第20話 ばしゃがガタゴトやってきた

 謁見の日、朝早くに打ち合わせを始める。

 ここ3日でゴーレムっぽいものが作れる目処が立った。今も目の前に木製の人形が転がっている。ブリキのロボットのようなシルエットのそれはれっきとした魔導生物だ。

 簡単な動作だが、同時に生成するロッドによって自在に動かせる。

 これはウッドマウスを二足歩行にして、倒れそうなところを頭の部分に据えたウッドバードがバランスを取ったものだ。これをベースに、ゴーレムの腕や足を簡略化して移植することでゴーレムとして一応言い張れる物を作る。

 最初は、人形のような形がトコトコ歩くだけだったのが、次の日にはボクシングのような殴る挙動ができるようになっていて、テンションが上がる。

 この路線を進めればゴーレムが作れる手応えを得ることができた。

 2体目ができた時、勝負させてみようという話になったのだが、これがなかなか面白かった。プレインがノアにワンツーパンチを教えて、ミニゴーレム同士の戦いを盛り上げていたが、正直混ざりたかった。ロボット……ではなく、ゴーレムをオレも自由に動かしたい。


「今日から、これを石造りにして大型化に取りかかるつもりだ」


 サムソンが、床に転がった人形を拾い上げて宣言した。


「とりあえず私が石造りと大型化をプレインとミズキに手伝ってもらって進めようと思います」

「それじゃ俺は、高性能化を進めるか」


 役割分担もスムーズに進む。実に頼もしい。


「テキパキと決まるな。頼りにしているよ」

「一応、念押しだが自立起動はできない。このロッドで動かす。あとゴーレムの手は指まで作ると大変なんで省略する方向で交渉してくれ」

「もし指を作るなら納期を延ばしてもらわないと無理だと思うんです。できれば半年くらい延ばさないと厳しいです」


 ゴーレムの指をはじめ、稼働できる部分などについて色々と注文を受ける。三日の研究ではまだまだ時間が足りないらしく先行きは不透明だ。


「あのね、リーダ頑張ってね」

「先輩なら大丈夫っスよ。帰りに食べるもの買ってきて欲しいっス」


 カガミとサムソン以外は、かなり楽観的なようで、あまり心配していない。


「あらぁ、そろそろお迎えが来たみたいよぉ」

「意外と朝早いな。このタイミングで迎えに来るってことは日の出前に出発したとかそんな感じにならないか……気合い入ってるなぁ」

「流石に日の出後じゃないかしらぁ、2頭立ての馬車と護衛の兵士。少し先行して馬に乗った兵士がきてるわ、斥候なのかしら意外と早いのねぇ」

「護衛の兵士って何人いるんだ?」

「4人だったわぁ。馬車の御者は兵士には見えなかったからぁ……斥候を入れて5人の兵士ってことになるわねぇ」


 3日前に訪れた時よりも兵士の数が少ない。争う気はないのだろう。とりあえず、いきなり武力で脅してくるなんて事にはならないようで安心する。


「兵士が少ないな。今回は、本当に道中の護衛用の兵士って感じだな」

「そうねぇ……。ところで、さっきも言ったけど、もうすぐ斥候が到着するけどぉ、どうするの?」

「せっかくだから外でお出迎えしよう」


 おもてなしの心だ。とりあえず友好ムードで事を運びたい。


「あぁ、オレはパス。兵士の皆さん苦手だしな」


 サムソンは出迎える気がないらしく、手をパタパタと振りながら、テーブルに戻って行く。兵士が苦手なのか。


「私は馬車の見送りくらいはしようと思います。ミズキは……起こさなくてもいいかな。プレインも見送りくらいはした方がいいと思うんです。思うでしょう?」

「別に手を振るくらいはするっスよ」

「私もお見送りする」

「ノアは、部屋にいた方がいいかもしれないな。前も兵士に槍を突きつけられたでしょ」


 サムソンが、見送りしたいというノアにそう忠告する。


「兵士に槍を突きつけられたのか?」

「槍を突きつけられたというより、ノアを見るなり槍を構えたという方が正しいと思います」

「ノアちゃんを睨み付けてたっス。感じがいいとはお世辞にもいえなかったスよ」


 結局、オレたちが心配している様子を感じ取ったのか、部屋に残ることになった。

 ちょうどいいタイミングで、みんなで外に出る。

 先行して走っていた兵士は出迎えにでたオレたちを見て、驚いた表情をして、そそくさと馬車の方へ向かって行った。

 それから程なく馬車が到着する。箱型の黒い馬車で縁が金色で装飾されている、下部分は銀で兵士の姿が装飾されていた。以前はただ立派な馬車だなとだけ思ったが、確かに細工のできなどを見ると結構高価そうだ。

 馬車から少年が降りてきた。ノアより大人だがまだまだ子供といった感じだ。元の世界でいうと中学生くらいだろうか。

 少しだけ周りを見回したあと、オレの方へ小走りで近づき、胸に手を当て軽くお辞儀をした。


「おはようございます。リーダ様……ですね。ヘイネル様は馬車の中でお待ちです。お乗りください。ただし、その前に、お荷物を確認させていただきますがよろしいですね」

「荷物は持ってないよ。ほら、この通りだ」


 手を万歳するように軽くあげて、丸腰な事をアピールする。

 彼は、その姿をザッと見たあと「ありがとうございます」と笑顔で告げ、さぁどうぞとオレを身振りで馬車へと案内した。

 看破の魔法を使ったのだろうと、なんとなく思った。


「お気をつけて〜」

「祈ってるっスよ」


 カガミとプレインは軽い感じだ。

 ハイハイと手をプラプラと振りつつ馬車へと歩いていく途中、ノアが走り寄ってきた。

「これお薬」と小瓶を手渡される。赤い液体から考えるに中身はエリクサーだろう。

 ヘイネルやその使いの目もあったので「ありがとうございます。ノア様。それではいってまいります」と片膝をおって目線を合わせ笑顔でお礼を言う。


「うん。あの、無理しないでね。絶対帰ってきてね」

「大丈夫。ささっとこなして帰ってくるよ」


 そのまま、すぐに馬車へと乗り込む。

 さっき、ボディチェックをした青年は何も言わずその様子を見守り、オレが馬車に乗り込んだあと、続いて乗り込み馬車の扉を閉めた。

 そして馬車は走り出す。

 馬車の窓から不安そうなノアの姿がしばらく見えていて、サクッと終わらせて安心させてあげたいと、そんなことを思った。

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