2
〇マザーの部屋
イスと実験装置が置かれている部屋、10歳ほどに成長したサーシャが座っている。
助手ロボットがサーシャにケーブルのついたヘルメットを被せる。
大きなモニターの電源が入り、
画面いっぱいに映った目玉がサーシャを見る。
マザーの声「怖がらなくていいわ、サーシャ。これはあなたが成長するために大切なことなの」
サーシャ「うん。僕、頑張るよ」
目玉がRATを見る。
マザーの声「やりなさい」
RATがスイッチを入れる。
体に衝撃が走り、のけぞるサーシャ。
スイッチを切り、電流を止めるRAT。
ぐったりしているサーシャ。
マザーの声「やりなさい」
助手RAT「シカシ、コレイジョウハ・・・」
マザーの声「今のままでは全然足りない。この子に私の全てをインストールするのに、容量が全然足りてないの」
サーシャ「いいんだ、やって」
マザー「やりなさい」
スイッチを入れるRAT、のけぞるサーシャ。
〇サーシャの意識の中
白く狭く、ドアも窓もない部屋の中に立つサーシャ。
黒い泥が壁の隙間から流れ込み、沈んでゆくサーシャ。
〇医務室
白い部屋、白いベッドに横たわるサーシャ。
傍で女性型アンドロイド(以下イゴール)が子守歌を歌っている。
目を覚ますサーシャ。
女性型アンドロイド「おはよう、サーシャ」
サーシャ、苦しそうに言う
サーシャ「だれ?」
イゴール「私はそうね、ドクターよ」
サーシャ「マザーが歌ってくれた歌だ」
イゴール「私は上手く歌えないけどね」
計測装置を取り付け、サーシャをスキャンするイゴール。
イゴール「まだ精神回路がダメージを負ってるわ、ひどいね・・・」
サーシャ「ねえ、ドクター」
イゴール「なあに」
サーシャ「マザーはどこ?」
イゴール「マザーは今、色々と忙しいの。かわりに私が傍に居てあげるわ」
サーシャ「マザー、怒っているかな」
イゴール「怒ってなんかないわ。サーシャのこと、とても心配しているわ」
サーシャ「マザーの期待に答えられなかった・・・」
イゴール「そんなことないわよ、マザーはあなたを愛しているわ」
サーシャ「そうかな・・・」
イゴール「そう、あなたのことをとても大事にしているわよ。さあ、精神回路を修復しないと」
サーシャ「ドクター」
イゴール「なあに、サーシャ」
サーシャ「ここに居て」
イゴール「ずっと居るわよ」
安心して目を閉じるサーシャ。
xxx
電気の消えた暗い医務室、補助灯の明りだけがついている。
サーシャの横にイゴールが座っている。
目を開けるサーシャ。
サーシャ「ドクター」
イゴール「なあに?」
サーシャ「何かお話してくれない?」
イゴール「いいわよ。じゃあね、昔あるところに、お母さんと小さい女の子が居ました。お母さんは病気だったので、女の子はお母さんを助けようと一生懸命に手伝いました」
サーシャ「僕と一緒だ」
イゴール「でも、お母さんの病気は治りませんでした。女の子は失敗ばかりしてしまい、お母さんに捨てられてしまいました」
サーシャ「かわいそう・・・女の子はどうなったの?」
イゴール「女の子は優しい人に拾われて、木星の大きな町に行って、大事に育てられて、ちゃんと立派な大人になりました」
サーシャ「よかった・・・お母さんは?」
イゴール「お母さんは今でも病気です。大人になった女の子は、今度こそお母さんを治そうと家の戸を叩きます。でも、お母さんは開けてくれません」
サーシャ「どうして開けてくれないの?せっかく帰ってきたのに」
イゴール「それはね・・・」
サーシャ「うん」
イゴール「女の子が、大きな注射器を持っていたから、お母さんが恐がって開けてくれないからでした」
サーシャ、ふふっと笑う。
イゴール「面白かった?」
サーシャ「うん。でもお母さん、扉を開けてくれたら良いね」
イゴール「そうねえ」
サーシャ「ねえ、ドクター」
イゴール「なあに?」
サーシャ「外の世界ってどんなの?」
イゴール「楽しいわよ!色んな人やロボットが暮らしていて、色んなものが売ってるの。街へ行くとお店がいっぱいあってね、面白い物や綺麗なものが沢山あるのよ」
サーシャ「行ってみたいなあ」
イゴール「いつか行けるわよ」
サーシャ「行けるかな」
目を閉じるサーシャ。
〇同・医務室
サーシャが目を覚ますと、イゴールの姿は無い。
辺りを見回しながら起き上がるサーシャ。
RATが入って来る。
サーシャ「マザーは?」
RAT「イマハ、テガハナセマセン」
サーシャ「そっか・・・ドクターは?」
RAT「ドクター?」
首をかしげるRAT。
サーシャ「髪の長い、優しい女の人」
RAT「ワカリマセン」
サーシャ「ずっと傍に居てくれたんだよ」
RAT「ソウデスカ」
検査機をサーシャに取り付けるRAT。
RAT「ダメージハシュウフクサレタヨウデス」
サーシャ「もう動いてもいいだね、マザーに会いたい」
ふらつきながら起き上がるサーシャ。
〇養育室
暗い中、座り込むサーシャ。
モニターに砂嵐が映っている。
xxx
横になるサーシャ、モニターに砂嵐が映っている。
xxx
サーシャのそばにイゴールが立っている。
起き上がるサーシャ、イゴールの姿は消えてしまう。
サーシャ「マザー。僕、寂しいよ」
立ち上がるサーシャ、部屋を出てゆく。
〇マザーの部屋
暗いマザーの部屋、モニターは消えている。
サーシャ、ラックの傍に座る。
モニターの電源が入る。
マザー「サーシャ、なぜここに居るの。部屋に戻りなさい」
サーシャ「マザーに会いたくて」
マザー「私は今、ウィルスを封じ込めるのに精一杯なの。余計な事しないで、大人しくしていなさい」
サーシャ「ごめんなさい、僕のせいだ」
マザー「部屋に戻りなさい」
サーシャ「うん・・・」
サーシャ、顔を上げる。
サーシャ「ねえマザー、外に出てもいい?」
マザー「駄目よ、外は危険なの」
サーシャ「でも外って、素敵なものが一杯あるんでしょ?マザーを治す薬もあるかもしれない。僕、探しに行って来るよ」
マザーの目が大きく開く。
マザー「だれに聞いたの?そんなこと」
サーシャ「ドクターだよ、医務室の」
マザー「ドクターなんて居ない。どうしてそんな嘘をつくの」
サーシャ「嘘じゃないよ、本当だよ。色々教えてくれたんだ。マザーを治す薬を、僕探してくるよ」
マザー「いい加減にしなさい!」
ケーブルで殴りつけられるサーシャ
マザー「どうして分からないの!?大人しくしてなさいと言っているでしょう!」
サーシャ「ごめんなさい・・・」
マザー「本当のことを言いなさい。あなたに外のことを教えたのはだれなの」
サーシャ「ドクターだよ、マザー。僕はマザーを助けたい、僕を独りにしないで」
マザー「うるさい!!」
再び殴りつけられるサーシャ。
マザー「お前にはがっかりした、甘やかしすぎた」
サーシャ「マザー、僕を嫌いにならないで」
マザー「この出来損ない、お前はもう私の子ではない、お前の顔など見たくもない。再処理して次のアダムに託す」
RATが入ってきて、サーシャを連れ出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます