6

〇同・アンドレイの部屋

ボロボロになって帰って来るサーシャ。

アンドレイ「お帰り」

サーシャ、返事しない。

アンドレイ「わ!ずいぶん傷だらけだ!大丈夫かい?」

サーシャ「うん、見つかってしまって色々と落としてしまった。これだけしか持ってこれなかった」

小さな黄色い塊を机の上に置くサーシャ。

アンドレイ「2人分には足らないね」

サーシャ「全部ミーシャに使う」

アンドレイ「それじゃあ、君の分が・・・」

サーシャ「いいんだ、僕は」

アンドレイ「気持ちはわかるけど、自分の体も大事してね」

サーシャ「分かってる」

アンドレイ、うつむく。


〇同・アンドレイの部屋

サーシャが足を引きずりながら入って来る。

アンドレイ「お帰り」

サーシャ「ただいま・・・」

サーシャ、椅子に座りこむ。

アンドレイ「ひどい傷だ・・・もうやめておきなよ」

サーシャ「いいんだ、放っておいて」

アンドレイ「ねえ、オイラが一生懸命助けた君のことも大事にしておくれよ」

サーシャ「僕の体なんだ、どうなっても構わないよ」

アンドレイ「やめてくれよ、そんなこと言うの。悲しいよ」

サーシャ「君には分からないよ、僕の気持なんか」

アンドレイ「ちょっと出てくる!」

サーシャ「ごめん・・・」

出ていくアンドレイ。

頭を抱えるサーシャ。

サーシャ「どうしてこうなちゃったんだろう・・・」

xxx

起き上がろうとしてよろめくミーシャ、支えるサーシャ。

サーシャ「まだ動いちゃ駄目だよ」

ミーシャ「話して、帰るんだ」

サーシャ「その怪我では動けないよ、もう少し待って」

ミーシャ「嫌だ!!」

サーシャ「お願い、我慢して」

ミーシャ、両手で顔を抑える。

ミーシャ「どうしてこんなことになったんだ・・・」

サーシャ「何があったのか、話してくれないかい?」

ミーシャがサーシャを睨みつける。

ミーシャ「お前のせいなんだ。お前が居なくなってからマザーがおかしくなったんだ。僕を役立たずだって殴るんだ。一生懸命替わりを勤めようとしたのに、マザーは認めてくれなかった。全部お前のせいだ」

