5

〇路地裏

独りぼっちのサーシャ。

サーシャ「アンドレイ!」

通りに戻ろうとするサーシャ。

レーナの声「ねえ」

両手に荷物を抱えたレーナが立っている。

レーナ「あなた、どこから来たの?」

サーシャ「僕、友達とはぐれちゃって、迷子になったんです」

レーナ「まあ、そうなの。じゃあ、一緒に探してあげるわ」」

サーシャ「ありがとう、お姉さん」

レーナ、自分の荷物を見る。

レーナ「これちょっと置かせてくれる?すぐそこだから」

サーシャ「うん、持ってあげるよ」

レーナ「いい子ね!」


〇レーナの店

壁一面に目玉の入った瓶が置かれている。

カウンターの上に荷物を置くレーナ。

レーナ「買ってきたもの整理してしまうから、少し待っててね」

サーシャ「うん、手伝うよ」

レーナ「ありがとう、それそこに置いておいて」

サーシャ「はい」

荷物をレーナに手渡していくサーシャ。

レーナ「君はどこから来たの?」

サーシャ「街のはずれの、ゴミ山の方」

レーナ「そうなのね、独りで?」

サーシャ「ううん、アンドレイと一緒だよ。お姉さんは?」

レーナ「レーナでいいわ。私は見ての通り独りよ」

サーシャ「寂しくない?」

レーナ「私は独りが好きなの」

サーシャ「そうなんだね・・・」

レーナ「アンドレイとは仲良しなのね」

サーシャ「うん、僕のために色々としてくれたんだ」

レーナ「いいお友達なのね」

サーシャ「うん・・・なんだかちょっと悲しくなる」

レーナ「どうして?」

サーシャ「お返しができないから」

レーナ「アンドレイ君は、なんて言ってるの?」

サーシャ「僕にありがとうと言われると、胸が温かくなるんだって、変だね」

レーナ「そうなの?どうして?」

サーシャ「分からないよ、変じゃない?」

レーナ「そんなことないわよ、素敵なことよ」

サーシャ「そうなんだね。レーナもそう思ったりするの?」

レーナ「そうねぇ、時々なったりするかもね」

サーシャ「そうなんだね・・・僕もなったことがあるよ」

レーナ「あら、ぜひ聞かせて」

サーシャ「マザーのところに居た時に会った人が、僕に外の世界のことを教えてくれたんだ」

レーナ「うんうん」

サーシャ「その人がずっと一緒に居てくれた時に、僕の心はなんだか温かかったよ。昔のマザーを思い出したんだ」

レーナ「なるほどねー、愛だね」

サーシャ「愛?」

レーナ「この世界には色んな愛があるの。人間が私たちロボットに植え付けた呪いのようなもの、それが愛よ」

サーシャ「呪い・・・」

レーナ「足りなかったり、多すぎたりすると、感情回路がおかしくなってしまうのよ」

サーシャ「そうなんだ、恐いね・・・」

レーナ「でも今君は、誰かに何かしてあげたいと思うでしょ?それが愛よ。他人を幸せにしてあげたいと思う力がロボットの力になるのよ。ロボットが人間に寄り添うために与えられた力なの」

