第62話 私立の文化祭は気合いが入っている問題
「はあ? オレが代役で行けと?」
自分を指さして、孝明は渋い顔になる。
ついに一一月を迎え、琴子の学校で文化祭が開かれるという大事な時に、大問題が発生した。カメラマンの津村が、インフルエンザで倒れたらしい。
「和泉くん、あなたが撮影班として、学校へ行ってちょうだい」
「他のヤツらは、替えが効かないんですね?」
「ええ。私を含め、みんな別の取材へ行くわ。お酒も口にするから、車はあなたが好きにしていいわ」
少数で運営している以上、孝明も向かう必要がある。
後輩の育成をしたい孝明にとっては、あまりありがたくはない。
「すいません、和泉先輩。ご迷惑をおかけします」
「迷惑かけたのは津村だ。まあ、あとは撮影だけというお膳立てだけしてる分、あいつもよく仕事をしたよ。相当、無理していたんだな」
取材に回る店の位置や、衛生面の調査、駐車場の確保など、津村なりに情報を集めているようだ。
「機材などは」
「スマホで十分だ。プロ用のカメラをドンと向けると、生徒が身構えちまうぞ。本来の文化祭らしさを楽しめないだろ。はしゃぎ回る危険性も高い」
できれば、生徒たちには緊張させたくない。自然体、等身大の学生たちを撮りたかった。
「取材用の料理は、事前にしっかり撮影済みなんだ。文化祭の楽しい雰囲気だけを撮ろう」
「分かりました。それなら軽量で済みますね」
車を動かし、
学校の前には、黒山の人だかりができていた。
「これ、車が入れるのか?」
「大丈夫です。警備のスタッフが誘導してくれます」
首にかけたIDカードを見せて、撮影クルーであると警備員に告げる。
「よかった。こっちはまだ大丈夫だな」
空いている場所に入れてもらう。何度も取材しているから慣れたモノだ。
至る所でソースの焦げる香りが漂い、風船が舞い上がっていた。
グラウンドでは、ヘビメタが演奏している。
「どれも、本格的ですね。まるで、ちょっとしたB級グルメフェスの勢いですよ」
「学校じゃなかったら、ビールまで売ってるだろうよ」
実際にドリンクサーバーを背負って、コーラを配っている生徒までいた。
サーバータンクには、舞台でやる出し物の広告が。なるほど、合理的だ。
「お金掛かってますねぇ。私の学校では、まずありませんでした」
「オレもオマエも、公立高校の出だもんな」
「ショボかったですよねー。カチカチの焼きそばを売っていたのを思い出します」
孝明も、似たようなモノだった。
三年連続でやる気のないクラスにあたり、展示ばかり。
もう何を公開していたかも覚えていない。
そんな孝明からすると、塔山台の文化祭で頑張る生徒たちの姿は、活き活きと輝いて見える。
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