺めた後4階へと向かう。

 ジラランドルはどうなったのだろうか。


「ん、なんじゃ。お主か、どうやったか知らんが『効率的な召喚』を解除したようじゃな」

「うまくいったよ。ジラランドルは、ずっとここにいたのか?」

「ワシは、ホレ、こんな状態じゃワイ」


 元気なく座りこんだままジラランドルは足元にある何かを掴み上げた。それは鎖だった。 ジラランドルの足は金色の鎖で床につながれていた。


「鎖? これは外せないのか?」

「外せるなら、とっくの昔に外しとるワイ。ワシはこの屋敷の備品あつかいじゃ。うごけないように繋がれとる」


 無理だといわれたが、オレも鎖を外せるかを試してみる。

 ジラランドルの足に埋め込まれたように鎖は足に突き刺さっていた。もう片方もまた、床に溶けるように埋まっている。

 足から引き抜くようにすると、体中に激痛が走るらしい。床の側をひっぱってみるがびくともしない。

 鎖そのものを両手で引っ張る。鎖の中央部分が少しずつ離れていく。身体強化をフルにつかって引っ張っているので、どんどん身体の中の魔力がへっていくのがわかる。

 そのかいあって鎖のつなぎ目が少しだけみえる。鎖の中央部分が少しづつ離れていく。


「おお!」


 ジラランドルが期待をこめた声をあげた。

 ギリギリまでがんばったが、魔力が尽きた。これ以上は意識がなくなりそうになり横になる。鎖はほどなくして元に戻った。


「だめだったワイ」


 ジラランドルは力なく呟いた。期待させた分、失望感も増しているように感じた。


「どうしたんスか?」


 横になっていると、プレインがやってきて心配された。

 他の仲間も、ブラウニーも遅れてやってくる。

 オレはジラランドルの鎖について説明した。ブラウニー達は、ジラランドルとの再会を喜んでいる。7人のうち、一人がジラランドルと知り合いのようだった。


「2人でひっぱれば大丈夫だと思うんです」

「そうっスね」


 カガミとプレインが2人で鎖を引っ張ってみるとパチっと火花が起こり、すぐに2人は手を放してしまった。


「鎖そのものが魔力を吸い取っているような感じでした。そのうえ魔力同士が反発したとおもったら火花がでて鎖を触っている手に痛みが走りました。多分、一人でやらないとダメだと思います」

「次はオレがやってみる」


 サムソンが挑戦する。結果は、ダメだった。あと少しだけ魔力が足りない……。


「魔力だけだったら……ノア、試してみてくれないか」


 魔力はオレたちとは比較にならないノアなら大丈夫かもしれないと思って頼んでみる。

 力も必要だったら無理かもしれないが、その時は別の方法を考えよう。


「うん。……あれ、あれ?」


 ノアが鎖をひっぱると、金色だった鎖はまるで錆びたように黒くくすみ、砂のように変化したあと崩れていった。そのまま鎖は跡形もなく消えていく。


「おおぉぉぉぉ!」


 ジラランドルが歓喜の声をあげた。満面の笑みで足をさすっている。


「ハイホーハイホー!」


 ほかのブラウニーも喜びの声をあげて踊りだした。

 しばらくして、ジラランドルはノアへ近づき少しだけ見上げ目線を合わせた。


「お嬢さん、お名前をおしえてくれんかの?」

「ノアです」

「そうか。ノア様、ワシを助けてくれてありがとう」

「リーダ達、みんなで助けたの」

「では、皆さまを代表してノア様がお礼を受け取ってくれませんかな」


 ノアは少し恥ずかしいような困ったような顔をして、こちらをみた。オレは頷く。


「はい。それでは皆を代表して受けましょう」


 ジラランドルはかぶっていた帽子の中から、パイプを取り出した。


「ブラウニーを呼び出すときに、コレを使ってくだされ。このパイプを触媒にくわえていただければ、ワシが必ず呼び声に応じますワイ」

「えへへ、ありがとう」

「召喚された精霊の友人としての印ね、とっても珍しぃのよぉ」


 ロンロが小声でそっと教えてくれる。

 精霊は、稀に自らを象徴する道具をくれるそうだ。ブラウニーにとってパイプがそうなのだろう。

 そのあと、他のブラウニーとまざって燭台のリストをつくってくれた。簡単な効果も付記してくれたので、手間がとてもはぶけた。


「では、皆さまごきげんよう。皆さまの行く末に幸あらん事を」


 他のこまごまとした雑用を終え、ジラランドルとブラウニーは帽子をとって深々と頭をさげて消えていった。

 この一日で屋敷の装備が随分と把握できた。きっと明日からは便利に暮らせるようになりそうだ。



 その日の夜。少しだけ気になることができたので、4階へ一人向かう。マスターキーを片手に地図を呼び出す。


「ノア……ノアの、呪い子を憎む者は?」


 地図に沢山の炎がともる。

 呪い子は、想像していたよりずっと世の中で知られていて、憎まれていることが見て取れた。ノアは、今まで生まれてからずっとこんな世の中を生きているのか……。

 オレは心の中にある目標を少しだけ考え直す。

 第一に、ノアの幸せかな……。

 大人であるオレ達は後回しでいいだろう。

 そうであれば、屋敷も住みやすくしないとならない。領主を含めギリアの人達との友好関係は維持しないとな。この世界を知るために魔法の事をより知るべきか。それから……。

 やれやれ、住みよい世の中はまだまだ先が長い。


「まったく、伸びしろしかないじゃないか」


 誰に聞かせるわけでもなく呟いた。

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