サーシャ「ふーん・・・」

レーナ「難しかったかしらね!さあ、お友達を探しに行きましょうか」

サーシャ「うん。お姉さん、ありがとう」

レーナ「どういたしまして」

サーシャ「あの、お願いがあるんだ」

レーナ「どうしたの?」

サーシャ「またここに来てもいい?」

レーナ「ええ!是非いらっしゃい!」

手を振りながら店を出ていくサーシャ。

手を振り返すレーナ。

レーナ「確かに胸が温かくなるのね、あの子。マザーの力かしら・・・」

xxx

イゴールが店に入って来る。

レーナ「あら・・・」

イゴール「お久しぶりです、レーナさん」

レーナ「マザーを止めに来たのね」

イゴール、答えない。

レーナ「誰かに命令されてきたの?」

イゴール「いいえ、自分の意思で来ました」

こぶしを握り締めるイゴール。

レーナ「あの子、あなたにそっくりね。すぐに分かったわ」

イゴール「マザーに処分されそうになった私を、あなたが救ってくれた。だから私は、またこの星に戻ってきた」

レーナ「それは誰かのため?」

イゴール「いいえ、自分のためです」

レーナ「じゃあ、自分で決着をつけないと」

イゴール「分かっています」

レーナ「変わってないわね。あなたのその危なっかしい優しさ」

イゴール「私がこの呪いを断ち切ります」

レーナ「危なくなったら必ず逃げるのよ」

イゴール「わかりました」

レーナ「気を付けて・・・」

F・O


〇アンドレイの部屋

アンドレイとサーシャが座っている。

アンドレイ「最近、羽虫が増えたんだよ、どんどん危なくなってきてるみたい。しばらく街には行かな方がいいかも」

サーシャ「そうなんだ・・・残念。君に会わせたい人が居るんだけど」

アンドレイ「そうなの?それは楽しみだなあ」

遠くから大きな破裂音が聞こえてくる。

アンドレイ「なんだろう」

外に出る2人。


〇ジャンクヤード・外観

暗い街が赤く染まっていて、煙が立ち上っている。


〇アンドレイの部屋・外

アンドレイ「大変だ!ジャンクヤードが家事だ!!」

サーシャ「レーナ!僕行って来るよ!」

駆け出すサーシャ。

アンドレイ「待って!危ないよ、サーシャ!!」

追いかけるアンドレイ。


〇ジャンクヤード

大量の羽虫たちが飛び交い、ロボットたちを攻撃している。

アンドレイ「どうしたっていうんだ、羽虫たちが暴走してる・・・」

レーナ「サーシャ!」

サーシャ「レーナ!無事だったんだね!」

レーナ「私は大丈夫。それより早く逃げましょう」

複数の羽虫たちが襲い掛かって来る。

アンドレイが羽虫に掴まってしまう。

サーシャ「やめて!!!」

サーシャの髪が銀色に光る。

羽虫がぼとりと地面に落ちる。

アンドレイ「あわわわ・・・何が起きたんだ」

サーシャ「無事かい?」

アンドレイ「ああ・・・うん、オイラは大丈夫だよ。サーシャ・・・その髪・・・」

レーナ「逃げましょう!」

サーシャの手をとるレーナ。

前方にミーシャが立ちふさがる。

ミーシャ「お前のせいだ・・・」

羽虫たちが襲い掛かるが、サーシャに近づくとコントロールを失ってフラフラと飛び去ってしまう。

レーナ「サーシャの力で羽虫たちの役割が失われている・・・」

アンドレイ「サーシャ・・・」

ミーシャ、体力を使い果たし倒れる。

ミーシャ「お前の・・・せい・・・」

サーシャの髪が黒色に戻る。

羽虫たちがコントロールを取り戻し、消火剤を撒きながら家事を消し止めて回っている。

サーシャ、ミーシャを抱き上げる。

サーシャ「行こう」

アンドレイ「サーシャ、その子は」

サーシャ「放っておけないよ」

レーナ「待って、サーシャ」

サーシャ「この子は僕なんだ、置いてはいけないよ」

レーナ「それは誰のための優しさなのか考えてね。どんな結果になっても、受け入れてね」

サーシャ、答えない。


〇アンドレイの部屋

ミーシャをベッドに寝かせるサーシャ。

サーシャ「ごめんね、君のベッドを使ってしまって」

アンドレイ「いいんだよ!ところでこの子、誰なんだい?」

サーシャ「この子は僕と同じマザーの子なんだ」

アンドレイ「そうなんだ・・・この子、君のせいだって言ってたけど」

サーシャ「多分、この子もマザーに捨てられたんだと思う、僕と同じように」

アンドレイ「可哀想に・・・」

サーシャ「ごめんね、迷惑かけて」

アンドレイ「全然いいんだよ!気にしないで!」

ミーシャの傍に座るサーシャ。

xxx

サーシャ「あのとき、どうやって僕を助けたの?」

アンドレイ「君はバイオロイドだから、大きな傷の修復にはタンパク質が必要なんだ。だから、固形食料なんかを探しに行ったよ」

サーシャ「僕、探しに行って来るよ。場所を教えてくれるかい?」

アンドレイ「オイラが行こうか?」

サーシャ「ううん・・・僕が行くよ。僕のやったことだから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る