第64話 公開あーん処刑問題

 サポートとして、琴子の隣には好美がついている。


「はいー。学園内の投票で賞をいただきまして、こうして出店できましたぁ」


 ギャルが割り込んで来た。彼女が例のギャルだろう。

 かたや琴子は一切会話に入ろうとせず、黙々と焼きおにぎりを鉄の串で回している。


「チュモクパプ、だっけ、楠さん?」

 ギャルが、クラスメイトである好美に声をかける。


 作業に没頭している好美は、うなずきだけを返した。


「えっとねー。『手軽に作れて、うまい』ってのがコンセプトなんだって! ね? 琴子」



「そうそう。それで合ってるよ、サクヤさん」

 少し余裕が生まれたのか、琴子の顔にも笑顔が。


「いえーい」

 サクヤと呼ばれたギャルが、Vサインを琴子に送る。


「これはお見事です。A賞のアイスマカロンと一票差だったとか」

 焼きおにぎりを楊枝で刺して、天城はパクリと口の中へ。


「うん、鮭フレークですね。焼いて風味が出てて美味しいです。先輩もどうぞ」


 孝明はスマホを構えているため、手が使えない。


「そこのあなた、先輩に『あーん』してあげてくれませんかね?」



「えっ……」



 天城が、琴子を指名した。



「おい、生徒に食わせるのかよ?」

「いいじゃないですか。JKと戯れる機会なんて、めったにありませんよ」


 余計な気を回した上に、セクハラじみた発言である。


「じゃ、じゃあ。口を開けてください」

 いつもと違う声のトーンで、琴子が発した。


 学校だと、こんな雰囲気なのか。

 いつもと違う琴子の様子に、若干戸惑う。


「はい」

 平静を装い、顔を近づけた。


 お互い他人行儀になって、孝明は琴子から、おにぎりを食べさせてもらう。



 事情を知っている好美が、半笑い一部始終を見届けていた。


 確かにうまい。

 試食の時は冷めていて、米が固くなっていた。

 作りたてというだけで、こうも違うのか。

 これで出されていたら、序列はどうなっていたか分からない。


「うまいっしょ、おじさん」

「はい。とっても」

 サクヤからおじさんと呼ばれても、孝明はなんとか平常心を保つ。


「でっしょーっ!」

 天城の肩を、サクヤがバシバシ叩く。


「珍しさではー、こっちが勝ってたんだけどー、向こうとは味がダンチだったのねー。パリパリ食感のチョコがウケたっぽくてー。ウチらはアイデア勝負だしー。でも実質Aっしょ! 生徒会からも評判いいしー」

 サクヤは目立ちたがり屋なのだろう。率先して取材に応じていた。


 実際の発案者は好美と思われる。

 彼女の手際だけ、他の生徒と頭一つ以上抜けていたから。

 しかし、インタビュー慣れしていないらしい。マイクを向けても顔を伏せられた。


 その度にサクヤがマイクを取り上げ、一人でしゃべっている。


 見事な役割分担だ。

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