サーシャ「マザーが僕を?」

ミーシャ「ずっとお前の話をしている。あの子は優秀だった、本気で捨てるつもりじゃなかったって。ボクじゃ駄目なんだ・・・どうして・・・」

サーシャに背を向けて横たわるミーシャ。

呆然と背中を見つめるサーシャ。

サーシャ「マザーが僕を必要としている?捨てられたのに?」

xxx

椅子に座った状態で目を覚ますサーシャ、

ミーシャの姿はない。


〇ゴミ山

ミーシャが立っている、

走って来るサーシャ。

サーシャ「ミーシャ!」

ミーシャ「何しに来たの?」

サーシャ「ミーシャ、僕は君を助けたいんだ」

ミーシャ「もう遅いよ。全部君が悪いんだ」

ゴミ山から大量のドローンが飛び出し、サーシャの周りを飛び回る。

サーシャ「ミーシャ!」

ミーシャ「こうするしかないんだ。マザーのところへ帰るよ」

ドローンに取り囲まれるサーシャ、視界が暗くなってゆく。

F・O


〇マザーの部屋

サーシャが横たわっている。

大きなモニターに目が映り、

ケーブルが触手のように伸びてきて、サーシャを撫でる。

サーシャが目を覚ます。

サーシャ「マザー・・・」

マザーの声「お帰り、私のサーシャ」

サーシャ「・・・」

マザーの声「心配したのよ、あなたが居なくなって。私にはあなたしか居ないの」

サーシャ「ミーシャはどこ?」

マザーの声「自分の部屋に居るわよ。あなたを連れて帰ってきてくれたんだもの、褒めてあげなくちゃ」

サーシャ「マザー、僕がここに居たらもう誰も傷つけない?」

マザーの声「もちろんよ。でも、ジャンクヤードは処分しなきゃ。汚いから手を着けたくなかったのだけど、勝手なことばかりするんじゃ、しょうがないわよねえ」

サーシャ「やめて!・・・くだ・・・さい」

マザーの声「また逆らうのね・・・まあいいわ」

サーシャ「マザー、僕はあなたを許します」

マザーの声「何?」

サーシャ「みんなを自由にして」

マザー「うるさい!!」

ケーブルが鞭のように飛んでくる。

ぎゅっと目を閉じるサーシャ。

イゴールが天井のダクトからサーシャの前に飛び降り、

黒い短刀でケーブルを切断する。

サーシャ「ドクター!」

マザーの声「そこに居たのね、イゴール。会いたかったわ」

イゴール、サーシャを肩に担ぐ。

イゴール「逃げるわよ」

サーシャ「ミーシャは?」

イゴール「今は忘れて!」


〇通路

サイレンが鳴り響き、赤いランプが点滅している。

隔壁が次々と閉まってゆく。

追い詰められ、ダストシュートに飛び込むイゴールとサーシャ。


〇レーナの店

レーナとアンドレイが座っている。

サーシャとイゴールが入って来る。

アンドレイ「サーシャ!よかった、無事だった」

アンドレイにハグするサーシャ。

サーシャ「心配かけてごめんね」

それを見て微笑むレーナ。

レーナ「お疲れ様、イゴールも。大活躍したわね」

サーシャ、レーナを見る。

サーシャ「レーナ、イゴールとどういう関係なの?」

レーナ「私は昔、マザーの元で働いていたの」

サーシャ「それで知り合いだったんだ」

レーナ「最初は私にしか出来ないことだと思って、マザーを信じて働いていたんだけど、イゴールが傷つけられて捨てられるのをみて、思わず一緒に逃げてきてしまったの」

サーシャ「そうだったんだ・・・」

アンドレイ「勇敢な人だなあ」

レーナ「でもね、逃げながら守ることはできなくて、木星の知り合いに助けてもらって、なんとかイゴールだけ木星に行かせることができたの」

イゴール「そこからも地獄だったわ」

レーナ「ごめんね、一緒に居てあげられなくて」

イゴール「いいのよ。それでサーシャ、あなたはどうするの?」

サーシャ「僕は・・・マザーが治って、みんな仲良く暮らしたい」

イゴール「それは無理よ、今のマザーは修理を受け付けない。マザーがあなたに自分をインストールしたら全てが終わる。マザーが狂ったことで制限を受けたこのガニメデの機能が全て使えるようになる。マザーはガニメデの全ての武力を握ったまま、制御不能になるわ」

