エピローグ2 ライバルでもお祝いはうれしい問題

 建一たちが帰った後、孝明は店を見渡す。


「コトコト、店のレイアウト、かわいすぎねえか?」

「これくらいの方が目立つって」

「もっとシンプルにして、あんまり商売っ気を出してない方が落ち着くと思うが」

「女性の意見も取り入れてさ、入りやすくしようよ」


 何を言っても聞かなそうだ。


「分かったよ。お前の店だしな」

「二人の店だよ。そうしようって決めたの、コメくんじゃん」


 そうだったか。


 三年前、「この店を継ぎたい」と言って、琴子は猛勉強したのだ。

 好美と同じ調理師の学校に通って。


 孝明が店の権利を引き継いで、二年後に琴子が調理師の資格を得た。


「がんばった方の意見を取り入れるよ」

「ありがと。でもさ、たまに作るコメくんの料理、あたし好きだよ」


 再び、引き戸が開く。


「お邪魔します」


 次に来たのは、琴子の友人たちだ。


「聞いてください琴子ちゃん! うちのミニ・チュモクパプが」


 好美が、スマホを見せてくる。


「冷凍食品になって全国展開したんでしょ?」

「よくご存じで!」


 HPを見せてもらうのも、もう二度目だからだ。


「好美ちゃん、店を守ってくれて、ありがとうな」


 孝明がまともに料理を作れるようになるまでの間、大将の店は親族である好美の母に任せていたのである。


 琴子が調理師専門学校に通っていた一年間、孝明は下働きをしつつ、店の管理をしていた。

 琴子が安心して店をできるように。


「私は、祖父が残した店を守りたかっただけです」

 好美は謙遜する。


 しかし、好美のアドバイスがあってこそ、今の店がある。


「高校時代のおにぎりみたく、両店でお惣菜をシェアしましょう!」

「そういう約束だもんね、楠さん!」


 楠家は弁当屋の二号店を、この近くにオープンさせた。琴子と共同経営している。


「これで、おじいちゃんも浮かばれます」

「そうだね」


「それはそうと、サクヤさんからもお土産があるんですよね?」

 好美が、隣に立つ元同級生に話を振った。


 サクヤは、照れくさそうにしている。

「二人とも、結婚おめでとうっ。一年遅れだけど」

 プンプンしながら、サクヤがお祝いの品をくれた。小さいタコヤキプレートだ。


「ありがとう。サクヤさん」


「ワタシより幸せになるなんて! それもあんた、お店の開業と同時に結婚なんて! しかも、お腹まで大きくなって!」

 サクヤが、琴子の腹を指さす。


 琴子が店に立つと同時に、二人は籍を入れた。

 だが最近、琴子が身ごもっていたと判明する。


「あはは。言い返せないや」

 お腹をポンポン叩きながら、琴子が苦笑いを浮かべた。


「あんたが産休している間に、ワタシが売り上げで追い抜いてやるんだから!」


 サクヤも、近くにあるコンビニの隣に、たこ焼き屋をオープン予定である。


「賑やかになるわね。でも、負けないから!」

「あはは。よろしくねお隣さん」

「ふん!」

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