第71話 卵焼きは甘いかしょっぱいか問題

 目的地の、自然公園に着いた。 

 パーキングエリアに車を駐めて、少し歩く。


「グラウンドもあってね、陸上やサッカーの試合だってあるよ。運動部が体育大会で使ってたりするんだ」


 競技場を横切り、芝エリアへ。


 小さな子どもが走り回り、老人が小犬のリードを放して遊ばせている。

 

 琴子も撫でさせてもらっていた。


 ビニールシートを敷いて、昼食の準備を始める。


「さてさて、オープン」

 中身はサンドイッチだ。


「うん、スクランブルのハムエッグがトロットロで最高!」

「ありがと!」


 食パンだけでない。ベーグル生地のサンドもあった。中身はチリベーコンである。


「パンチが効いてていいな。食パンとうまいこと差別化されてる」


 おかずは鶏の唐揚げと、卵焼きだ。ミートボールもある。

 ウインナーはタコになっていた。

 デザートは、風邪の時に食べたウサギのリンゴだ。


「ハイ、どうぞ」

 フォークを卵焼きに突き刺し、琴子が孝明に差し出してくる。


「ん? 甘い」

「え、普通じゃん」


 ダシの味は利いているが、おやつに近い味だ。


「そっか。こっちの卵焼きって、甘いんだったな」



 こちらに越して以降、甘い卵焼きに馴染めなかった。

 意図的に卵焼きを食すのは避けていた気がする。


「関西はしょっぱいんだっけ?」

「甘くはないな、ダシの方が強い」


 でも、嫌な味ではない。これはこれで、抵抗なく食べられる。

 タコウインナーやミートボールを、琴子は立て続けに、孝明の口へ放り込んでいく。


「感想を言わせてくれ」

「どうぞどうぞ」

「詰めすぎ!」


 孝明がツッコまなければ、永久に口が閉まらなくなるところだった。


 口の中を飲み込む。一旦リセットし、本題へ。


「大変だったんじゃないのか?」


 これだけの量だと、早起きして作らないと間に合わないはず。


「別に。ミートボールは市販だし、タコさんは簡単だったし。時短技術だって、好美ちゃんから教わったんだよ」


 友達の名前が出て、孝明の箸が止まった。


「なあコトコト。オレ、本当にお前と付き合っていいのかな?」

「どうして?」

「その、なんだ。幸せすぎてさ」


 あえて口に出すと、嘘くさくなる。けれども事実だ。


「やだぁん、ちょっとうれしいんだけど?」

 両手に手を当てて、琴子が照れた。


「いやいや、真面目な話だからな」

 真顔になって、孝明は話を続ける。


「最近思うんだよな。オレさ、お前のことを好きになってよかったのかなって」

「え、もうキライになっちゃった?」

「そうじゃなくてさ、オレがコトコトをもらっていいのかなとか、こんなにも毎日が楽しくていいのかなって、ずっと考えるんだ」

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