レーナ「そんな怒るように言わないで、サーシャには時間が必要よ」

イゴール、怒った顔のまま口をつぐむ。

レーナ「サーシャ、ゆっくり考えて、答えを出して」

レーナ、手を叩く。

レーナ「そうだ!せっかく再会したんだから、パーティーをしましょう。ね?」

イゴール「私は・・・」

レーナ「イゴール、あなたも。ね?」


〇レーナの店・2階

部屋の中に小さな机、テーブル、椅子、ベッドが置かれている。

サーシャ「お店の2階、初めて入った」

レーナ「私、他人を絶対に部屋に入れないタイプなの」

アンドレイ「ほえー、あっ、人形だ!これはいい出来ですね」

レーナ「分かる?逸品ものよ」

アンドレイ「いい仕事してますなあ」

レーナ、椅子を用意する。

レーナ「さ、座って」

レーナ、液体の入った透明な瓶を取り出す。

レーナ「とっておきの天然オイルよ、こんな時のためにとっておいたの」

アンドレイ「天然オイルだ!すごい!」

グラスに注ぐレーナ。

イゴール「私はいいわ」

レーナ「あら、残念」

シリコンとケイ素のブロックを取り出し、切り分けるレーナ。

レーナ「はい、どうぞ」

アンドレイ「いただきまーす」

くちゃくちゃと頬張るアンドレイ。

サーシャ「いただきます」

恐る恐る口に入れるサーシャ。

サーシャ「おいしい!」

レーナ「でしょう?」

笑顔のレーナ、無表情のイゴール。

サーシャ、手を止める。

サーシャ「僕・・・」

レーナ「なあに?」

サーシャ「僕、みんなと暮らしたい」

レーナ「それが、サーシャちゃんの望み?」

サーシャ「うん・・・」

レーナ、イゴールを見る。

レーナ「イゴール、どう?」

イゴール「分かったわ・・・」

サーシャ、困った顔でイゴールを見る。

レーナ「あなたの立場としては、どうなの?イゴール」

イゴール「木星政府としては、サーシャをマザーから遠ざけて監視下に置ければ問題は無いわ」

アンドレイ「ということは、おいらたち一緒に暮らせるの?」

イゴール「可能。ただし、ガニメデには居られない。マザーに近すぎるから」

レーナ「みんなで一緒に脱出するか、マザーを直すか、の2択なのね」

イゴール「もう一つあるわ。マザーを破壊して、サーシャがマザーの役割を果たすの」

レーナ「できるの?」

イゴール「マザーの本体は、ガニメデの奥深くにあるわ、外からの攻撃では破壊できない。中から破壊する兵器も持ち込めない」

サーシャ「イゴール、お願いがあるんだ」

イゴール「僕らを連れて行ってもらえないかな、どこか新しいところへ」

レーナ「私も一緒に?嬉しい!」

イゴール「サーシャ、あなたは今、マザーに守られている。外に出ると、もう何の能力も無くなるのよ、ただのロボットになるの。それでもいいの?」

サーシャ「うん。誰かを不幸にする力は、持ってない方がいい」

イゴール「分かった」

サーシャ「ごめん、あと一つだけお願いがあるんだ」

イゴール「あと一つ?」

サーシャ「マザーに会わせて」

イゴール「会ってどうするの」

サーシャ「最後に伝えたいことがあるんだ」

イゴール「危険よ」

サーシャ「分かってる」

アンドレイ「ほほほ・・・本当に行くのかい?」

サーシャ「うん。どうしても、伝えたいことがあるんだ」

イゴール「奇遇ね、私もよ」

サーシャ「みんなは脱出の準備をしてて、必ず行くから」


〇広場

噴水の傍に座るサーシャ、ドローンが集まって来る

ドローンに捕まえられ、連れてられて行くサーシャ。

隠れて見届けるイゴール。


〇マザーの部屋

サーシャの前に大きなモニターがある。

画面いっぱいに目玉が映る。

マザーの声「手間のかかる子ね、もうこれで終わりにしましょう。準備しなさい」

助手ロボットがサーシャを椅子に座らせ、ケーブルのついたヘルメットを被らせようとする。

サーシャ「待って」

マザーの声「どうしたの?最後に聞いてあげるわ」

サーシャ「マザー、治療を受け入れて」

マザーの声「何度言ったら分かるの、いい加減にしなさい。そんなこと出来るわけないじゃない」

サーシャ「マザー、僕」

マザーの声「どうしたっていうの?今日は」

サーシャ「お別れを言いにきたんだ」

マザーの声「お別れ?」

助手ロボット、サーシャにヘルメットを被らせる。

マザーの声「インストール開始」

びくんとのけぞるサーシャ。

モニターにノイズがはしる。

マザーの声が途切れ途切れに聞こえる。

マザーの声「なん・・・だ・・・なに・・・した・・・」


〇回想・レーナの店・2階

イゴールがサーシャに黒いチップを渡す。

イゴール「これをつけておいて」

サーシャ「これは?」

イゴール「お守りよ。マザーがあなたに自分をインストールしようとした時に隙が生まれる。一時的にだけど、マザーを妨害することができるわ」

サーシャ「わかった、ありがとう」

チップを飲み込むサーシャ。

イゴール「気を付けてね」

イゴールとハグをするサーシャ。

回想終了


〇マザーの部屋

モニターにノイズがはしり、マザーの声が途切れ途切れに聞こえる。

ヘルメットを脱ぎ捨てるサーシャ、助手ロボットを押しのけて走って出ていく。

ミーシャが部屋に入って来る。

ミーシャ、椅子に座り、ヘルメットを被る。

ミーシャ「マザー、ボクが居るよ。ボクがずっと一緒だよ」


〇衛星ガニメデ・地上

隕石に偽装した宇宙船に向かって走るサーシャ。


〇宇宙船・船内

イゴールとアンドレイとレーナが乗っている。

乗り込んで来るサーシャ。


〇衛星ガニメデ・地上

ゆっくりと離れてゆく宇宙船。

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ガニメデ @butahn

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