第74話 思わぬ再会問題

 孝明は、琴子をブティックへと連れて行った。


 ドレス姿になった琴子は、まさしく女優と呼んでも差し支えない。

 わずかに化粧まで施すと、ただでさえ整った顔立ちがより美しさを増す。


「すごく似合ってる。キレイだ」


 心からそう思う。これだけの美貌でJKというのだから、シャレにならない。

 女優の娘という次元を超えていた。

 琴子の美しさは、琴子から滲み出ているのだ。


「ありがと。コメくんもカッコイイね」


「お、おう。サンキュ、な」


「何照れてるの? ウケル」

「うっせ、緊張してるんだよ」


 自身も、スーツに着替えている。ここまでめかし込むのは、友人の結婚式以来だろうか。

 それでも、こんなに身ぎれいにはしなかったはずである。


「でも、お金大丈夫なの?」

「平気平気」


 金銭面は全然、問題ない。蓄えはある。

 使い道がなくて余っているくらいだった。

 琴子のために使うなら、ちっとも痛くない。



「ちょっと今日は、趣向を変えるぞ」

「どこへ行くの?」

「オシャレなとこだ」


 車のエンジンを掛けようとして、街頭TVに目が写った。

 テレビの特番をするようである。そこに見覚えのある顔が。


「あっ、コトコト、見ろよ、あいつだ」


 映画の宣伝だった。

 フランスを舞台に、年下の男性と不倫して苦悩する女性の悲恋を描くという。

 


 その主演が、例の『大学を出て芸人になった男』なのだ。



「あいつ、見た目だけはよかったからな。ワイルドキャラをイケメン方面に振ったか。頭もいいから、いい演技すると思うぜ。いやぁ、すげえなあいつ」


 ずっと売れていなかった友の大出世が、自分のことのようにうれしい。腕を組んで、孝明は感慨にふけっていた。


 しかし、相手役の女優を見て、琴子の表情が曇る。


実栗みくり 真琴まこと、緊急帰国! アメリカに活動の場を移した実栗真琴さんが、新作映画を宣伝するため来日! 初の食レポに挑戦します! 乞うご期待!』


 画面に、実栗真琴という名の女優が写った。二〇年後の琴子を思わせる。

 化粧をした琴子は、まさに実栗真琴の生き写しと言っても差し支えない。


「すまん、コトコト」

 気まずくなって、孝明は琴子に詫びた。


「なんで謝るの?」

「いや、だって、あの人」


「関係ないよ。あの人は女優さん。それでいいじゃん」

 ケロッとした顔で、琴子は母親のことをそう語る。

「行こう、コメくん」

 孝明に振り返った琴子は、不機嫌さを少しも見せない。平静を装っている。


「おう、驚くなよー。今日はスカイレストランでディナーだからな」


「わーお!」

 つい先ほどまでムスッとしていたお姫様が、もう笑顔になっていた。

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