第65話 男一人で洒落たカフェは入りづらい問題

「貴重なご意見ありがとうございます。では、ご健闘をお祈りいたします」

 取材を無事に終えて、サクヤが厨房にVサインを出す。


 琴子と好美が、サクヤにVサインを返した。


「では先輩、他の屋台も回りますよ」

「おう。あの、ありがとうございました。ごちそうさまでした」


 天城に引っ張られ、孝明は屋台に礼をいう。

 琴子が、「ありがとうございます」と、小さく挨拶をした。


 他の店も周り、今度こそ取材を終える。

 別に、学校内で琴子と二人きりになりたいという欲求はない。


 ただ、あんなよそよそいい琴子は、はじめて見た。

 学校生活にも馴染んでいると思う。


「お前もう、現地解散でいいぞ。後はオレがやる」

 天城は電車通勤なので、ここから駅に向かう方が早く帰れる。

 

「もうちょっとだけ、お付き合いします」

「そっか。じゃあ、適当にぶらつくぞ」

「お供します」


 ドッと疲れが溢れ出した。どこかでブレイクしてから帰りたい。

 天城も着いてくると言うので、遠慮せず引っ張っていく。


「おっ、あそこいいじゃん」


 校門を出てすぐの所に、洒落たカフェを見つけた。

 利用者は女性客が多い。しかも、分煙だ。

 昭和遺産に、見事に令和風なリノベーションがなされていた。

 

「そうですね、ちょっと休みましょう」


 腹が膨れている孝明は、レギュラーサイズのホットコーヒーのみで済ませる。


 まだ余裕があるのか、天城は、バナナチーズケーキと豆乳ラテのセットを頼んだ。


「はあ、学生相手は疲れましたね。先輩の作戦が活きました」

「何が?」


「私を緊張させないためでもあったんですよね、先輩」

 妙に、天城は拡大解釈していた。


「まあ、そう思うならそうだろ」

「先輩は変なところに気を回しすぎです。だから過剰にストレスを抱えるし、仕事も増えるんですよ」

 ここまで絡んでくる天城も珍しい。いつもなら、仕事が終わったら即帰りで、誰とも話したがらないのに。

 

「天城よぉ。お前さっき、わざとやったろ?」

 コーヒーで一息ついてから、孝明は天城を問い詰める。


「は? なんのことでしょう?」

 食べ終わったチーズケーキの皿をどけて、天城は取材レポートをまとめていた。


「とぼけるなよな。今日、JKに食べさせただろーが」

「ああ、あれですか。私なりに気を利かせたつもりだったのですが」

「はあ?」


 別に責めるつもりはない。


 しかし、周りの目もある。教員の目に触れたら、あまりいい印象を与えないのでは。


「非モテの先輩には、よい刺激になったでしょ」

 ふてぶてしい様子で、天城は豆乳ラテを飲んだ。口に白いヒゲを作る。


「それにしては、随分とJK慣れしているなーといった様子でしたが」


「気のせいだろ?」

 孝明は視線をそらす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る